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「よぉ、久しぶりだな。レン。」
門口に立つ小柄な老人は、涼しい顔で煙管をふかしていた。
牛鬼が深く頭を垂れるのを横目に、レンは目を見開く。
「……ぬらりひょん。」
その呼び方に、老人はわずかに目を細める。
「じいちゃんとは呼んでくれんのかのぉ?」
からかうような調子に、レンは胸の奥がちくりと痛んだ。
――呼べるはずがない。祖父と過ごした記憶など、一度もないのだから。
「……呼ぶ理由がないもの。」
背筋を伸ばしてそう答えた彼女の姿に、ぬらりひょんはゆるりと笑みを浮かべる。
「牛鬼、お前の庇護のもとで育ったなら……礼儀正しく育つのも道理じゃのぉ。」
「恐れ入ります。」牛鬼が短く答える。
「……それにしても。」
ぬらりひょんの視線がレンに戻る。
「山吹によう似とる。まるで若い頃の写し鏡じゃ。」
その一言に、レンの心臓が強く脈打った。
母の面影を知られることが、なぜか怖かった。
「牛頭丸、馬頭丸。お前たちも大きゅうなったわ。」
「へへっ、俺らはずっと姫さんの護衛っすから!」
「……まあ、面倒見てるって言った方が正しいけどな。」
少年たちの軽口に、場の空気が少し和らぐ。
しかし、ぬらりひょんは煙管をくゆらせながら本題を切り出した。
「……さて。レン、お前に会いに来たのは他でもない。」
「……なんの用なの、総大将。」
その呼び方に、ぬらりひょんは目を細めて笑う。
「リクオに会わせたいんじゃ。」
「必要ないわ。」レンの声は震えていた。
「だって……父上にすら、私は知られていないのに。リクオに会ったって、何になるの?」
ぬらりひょんは静かに彼女を見つめた。
「だからこそ、じゃ。お前が一人で背負わんでもええ。」
ぬらりひょんの穏やかな声に、レンの胸の奥が揺れる。
けれど、その揺らぎを必死にかき消すように声を張り上げた。
「――要らない!」
牛頭丸と馬頭丸が驚いて目を見開く。牛鬼すら、わずかに眉を寄せた。
「私は……父上に知られていない子よ。そんな私が奴良組に行ったって、居場所なんてない!
私は、牛鬼と牛頭丸と馬頭丸がいてくれれば、それでいいの。三人がいれば――もう何もいらない!」
吐き出した言葉は鋭く、震えていた。
レンは拳を握りしめ、睨むようにぬらりひょんを見据える。
老人はしばらく煙をくゆらせ、ふっと口元を緩めた。
「……やはり、山吹に似とる。強情なところもそっくりじゃのぉ。」
「――っ!」
からかわれたようで、返す言葉を失う。
ぬらりひょんは立ち上がり、背を向けた。
「まあええ。すぐに答えは出さんでもいい。いずれ分かる時が来るじゃろうて。」
残された煙の匂いだけが、縁側に漂っていた。