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「だけど。オレは今誰より大切で何があっても守りたい人がいる。一生一緒に生きて行きたい。一緒にいられるならオレは何もかも捨てても構わない。彼女を・・・透子を幸せにしたい」
透子を見つめながらオレの気持ちをハッキリと伝える。
この気持ちは何があっても変わらない。
どれだけ透子への気持ちが本物なのか真剣なのか伝わらないなら、何度だって伝える。
わかってもらえるまで、何度だって伝え続ける。
透子に出会えてやって向き合えたんだ。
自分自身に・・そして親父に。
ずっと逃げてばっかりだったけど、もう逃げも隠れもしない。
これからは自信を持って堂々と親父と向き合うって決めたから。
頼りない男のままじゃ透子も守れないから。
オレがずっと透子を守り続けるから。
「そんな考えで・・・お前は本当に幸せに出来ると思ってるのか・・・?」
だけど静かにそう呟く親父。
やっぱり呆れているんだろうな。
まだ思うようにならないオレが情けないんだろ?
「何もかも捨てて? そんな責任も取れないような、男としてどうしようもないそんないい加減な状態で、幸せに出来るはずがないだろう」
ほら、やっぱり。
結局オレが何を言ってもどんなに正面から向き合っても、親父は変わらない。
親父にオレの幸せの何がわかるっていうんだよ。
オレは透子といられればそれだけでいいのに。
透子と一緒にいるだけでオレは幸せなのに。
どうやったってわかってもらえなくて、また心が折れそうになりかけたその時・・・。
「樹。お前には今後、副社長として私を支えてもらおうと思ってる」
一瞬耳を疑うような言葉を親父が口にした。
「え・・・?」
何・・・どういう意味・・・?
なんで今そんなこと・・・。
「副社長として、お前にはこれからもっと責任を持って立派な人間になってもらわなきゃ困る。その立場をしっかり意識して、これから会社も大切な相手も守れるような一人前の男前になりなさい」
親父から予想もしない言葉が飛び出してすべてを理解出来ない。
「それって・・・」
「ようやくお前が心から大切だと想える人に出会えたんだ。必ず二人で幸せになりなさい」
えっ? 聞き間違え・・・じゃないよな・・?
「親父・・・。結婚、許してくれるってこと・・・?」
「あぁ・・・。そもそもお前がちゃんと決めた結婚だろう。反対しようとも思ってない」
「えっ!?」
あまりにも何の抵抗もなく自然に答える親父の言葉に驚いてただ戸惑う。
「あんなにオレが嫌がってもいろんな相手連れて来て結婚させようとしたくせに・・・」
「それはお前がハッキリしなかったからだろう」
「えっ、オレのせい・・・?」
「お前がいつか自分で決めた相手を連れて来るまでは、私が決めようとしたまでだ」
「えっ、どういうこと?」
「お前がどこまで本気なのかずっと見てたんだ。今までのお前は何事にも中途半端で真剣になることなんてなかったんだからな。そんなお前にこの先この会社を任せていいのかも見極めたかったし、お前がどこまで真剣に今の女性に本気なのか知る必要があった」
「なるほど。そういうことか・・・」
ハハッ・・・。
全く予想してなかった展開で力が抜けて笑ってしまいそうになる。
なんだよ・・・結局全部オレが勝手に空回ってただけかよ・・。
「しかし、お前が望月さんと出会ったことで、どれだけ成長したのかはもう十分わかってる。いつの間にか父さんの会社も母さんの会社も力になって助けてもらうほどのヤツになったとはな。あの時結婚させずにお前を信じてすべて任せたのはそういうことだ」
「じゃあ、最初のあの時からオレを信じてくれてたってこと?」
「あれだけお前は自分を信じてくれと言い切ったんだ。この会社も母さんの会社も絶対救うと躊躇なくお前は私に言い切った。そして、それだけのことをやり遂げるほど、守りたい女性がいるというんだから、信じてやるしかないだろう」
「親父・・・」
わかってなかったのはオレの方だった。
ずっと親父はオレを信じてくれていた。
なのに、オレは頭から反対されるとばかり思っていて、オレが親父を信じていなかった。
結局それはオレが自分自身を信じていなかったんだ。
偉そうなことを言って信じてもらいたいだの守りたいだの言っても、結局自分自身を信じていなければそんなの全然意味がない。
透子と出会えてから今のオレになれたことで、きっと答えは出ていた。
透子と一緒にいられる為なら、どんなことでも乗り越えられた。
透子の想いを信じて、オレの透子への想いを信じて、二人の未来を信じて。
その想いだけは、何があっても揺るぎなく信じ続けて来れた。
だからこそ、きっとこの今がある。
「樹。あなたはずっとお父さんに反抗的だったけれど、お父さんはずっとあなたの幸せを願ってたのよ」
もうわかってる。
オレだけがガキで甘えてただけだって。
ずっと親父はオレを一人の人間として、その先をオレの幸せを願ってずっと導いてくれたことだった。
だけど、やっぱり今の幸せは透子がいるから。
誰に作られた幸せでもなく、オレ自身が手にした幸せ。