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朝。カーテンの隙間から差し込む光が、
リビングのテーブルをやさしく照らしていた。
俺はキッチンでインスタントのコーヒーを淹れながら、
まだ眠そうにあくびをかみ殺している。
背後で、ソファの上でもそっと動く気配。
「……おはよ」
るかが顔だけブランケットから出して、
寝ぼけた声でそう言った。
「おはよ。ちゃんと布団持ってきとけばよかったな」
「……うん。寒かった」
「言ってくれればよかったのに」
「寝てた。起きたら、なんか変な映画終わってたし」
俺は笑いながらカップをふたつ準備する。
「変じゃないよ。名作らしい」
「でも全部寝てたじゃん。あんた」
「……そっちもじゃん」
「わたしは、最初の猫までは起きてた」
「そこ、映画の最初10分だよ」
るかはソファに座り直して、
カップを受け取りながら小さく笑った。
⸻
「で、どうだった? 雰囲気」
「雰囲気……あった気がする」
「だろ?」
「っていうか、夜中にあんなの流したら、寝ろって言ってるようなもんだし」
「そのつもりだった。成功してよかったわ」
「ちょっとは感想言い合う感じ、期待してたのに」
「……かわいい」
「うるさい」
そう言いながら、るかは熱いコーヒーをふーっと吹いた。
⸻
目覚めてから、こんな風に何気ない会話ができる朝。
少し前までは、きっと想像できなかった。
⸻
「じゃあ今夜リベンジする? 今度は短いやつ」
「……んー。
あんたが寝なかったらね」
「絶対寝るやつだそれ」
「じゃあアイス買ってきたら考える」
「何味?」
「チョコミント。譲らない」
「地雷の自己主張つよっ」
⸻
ふたり分のカップから、湯気がゆっくり昇っていく。
映画のストーリーなんて覚えてなくても、
その朝がちゃんと続いていくことが、なによりだった。