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夜中。0時を過ぎていたけど、ふたりともなんとなく眠れなかった。
リビングの空気はぬるくて、
テレビも照明もついていない。
「なにか観る?」
そう訊くと、るかはうつ伏せになったまま、
ソファの端から小さく頷いた。
「なに系がいい?」
「……静かめ。眠くなりそうなやつ」
「じゃあドキュメンタリーとか?」
「それは逆に目冴える」
「むずかしいな……じゃあ、
“雰囲気だけで進む系映画”にするか」
「それ何?」
「観終わったあと、感想が“雰囲気よかったね”で終わるやつ」
「……ちょうどいいじゃん」
⸻
プレイヤーをつけて、適当に選んだ配信作品は、
フランスの田舎町を舞台にした、会話少なめの映画だった。
窓から差し込む朝日、カフェの湯気、
乾いた音の足音、時計の針が回る描写――
どれもリアルなのに、どこか夢みたいだった。
⸻
るかは、ソファの肘掛けに頭を乗せて、
ブランケットをくるまっていた。
俺は床にクッションを敷いて、
横になって画面を眺めていた。
会話はなかった。
でも、なにも気まずくなかった。
⸻
途中、画面に映った猫を見て、
るかが「かわいい」と小さくつぶやいた。
それに「あの柄うちの実家の猫に似てる」と返すと、
「へぇ」って一言だけ返ってきた。
それで会話は終わり。
それ以上、なにも話さないことに、
安心していた。
⸻
映画は2時間ちょっとあったけど、
半分くらいでどっちもウトウトしはじめて、
後半はもう、夢と現実の境目があいまいだった。
⸻
気づいたときには、エンドロールが終わっていて、
テレビは自動で止まっていた。
ブランケットの隙間から、るかのゆっくりした寝息が聞こえていた。
起こすか迷って、でもやめた。
静かな夜に、音を加える理由が見つからなかったから。
⸻
そのまま自分も目を閉じる。
映画の内容なんて、ぜんぜん思い出せなかった。
でも、「いい夜だった」ってだけは、はっきり覚えていた。