「これって……」
それはどう見てもネックレスとイヤリングのデザイン画で。
どの絵も、婚約指輪に使われている七石のダイヤを再利用したと思われる図案になっていた。
真ん中の大きなダイヤはネックレスのトップに。両サイドの小振りのダイヤ六つは数個ずつに分かれてイヤリングに持っていったり、数個だけネックレスのトップと一緒に、と様々なバリエーションが考えられているみたい。
イヤリングの方は、全て石が左右対称に同じ数ずつで分かれているのかと言えばそうじゃなくて、アシンメトリーを狙ったのかな。左右非対称に分かれているものもあって。
各々の洗練された美しいフォルムに、私は思わず見惚れてしまう。
「気に入るのがありそう? ――指輪はさ、結局のところどちらも僕の好みや母の意見を優先してしまったから。普段使い出来るようこの指輪をリメイクする時は、春凪の好みを最大限反映したいって思ってる」
デザイン画の段階なので、私がこうして欲しいと意見を出せば、そのように変更することももちろん可能なのだと付け加えられて――。
元々それほどアクセサリーに関して物凄いこだわりがある方じゃなかった私は、宗親さんの言葉に慌ててフルフルと首を振る。
「どれも凄く素敵で何か意見をいうとか烏滸がましいですっ。それに――」
きっと指輪を他のアクセサリーに作り直してもらうと言うのは沢山お金がかかるんじゃないかなって思って。
「そこまでして頂くのは何だか申し訳ないです」
元々素敵なデザインのリングなのだ。
康平とのことでケチが付いて、心情的にこのままの形で身に付けることが出来るかどうかすら怪しくなってしまったのは、私自身の問題。
決して指輪のせいなんかじゃない。
だけど現状のまま身に付けるのが無理なことは紛れもない事実だったし、作り直してリセットしてもらえるなら、凄く凄く嬉しいって思って。
なのに――。
どうしても金銭的な負担などを考えて、私は素直に首を縦に振れないの。
「あの男にケチをつけられたリングのまま、春凪にそれを身に付けてもらうのは、僕がどうしても嫌なんです」
なのに宗親さんはそんなことを言って私を腕の中に抱き寄せると、「ね? 春凪。お願いだから僕の気持ちを汲んで?」って耳元で懇願する様に囁いてくる。
私は宗親さんの〝お願い〟に絆されるみたいに小さくコクッと頷いた。
でもね、宗親さん。私、本当は分かってるよ? 宗親さんが、私の本心を見抜いて……その上で素直になれない私を救う形でご自身が全ての責を負って私の心の負担を肩代わりして下さったこと。
「宗親さん……。大好きです」
そう思ったら殆ど無意識。私は宗親さんにギュッとしがみついて、そうつぶやいていた。
***
康平の実刑判決が出たと聞いたのは、織田家主催の盛大な結婚披露宴があってから、数か月後のことだった。
宗親さん伝で聞いた話によると、康平の刑は執行猶予なしの懲役十一年。
「それでは少な過ぎる、無期懲役でもいいくらいなのに!」と宗親さんは憎々し気なお顔をなさったけれど、私にとっては結構長い刑期に思えて。
(執行猶予がないということは、康平、その間ずっと刑務所で刑に服さないといけないんだよね?)
そう思ったら、十年以上の実刑というのは本当に重い罪に思えたの。
十一年もあったら二十三歳の私も軽く三十路を越えてしまっているし……宗親さんに至ってはアラフォーだ。
人並みにうまくいっていると仮定すれば、子供にも恵まれていて……。その子が生まれた年にもよりけりだけど、泣いたりミルクを飲んだりしか出来なかった赤ん坊が、走り回ったり自分の意見が言えるようになっているんだよね?って考えたら、それは決して短い期間ではないように思えたの。
「春凪はとにかく何に対しても甘すぎます。そこがキミの魅力でもあるんだけど――」
宗親さんはそんなことを言って溜め息をおつきになられたけれど、私はやっぱりそう思ってしまう。
でも、だからと言って康平を許せるかと聞かれたらそれはまた別の話なんだけど。
コメント
1件
人のいい事ばかりしていたら、また怖い思いをしちゃうよ。 それが一番怖い。