俺は『モンスターチルドレン』というモンスターの力を宿した少女たちとその他の存在たちと共に異世界を旅している。
俺はスマートフォンやスキルは使えないが『鎖《くさり》』の力を使うことができる。
普段は俺の体の中にあって、必要になったら自分の意思で背中から最大十本まで出すことができる。
『|大罪の力を封印する鎖《トリニティバインドチェイン》』
それが俺の力であり、切り札である。使用時には髪の色は黒から白に、目の色は黒から赤に変わる。
高速で移動できる『電光石火《ジェットアクセル》』や鎖《くさり》の中にいる『アメシスト・ドレッドノート』が俺に授《さず》けた紫水晶製の鎧《よろい》を身に纏《まと》うことができる|紫水晶の形態《アメシスト・モード》。
俺は、これらの力を使って、さまざまな困難に立ち向かってきた。
だから、これからもこの力で……っと、そろそろ時間だな。
それじゃあ、ミノリ(吸血鬼)たちとの旅を再開するとしよう。
*
「山登りって……こんなに、きつかったっけ?」
俺が一番先頭だったはずなのに、いつのまにかミノリ(吸血鬼)たちに先を越《こ》されていた。みんな元気だな。
おっ、名取《なとり》も前にいるな。(名取《なとり》 一樹《いつき》。あらゆる効果を打ち消すことができる『名取式剣術』の使い手。ナオトの高校時代の同級生)
まあ、山を登り始めてから、かれこれ二時間は経《た》ってるから疲れてくるのは当然……かな?
遠くから見たときはそんなに高い山ではないように思えたが、いざ登ってみると、かなり……キツイ。
俺が高校を卒業したのは今から約十年も前のこと。
まあ、あの高校での三年間は地獄そのものだったから自然と体力はついた。
けど、今は違う。あの時と今では年齢も状況も違うのだから。
俺がそんなことを考えていると、ミノリ(吸血鬼)がこう言った。(両手でメガホンを作っていた)
「ナオトー! ここからはモンスターが出やすくなるから気をつけてねー!」
結構高いところまで登ってきたというのに、ここから先に行くとモンスターが出やすくなるって、なんか生物学的におかしいな。
とはいえ、ここは異世界だからな。
何が起こってもおかしくないのは確かだ。
俺はその後、先を急ぐことにした。すると、その時。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
今まで聞いたことのない雄叫《おたけ》びが山全体に響《ひび》き渡った。
俺は、その声がした方向と距離を瞬時《しゅんじ》に特定しながら走り始めると、みんなにこう伝えた。
「全員、一組二人以上になって散開《さんかい》しろ!」
俺がそう言うと、ミノリ(吸血鬼)たちは指示通り、一組二人以上になると、うまく散開《さんかい》した。俺がなぜそんな指示を出したのかだと?
それは今の声の主は間違いなく『熊《くま》』だったからだ。
この辺に住んでいるのかは分からないが、この山は俺たちのいた世界でいうと島根県にある『三瓶山《さんべさん》』ほどの高さである。
けどまあ、先ほどの声から察するに、かなりでかい方だろうがな。
これは声の大きさや、それが響《ひび》き渡るスピードなどを考慮《こうりょ》して導き出した答えである。
まあ、この能力は俺が高校時代で身につけたものだから、あまり日常で使うようなことはない……。
けど、もし俺がその能力を身につけずにこの世界に来ていたら、今頃……やめよう、今は一刻も早く逃げることが先決だ!
俺がそんなことを考えていると、いつのまにか、カオリ(ゾンビ)が俺の真横を走っていた。
「よう! マスター。今日はついてないな」
「まあ、そうかもな。というか、他のみんなはどこに逃げたんだ?」
カオリ(ゾンビ)は真剣な表情で、こう言った。
「それなら心配いらねえよ。全員、マスターの指示通りに動いたからな」
「そうか。でもお前はどうして俺のところに来たんだ? 他のやつと組んでもよかったんだぞ?」
「……固有武装」
「ん? なんだって?」
「あたしは固有武装を手に入れたいんだよ」
「唐突《とうとつ》だな。急にどうした?」
「ツンデレ吸血鬼こと、ミノリ。眼帯ドッペルゲンガーこと、シズク。エロ狐《ぎつね》こと、キミコ。この三人は一応、持ってるだろ?」
「お前、それ何気にひどいぞ……。まあ、たしかにそうだな。でも、あれを手に入れるには本人の強い思いが必要だ。なあ、カオリ。今、欲しいものはないか?」
「そんなもんマスター以外にねえよ。けど、あえていうなら『憤怒《ふんぬ》の姫君』の名にふさわしい力が欲しいな」
「……そうか。なら、俺が時間を稼《かせ》ぐから、お前はそれを具体的にイメージしろ。そうすれば手に入るはずだ」
「その口振《くちぶ》りから察《さっ》するに、やつの狙《ねら》いは……」
「ああ、どうやら俺のようだ」
「なるほど。道理で、あたしらを追いかけてくる音がビシビシ伝わってくるわけだ」
「相手はかなり強い。しかも俺は今日、二回目の変身になるから、せいぜいもっても三十分だ」
カオリ(ゾンビ)は「……ふっ」と笑うと、こう言った。
「上等だ! やってやるよ!」
「よし、じゃあ、せーので俺はやつの相手をするから、お前はその間に自分が欲しいと思う固有武装をできるだけ具体的にイメージしろ」
「要するに、あたしはイメージすることに専念しろってことだな。よし、分かった。じゃあ、もし、それが成功したら」
「ああ、もちろん、お前の固有武装の名前を速攻で付けてやるつもりだ」
「よおし! 決まりだな! それじゃあ、始めようぜ! マスター!」
「ああ、そうだな。それじゃあ……」
『せーのっ!!』
カオリ(ゾンビ)がその辺の岩陰《いわかげ》に身を潜《ひそ》めた後、俺はやつの方を向いた。
「『|大罪の力を封印する鎖《トリニティバインドチェイン》』!!」
俺はそう言いながら、背中から十本の鎖《くさり》を出した。
それと同時に髪は白く、瞳《ひとみ》は赤くなった。
「さぁ来いよ! 俺はここだ!!」
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
その雄叫《おたけ》びが辺りに響《ひび》き渡ると巨大灰色熊《グリズリー》が俺の目の前に出現した。(体長は四〜五メートルほど)
で、でかいな! 俺のいた世界にこんなやついなかったぞ! 目、鼻、口、牙、耳、腕、爪、足、筋肉のつき方、どこを見てもこいつは完璧《かんぺき》すぎる!
こんなやつに俺は勝てるのか? いや、俺は時間を稼《かせ》ぐことができればいい。
なぜなら、この戦いはカオリ(ゾンビ)の脳に刺激を与えるためのものだからだ!
「鎖よ! 我の要求に応じ、行く手を阻《はば》む敵を拘束《こうそく》せよ! 束縛!」
俺がそう言うと、十本の鎖《くさり》のうち二本が巨大灰色熊《グリズリー》を束縛《そくばく》した。相手は、なんとか逃《のが》れようとしているが、予想以上に締め付けが強かったせいで力尽き、そのままうつ伏せで倒れてしまった。
「まあ、さすがに首の下から膝《ひざ》まで束縛《そくばく》されたら、こうなるよな……。どうだ? カオリ。イメージできたか?」
俺はカオリ(ゾンビ)がいる方に目をやった。
「すまねえ、マスター。イメージしようと努力はしたんだけどよ、マスターが一瞬《いっしゅん》で、そいつを倒すところを見てたら、それをするどころじゃなくてな」
カオリ(ゾンビ)は両手の人差し指を引っ付けたり離したりしながら、こちらをチラ見していた。
俺は少しだけガッカリしたが、すぐにフォローした。
「ま、まあ、誰にでもそういうことはあるから心配すんな。けど、次は頑張ろうな」
「そう、か。そう、だよな。ああ! 次、成し遂げればいい話だよな! けど、その……しばらくは一緒だな」
「えっ? あ、ああ、そうだな。まあ、こういう時の対策として、行く前に合流ポイントは頂上だって言っておいたから大丈夫だろう」
「そうだな。で? そいつはどうするんだ? ここで食うのか?」
「うーん、そうだな。とりあえず頂上まで運ぶよ。そのあとの事は、その時に考える」
「おおー! それは、まさに臨機応変《りんきおうへん》だな。マスター」
「そうか? こんなのは当たり前のことだと思うけど。それじゃあ、行こうか。カオリ」
「ああ、そうだな! マスター!」
その後、二人は一列横隊で歩き始めた。
例の熊《くま》は二本の鎖《くさり》に束縛《そくばく》されたまま、空中に持ち上げられていた。
だから、攻撃《こうげき》しようにもできない状況にあったのである。
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