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めっちゃ好きです! 全ての表現大好きです!心に刺さりました!
叫び声と爆発音が耳を劈く
目の前には今にも崩れそうなRobloxianの家があった
崩壊し始める家から1人のRobloxianが顔を出す
額に汗を滲ませ一生懸命もがいているが、全く前に進んでいない
瓦礫に足を挟まれて身動きが取れないようだった
自分の横を何人もの人が駆け抜け、我先に助けようと躍起になり、皆が腕を伸ばした
一人、また一人とRobloxianの手を掴もうとした
動揺して動けなかったが、我に返り自分もそのRobloxianの元へ駆け出す
その瞬間
家は完全に崩れ落ち、データの残骸のように姿を消した
這い出ようとしたRobloxianごと
元から何も無かったかのように消え去った
昨日の夜にセットした目覚まし時計が鳴り響く
まだ眠気の覚めない瞼を重く持ち上げ、目覚まし時計を止める
部屋はしんと静まり返る
まだ布団の上にいるTaphは座った姿勢のまま、引っ張られるようにまた瞼を閉じた
今日は何か、用事があった気がする
なんだったっけ
セメントで固められたような瞼はなかなか開かない
心臓の鼓動が徐々に早くなる
あっ
今日入社面接だ
小さい時からキラキラして見えた憧れの組織
そこに入社できるかどうかが今日にかかっている
先ほどまでフラフラしていた姿勢を正し、やっとセメントを打ち破った
Taphは時計に目をやる
8:00
早起きは得意なTaphだが、昨日の夜緊張のあまり眠りにつくのが遅かったので少しだけ寝坊してしまった
いけない
このままだと電車に遅れる
Taphは布団から飛び降り、バタバタと支度を始めた
パジャマを脱ぎ、サクッと朝風呂に入る
トーストを焼いているうちに きちっとしたスーツへ着替えを済ませ、荷物をまとめた
カバンを弄りながら机へ手を伸ばす
視線はカバンに向けたまま、机にあるスマホを取ろうとした
コツンとスマホではないものが手にぶつかる
顔を上げて手にあたった物を見ると、それは筆談で使うメモ帳だった
…持ってった方がいいかな
Taphはメモ帳を手に取り、ボールペンと一緒にカバンのポケットに入れる
カバンを閉めて肩に掛け、立ち上がると同時に
いい匂いを漂わせるトースターが鳴った
-次の方、お入りください
自分よりも遥かに背丈も筋肉もあるRobloxianが
カチコチに緊張しているTaphを尻目に前へ進み出た
「失礼します」
ノックをしてからドアノブに手をかけて部屋へ吸い込まれていく
微かに話し声が聞こえる
Taphはカバンからメモ帳とボールペンを取り出して握りしめた
大丈夫…大丈夫
もう書類審査は突破してるし一次試験も合格した
向こうも自分が喋れないことは知ってる
イメージ練習もたくさんしたし、いろんな質問に答えられるよう何通りも返事を考えてきた
そんなことを何度も言い聞かせてるうちにドアが開く
-次の方、お入りください
Taphの肩がビクンと跳ねた
パイプ椅子から立ち上がり、ドアの前に立つ
コンコン
『どうぞ』
面接部屋に入ると、ヘルメットを被った人物が奥に座ってこちらを見ていた
彼は誰もが知るRoblox社の創設者であり、現社長のBuildermanだ
優しそうな目元を細め、椅子から立ち上がった
『えっと…確かこうだったはず…』
彼は不慣れながらTaphに手話で挨拶をした
まさか手話を使ってくれるとは思わず 一瞬固まるが、すぐにTaphも手話を使って挨拶を返す
『ええと…ん〜…』
Buildermanはぎこちない手話で『どうぞお掛けになって下さい』と手を動かす
Taphは失礼しますと手話を返して席に座り、メモ帳を開く
Buildermanもポケットからメモ帳とペンを取り出し、キャップを開けた
その様子を見たTaphは視線をメモ帳に落とし、ペン先を走らせた
(お心遣い感謝致します )
(ですが、私の耳に異常はありませんので筆談でなくて大丈夫です)
(わざわざ準備してくださったのに、申し訳ありません)
整った綺麗な字でそう書くと、メモ帳をBuildermanの方に見せる
『えっ!ああ…こちらこそすみません』
『喋れないってことから、勝手に耳が聞こえないんだと解釈してしまって…』
Buildermanは申し訳なさそうに頭をかいた
『それでは、気を取り直して面接を始めましょう』
『まず職務履歴を含めた自己紹介をお願いします』
Taphはメモ帳のページをめくり、サラサラと書き始めた
カチカチ
キィ…
定まらない焦点の中、フラフラしながらドアを開ける
玄関に入った瞬間膝から崩れ落ちた
どうしよう絶対落ちた
Taphは今にも泣き出しそうだった
Taphは面接中にとんでもないヘマをやらかした
窓から飛び込んできたBuildermanの友人であるTelamonを不審者と勘違いし、爆弾を投げつけてしまったのだ
自分の経歴を話す時、実際に自分で制作した手製爆弾をBuildermanに見せていた
Buildermanの関心を得れたようでBuildermanは熱心に質問をし、Taphも膨大な爆弾の知識で完璧に答えてみせた
口で話さなくともTaphの楽しそうな様子が伝わったのか、Buildermanは遠慮を惜しまず次々に質問を投げかける
Taphが質問の返事を考えながらメモ帳の新しいページを開いたとき、
Buildermanの後ろから窓ガラスが割れる音がした
ピシピシ…パリ…ガシャン!!!!
Buildermanが勢いよく後ろを振り向く
Taphもメモ帳から顔を離して青ざめる
〈よっ!Builde-〉
〈っ!?!〉
勝手に身体が動いた
気がついた時にはもうTelamonに向かって爆弾を投げていた
Telamonは一瞬顔を強ばらせたが、素早く剣を引き抜く
刃の面を上手く使って爆弾を窓の外へ打ち上げ、Telamonは羽を翻し爆弾の方へ飛んでいく
目にも止まらぬ速さで爆弾を切り刻み、Telamonは爆風と共にまた面接室の窓へと降り立った
〈…驚いた〉
〈で、今何してるんだ?〉
『…で?じゃないだろ!』
Buildermanは物凄い形相でTelamonを睨んでいた
〈あー…もしかしてまだ面接終わってなかった…り…〉
『…ああ、まだ終わってない』
『それにお前また窓ガラス割りやがって…』
『入口から入れと何度言えば分かるんだ!!!』
〈すまんBuilder用事思い出した 〉
〈修理費はまた俺の給料から引いといてくれ〉
〈じゃ〉
『おい!逃げるなこのバ-』
『ん゙ん゙…すみません』
Taphはこの光景に呆気に取られていた
BuildermanはTaphの方へ向き直り、申し訳なさそうな表情でTaphに話しかける
『ガラスの破片が飛んできたりしていませんか?』
『あとは煙を吸い込んだとか…』
Taphはブンブンと首を横に振った
ようやく何が起こったか理解したTaphの顔はみるみる赤くなる
後ろに吹き飛ばされたメモ帳とペンを拾い、必死に文字を綴る
(爆弾をご友人に投げつけてしまい本当に申し訳ございませんでした)
(不審者だと勘違いして)
(すみませんご友人に向かって失礼なことを)
(ごめんなさい)
焦りすぎて自分でも何を書いてるか分からなくなっていた
Buildermanは震えるTaphの肩に手を置き、背中を優しく撫でた
小さい時から憧れ続けた人の手は豆だらけだった
大きくて温かかった
『謝る必要なんてありませんよ』
『あれはこちらの失態です』
『元はと言えば…』
『…すみません、この話はやめましょう』
『今はあの窓を直さないと…』
Buildermanは疲れたような笑顔を浮かべた
BuildermanはTaphのカバンの煤を払い、Taphに手渡した
Taphは小さくお辞儀をしてカバンを受け取る
『結果は後日、そちらへ連絡致します』
『本日はありがとうございました』
Buildermanの顔とセリフがなんども頭の中を行き来する
Taphは身体を引きずってようやくソファーに寝っ転がった
深いため息をついて開け放してある作業部屋に目をやる
作りかけの爆弾が作業机に転がっていた
火薬の匂いがプンと香るその部屋はTaphの好きが詰まったかけがえのない思い出だ
Taphはソファーから起き上がり、作業部屋の前に立つ
バタン
Taphは作業部屋の扉を閉めた
今は見たくなかった
4日が経ち、スマホに1件のメールが入った
Taphはメールに気づき、スマホの画面を開く
【️Roblox社】
その文字を見ただけでTaphは背筋が凍った
震える手で恐る恐るメールを開く
Taph様
お世話になっております。
Roblox社の採用担当□□です。
先日は当社の社員採用試験の最終面談にお越しいただきまして、誠にありがとうございました。
厳正な選考の結果、Taph様を当社社員として採用とさせていただくことに決定いたしましたので、取り急ぎご連絡いたします。
つきましては、入社にあたりご提出いただく書類を本日郵送いたしますので、期限までに同封の返信用封筒でご返送くださいますよう、お願いいたします。
なにかご不明な点がありましたら、担当の〇〇までお気軽にお問い合わせください。
Taph様と一緒に働けることを、社員一同、心より楽しみにしております。
Taphの目からは涙がこぼれた
嬉し涙だ