テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ruruha
805
M🍑🦖⚡️
「……ってなわけで、嫁さん迎えにきました。おーい、多串くーん? 朝帰りならぬ朝凸ですよー」
翌朝。
俺は昨夜の決意通り、屯所の黒い立派な門を堂々とくぐっていた。
別に悪いことはしていない。
付き合って一ヶ月の恋人の安否確認だ。
ちょっとばかし、その恋人の人格が二次元の住人に完全汚染されているだけである。
「あァ? 何言ってんでィ旦那。朝っぱらから縁起でもねェ顔ぶら下げやがって」
気だるげに鼻をほじりながら現れたのは、サド丸こと沖田総悟だった。
いつものようにバズーカを肩に担ぎ、死んだ魚のような目で俺を睨んでくる。
「いやいや総一郎くん、縁起でもねェとはご挨拶だな。俺ァ昨日、お前んとこの副長から『拙者、銀氏の攻め属性が怖くて夜も眠れないでござる』的な、文字通り熱いラブコールを受けちま ってさ。様子を見に来てやったってわけ」
「旦那、総悟でさァ、……へェ。
土方コノヤロー、ついにオタクのまま旦那に夜這いでもかけやしたか。いっそそのまま二次元の彼方に消し飛んでくれりゃあ、俺が副長の座に座れるんですがねィ」
「いや、夜這いじゃなくて普通にフラれて帰っていったわ! ってかお前、知ってんな? あいつがトッシーになってること」
「知るも何も、今あの中で大変なことになってやすぜ」
沖田が親指で指し示したのは、副長室へと続く廊下だった。
そこから、何やら聞き捨てならない大音量の音楽と、男たちの怒号が聞こえてくる。
「おいトシィィィ! 飯の時間だぞ! 立て、立つんだトシィィィ!」
「 拙者、今はアニメの第3期一挙放送を録画で追わねばならんのでござる! 邪魔をするな近藤氏ィィィ!」
「誰が近藤氏だァァァ! お前、真選組鬼の副長としての誇りはどこへやったんだァァァ!」
近藤の絶叫と、完全にオタク全開のトッシーの声。
どうやら屯所の中は、朝から世紀末のような騒ぎになっているらしい。
「ほらね。あんな粗大ゴミ、さっさと万事屋で引き取ってくだせィ。旦那の夜のテクニックで、あのオタク人格ごとイかせて元に戻してやりゃあいいでしょう」
「おい、サド。サラッと18禁な解決策を提案すんじゃねーよ。こちとら純愛一ヶ月目なんだよ!」
口ではそう言い返しつつも、俺の足は自然と副長室へと向かっていた。
ガラッ! と、乱暴に襖を開ける。
「よォ、多串くん。朝の御挨拶に伺いましたよっと」
部屋の中は悲惨なことになっていた。
散らばるアニメのグッズ、液晶画面にしがみつく土方の体、そしてそれを涙目で揺さぶる近藤。
俺が姿を現した瞬間、液晶画面を凝視していたトッシーが、ビクゥッと肩を跳ね上げてこちらを振り返った。
「さ、坂田氏ィィィ!?」
顔を真っ赤にして、持っていたフィギュアで即座に顔を隠す。
昨夜、布団の中で散々思い返した、あの鋭い切れ長の目。
それが今は、捨てられた子犬のように潤んで、俺を怯えたように、だけどどこか嬉しそうに見つめている。
「……てめ、本当にまだトッシーのままなのかよ」
俺が呆れたようにため息をついて一歩近づくと、トッシーはズルズルと後ろへ後退りした。
「な、なぜここに!? 拙者、昨夜は坂田氏のセクシャルな威圧感から逃れるために、必死で二次元のバリアを張っていたのでござるよ!? それなのに、朝からそんな、リアル充実系のオーラを放って拙者の聖域に土足で踏み込んでくるなんて……っ!」
「うるせーよ。聖域も何もここ屯所だろ。ほら、そのフィギュアどかせ」
俺はしゃがみ込み、トッシーの顔を隠しているフィギュアの箱を、ぐいっと力任せに引き剥がした。
露わになった土方の顔。
頬が薔薇色に染まり、呼吸が少し荒くなっている。
「……あ」
トッシーが小さく声を漏らす。
その瞬間、俺の脳裏に、夜の布団の中で
「……ぎん、とき……」
と掠れた声で俺の名前を呼んでいた、いつものあいつの姿が重なった。
「お前さ、昨夜『嫌わないで』とか言ってたよな?」
「ひえっ!? そ、それは拙者のなかの、その、リアル土方の防衛本能が言わせたというか……!」
「いいから聞けよ」
俺はトッシーの、いや、土方の引き締まった手首を、少し強めに掴んだ。
驚いて目を丸くするトッシー。
背後で近藤が
「え? なにこれ? 昼ドラ?」
みたいな顔で固まっているが、そんなものは知ったこっちゃない。
「俺は、オタクのお前を嫌いになったりしねーよ。……だけどな」
俺は顔を近づけ、あいつの耳元で、近藤たちには聞こえないような低い声で囁いた。
「いつものツンツンしたお前が、俺の腕の中で、プライド全部なくして泣きそうな顔で俺の名前呼ぶ瞬間……あれがねーと、俺ァ糖分不足で死んじまうんだわ。だから、早く戻ってこい、トシ」
「っ……、あ……」
手首を掴まれた土方の体が、ビクンと小さく震えた。
トッシーの 怯えた目の中に、一瞬だけ、いつもの鋭い、だけど俺にだけ見せる熱を孕んだ「土方十四郎」の光が混ざったような気がした。
「……ぎ、ん……と……」
「お?」
かすかに唇が動いた、その時。
「おーい、二人して何朝からイチャついてんでィ。旦那、そんな生ぬるい方法じゃあ土方コノヤローの目は覚めやせんぜ。ここはやっぱり、これでドカンと一発……」
空気を全く読まない沖田が、嬉々としてバズーカの引き金に指をかけた。
コメント
1件
第3話読んだよ〜!もうね、朝から屯所大騒ぎで笑った😂 トッシーがフィギュアで顔隠して照れてるところ、可愛すぎて保護案件だわ…!!銀時の「糖分不足で死んじまう」発言、エモすぎて胸がギュッてなったよ😭💕 沖田の邪魔が入るところで次回に続く感じ、続き気になりすぎる!!