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百日草の同期

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百日草の同期

23 - Case3-03 意識するも、しないも

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2024年12月14日

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防音の部屋でも、向かいの部屋や隣の部屋の音が響いてき、時々凄い耳鳴りがした。

それでも、そんな音や声など気にならないぐらい美しい神津の歌声を聞いていると、汚れた心が全て洗われるような気がした。



「ユキユキ凄~い!」

「っけ……洋楽かよ」



パチパチと盛り上げ隊の颯佐は拍手を送り、高嶺は神津の旨さに嫉妬したのか舌打ちを鳴らしていた。

神津は歌い終えると、俺の隣に座りマイクを机の上に置いた。



「ね? どうだった、春ちゃん」



歌い終えてやりきった感を顔に貼り付けながら、神津は先ほどの歌の感想を求めてきた。

俺の知らない洋楽だったが、その発音といい前に映し出されている採点用の楽譜を見れば音が外れていないことは一目瞭然だった。点数も九八点と高得点で、神津の歌の旨さは機械も認めているようだった。

俺は、グビッとメロンソーダを飲みながら、神津をちらりと見る。



(何しても絵になるよな……ほんと、出来ないことねえんじゃねえか?)



そう疑いたくなるほどに、完璧な神津を見ているとこんな男が自分の恋人なのかと疑いたくなる。何というか、俺が隣にいていいのかと。



「上手かったぞ。正直驚いた」

「春ちゃんに褒められちゃった」



素直な感想を述べると、神津は安心したように笑った。

神津は背伸びをしつつ、何故か俺のメロンソーダの入ったグラスを手に取ると迷いもなく口をつけた。俺は、あっけにとられつつ某パンヒーローの歌を歌い出した颯佐を見ていた。幼稚すぎるだろ、つか、何でそれを入れた? と反論する余裕は俺にはなかった。

間接キスをした神津の方が気になって仕方がなかったからだ。

神津は、そのまま飲み干して空になったコップを机の上に置き、俺と目を会わせてきた。すると何を思ったのか急に立ち上がってこちらに向かってきたのだ。

そして、すぅ……と俺の太ももを指でなぞる。くすぐったいような、それでいて厭らしい手つきに俺は身体を捻る。



「もしかして、意識しちゃった?」

「何……を?」

「今の間接キス」



そう口にされ、俺の体温はブワッと上昇した。きっと真っ赤になっているだろう。恥ずかしくて俯けば、神津はクスリと笑って俺の顎に手を当てて無理矢理視線を合わせた。

目が合うと、神津は楽しげに微笑む。

その瞳は妖艶で、目がそらせない。



「意識してくれたら嬉しいな」



(意識って、そんな……)



小さい頃は良くやっただろうに、今になって二三になって間接キス云々で意識も何もないだろうと思った。それでも、煩いぐらい心臓がなる為、意識しているんだと分かる。

黙っていれば神津は俺の手を取って、それを自らの頬に当てた。



「春ちゃんも、ドキドキしてない?」

「……ッ!」



(お前のせいでな!)



と叫びたい気持ちを抑えて、俺は神津から顔を逸らした。


神津は、そんな俺の反応を見てクツクツと笑うと、俺の手を離し俺の唇を親指でなぞる。

このままキスでもされるのだろうかと、期待している部分もあり俺は目を閉じる。



「あ~歌い終わった。って、あれハルハル達何してんの」

「空、あれは見ちゃダメな奴だ」

「わーミオミオ、前見えなーい」



外野が少し、いやかなり煩かったが、俺はギュッと目を閉じてその瞬間を待った。だが、幾ら立っても彼の唇が俺の唇に触れることはなく、恐る恐る目を開けてみれば、何処か寂しげなめをした神津が心配そうに俺を見つめていた。パッと手を離し、空になった俺のグラスと自分のグラスを持って立ち上がる。



「お、おい、神津」

「ジュース取ってくるね。春ちゃんの番までには戻ってくるから」



と、神津はにこりと微笑んだ。


そうして、ドアノブを器用に開けて部屋を出ていこうとすれば颯佐が「オレも行く」と立ち上がり、高嶺の空になったグラスを持って神津の後に続いた。

ぱたりとドアが閉められると、部屋にはカラオケボックスでしか流れないようなCMが流れ始める。残ったのは俺と、高嶺だけ。気まずい空気が流れ、俺もトイレにでも行こうかとソワソワしていると、高嶺の方から声をかけられた。



「お前ら、倦怠期なの?」

「は、はあ!?」



いきなりそんなことを言われ、俺は思わず立ち上がってしまった。

高嶺はタッチパネルで次の曲を選びつつ、「図星かあ」と苦笑いを浮かべた。俺は、そんな高嶺に腹を立てつつ、取り敢えずソファに座り直すことにした。こいつのペースに乗せられたくないという意思を表示し、高嶺の方を見る。



「倦怠期じゃねえし」

「じゃあ、何だよ。完全にキスする流れだっただろうが」

「そ、それは……いや、お前らの前ではしねえだろ」

「どうだか。明智の束縛彼氏、そういうの気にしないタイプだろ、絶対」



言い返す言葉がない。

神津だったらやりかねないと、納得しつつ、俺はじゃあ何で? と先ほどの事を思い返す。

嫌だったのか。だが、あの不安そうな表情を見ていると何かが違う気がした。神津が何を思っているか分からないが、あんな顔をさせているのは自分ではないかと思ってしまったのだ。



「ああ!クソッ!」

「ここ、禁煙だぞ、明智」

「ッチ……」



箱からタバコを取りだしたところで、高嶺に止められ俺は舌打ちを鳴らすしかなかった。

イライラする。

神津の態度に、俺の不甲斐なさに。



「つか……お前の方もどうなんだよ」

「どうって、何が?」

「颯佐と……お前、颯佐の事好きだろ?」



そういえば、高嶺はタッチパネルを操作していた手を止めて「そうだなあ」と何処か遠くを見るように顔を上げた。

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