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「お前にはいつか話さなきゃいけないとは思っていた。だが、いつの間にか私たちのせいでお前は結局ずっとフラフラとした生活を送るようになってしまった。だからそれを話す前に、いつか誰かを守れるしっかりした人間になれるように、私の会社に入らせて一から鍛え直そうと思ったんだ」
「だから急にオレを縛り付けるようになって厳しくしてたってワケか・・・」
「お父さんと約束してたのよ。私がもし夢を叶えることが出来たら、それからは樹はお父さんに任せるって。本来はあなたは立派なお父さんの元で育ててもらうはずだったのに、私の我儘で側にいてもらってたのだから」
「オレは母さんの側にいれて良かったって思ってるよ。実際フラフラしてたのは多分オレの甘えだったんだろうと思うし。まぁ実際やりたいこともなかったし将来も何も期待とかしてなかった。その場その場でなんとなく生きてたんだよね。だから親父の会社に入ることになっても、正直最初は全然やる気もなかったし、会社継ぐとか想像も出来なかったし」
でも結局こうなることはどんなオレであってもきっと決まっていて。
それはずっと反抗し続けて来たオレなんかが、覆せることでもなく、それどころか親父と母親がオレを想って用意してきた人生で。
そりゃ何してもオレはこの人生を歩むしかなくて、そしてやっぱりどうしても透子に出会う運命だったのかもしれない。
「それが、いつの間にかお前が変わったのは、その望月さんの影響か・・・?」
「そう。どうしようもないオレを救ってくれたのが彼女。新人研修の時に、彼女がオレの指導についてくれて。正直まだその時のオレは当然やる気もなかった。でも適当に生きてたオレを、彼女は否定することなく、オレの気持ちに寄り添ってくれた。今のオレでいいんだって、自分に嘘ついてムリして生きなくていいんだって。その時に聞いたんだよね。彼女が母さんのブランドのネックレスから頑張れる力をもらえてるって」
「それがさっき言ってたうちのネックレスね?」
「そう。それ言ってた彼女がすげぇ輝いててさ。母さんが夢見て頑張って来た想いがさ、ホントにそうやって届いてるってわかって、めちゃめちゃ感動して嬉しかった。こんなに笑顔にして幸せな気持ちにさせて頑張れる力になってるんだなって。それでオレにも自分みたいにそんな頑張れる理由を探してみたらって言ってくれた。なんかさ、それでホントにオレ一瞬でその時世界が変わったんだよね。それから彼女がオレの頑張る理由になった。彼女の存在で初めてオレは変わることが出来た」
もうその言葉のすべて。
オレのすべては全部透子だから。
ずっと苦しんでたことが、透子と出会ってすべて救われて。
たった一言で、たった一瞬の出会いで、今までの人生が価値観が変わった。
誰も信じられなかったオレが、誰にも甘えられなかったオレが、初めて自分以上に大切だと思った人。
家族の大切さを、初めて気付かせてくれた人。
そしてこれからずっとこの先家族になりたいと思った人。
一生かけて守りたいと思った人。
「そこからか・・・お前が急に別人のように仕事に力を入れるようになったのは」
「そう。彼女の隣に胸張って立てるように、そこから自信も実力もつけた」
「正直私もお前がここまで変わるとは思ってなかった」
「全部彼女のおかげ。彼女がいるから今のオレはいる」
透子がいなければ今のオレはいない。
自分なんて所詮変えられないって思ってた。
変えるつもりもなかった。
だけど、透子と出会えたことで、オレのすべてが変わった。
そして今こんなにも自信を持って親父の前に立ててる自分がいる。
自分自身にも、透子への気持ちにも、どちらもこんなにも自信を持てる。
今の自分を親父にも見てもらいたい。
こんなにも変われた今の自分を。
ようやく親父の息子として自信を持てたから。
「なるほどな・・・。正直お前に会社を救ってもらうなんて夢にも思わなかったからな。あの時はお前をあのまま結婚させることで会社もお前も救うと思ってた」
「オレを救うって・・・?」
「私と母さんは幸せな結婚生活を送れたとは決して言えなかった。だから、お前には同じ道を歩んでほしくなかったんだ」
「だからって、望まない結婚させられたら意味がない」
オレの意見はいつでも無視で、そういう相手ばかり連れて来られても何も変わりはしない。
今は誰より想っている透子がいる。
透子以外、結婚は考えられない。
「樹。それはあなたが今大切に想える相手が出来たから言えるんじゃないかしら?」
「母さん、それどういう意味・・・?」
「以前までのあなたはどうだった? 本当に誰か一人でも大切に想える女性はいた? 一生共にしたいと思えるほど愛しく想えた女性はいた?」
「いや・・・それは・・・」
それを言われて言葉に詰まった。
確かに今はこんな風に自信を持って言い返せるけど、昔のオレは同じように言い返していてもそれはただ反抗していただけで。
親父の思い通りに動くのが嫌で、勝手に決められた相手と結婚するのが嫌で、何もかもがただ嫌で反抗していた。
だけど、それは今みたいにその人じゃなきゃいけないっていう訳ではなくて。
透子が現れるまではそんな感情になったこともなかったし、そんな風に思えた女性は一人もいなかった。
「だからなのよ、樹」
「え・・・?」
「あなたにはそういう相手が今まで現れなかった。それならせめて、樹のずっと側で支えてくれて想ってくれる女性をパートナーにとお父さんは思ったんじゃないかしら」
「そうなの・・・?親父」
「あぁ・・・。そういう存在が側で支えてくれていたのなら、お前も変われるんじゃないかと思ってな。いつかそういう相手が現れたとしても、私のような後悔はしてほしくなかった」
それは結局どれだけオレがいい加減な生き方をしてきたのかを思い知らされる。
親父のようになりたくなくて、だけど結局親父と同じような道を歩んでいるような気がして。
そんな自分がもどかしくてたまらなかった。
だけど、親父はずっと自分の想いを大切にし続け、息子のオレにもそう願ってくれていた。
なのにオレはそんなことも知らずに、何に対しても本気になれなくて。
もしこのまま透子に出会わずにいたら、結局オレは何も変われていなかった。
そんな親父の思いも知ることもなく、ずっと気持ちに蓋をして背を向けたまま、どうしようもない人間のままでしかいられなかった。
だから、今になってやっと理解した親父の思い。
だけど、今その親父の本当の思いがわかったように、今のオレには透子がどれだけ大切かも改めて実感する。
オレがこの先幸せになれるのは、透子たった一人で。
オレの隣にずっといてくれるのはきっと透子だから。
オレの幸せは自分で決める。