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新宿の夜を、不気味な重低音が支配し始めた。
地上では、厚い雲を切り裂くように公安のヘリが低空飛行を繰り返し
強力なサーチライトが歌舞伎町の路地裏を執拗に舐め回す。
雨が降り始めた。
アスファルトを叩く激しい雨音が、地上の緊張感をさらに煽る。
「……始まったか」
地下のコントロールルームで、俺はモニターを見つめた。
モニターといっても、源蔵が古い監視カメラの回線をジャックして繋ぎ合わせた、ノイズだらけの代物だ。
バキィィィン! と、地上でマンホールの蓋が跳ね上げられる音が、鉄管を伝って地下に響く。
「兄貴、北側の第3通路に『黒い百合』の先行部隊が入ってきました! 人数は4人、全員が暗視ゴーグルと消音サブマシンガンを装備してます!」
無線機から山城の切迫した声が飛ぶ。
「……予定通りだ。源蔵さん、スイッチを」
源蔵が、錆びついたレバーを一つ押し下げた。
その瞬間
地下道の至る所に設置されたスピーカーから、爆音の「心拍音」が鳴り響いた。
ドクン、ドクン、ドクン――。
一つではない。
何百もの異なるリズムの鼓動が、反響し、重なり合い、地下道の壁を激しく震わせる。
「なんだ、この音は……!?ターゲットが多すぎる、レーダーが機能しない!」
潜入した暗殺者たちの困惑した無線を、志摩が傍受して俺たちに流す。
混乱する敵の隙を突き、闇の中から鼠たちが動き出した。
彼らは武器を持たない。代わりに、強力な高輝度レーザーポインターと、大量の催涙スプレーを手にしていた。
「今だ、やれッ!」
俺の号令と共に、地下道の曲がり角から強烈な光の束が暗殺者たちの暗視ゴーグルを直撃する。
「ぎゃあああ! 目が、目が潰れる!」
光で視界を奪われた暗殺者たちに
山城率いる若手たちが闇から躍り出て、格闘術で瞬く間に無力化していった。
銃声は一発も鳴らない。静かな、だが確実な制圧。
「……捕虜を確保しました。兄貴、こいつら…首筋にマイクロチップが埋め込まれてやがる。痛みも恐怖も感じないように脳を弄られてるみたいだ」
報告を聞き、俺は奥歯を噛み締めた。
組織は人間を、文字通り使い捨ての部品として扱っている。
制圧には成功したが、これはあくまで小規模な小競り合いに過ぎない。
組織はこれで、地下に「組織的な反抗勢力」がいることを確信したはずだ。
志摩からの暗号通信が入る。
『黒嵜、敵は次の段階に移るぞ。地中レーダーが効かないと分かれば、奴らは「毒」を使う…地下道の通気口を封鎖して、ガスを流し込むつもりだ』
「……息の根を止めに来るか」
雨脚はさらに強まり、新宿の街を白く煙らせていく。
残された時間は、あと2304時間
地上の檻は、より強固に、より冷酷に、その密度を増していく。