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side柴田凶平
「はぁ…
なんで俺たちがこんな雑用なんだよ」
大和ダンジョン委員会の地下五階。
“研究資料倉庫”と書かれたプレートの前で、俺は段ボールを抱えたまま愚痴を漏らした。
「お兄ちゃん、任務は任務だよ?」
ミントは白衣をひらりとなびかせながら、当然のように扉を押した。
中に入ると、独特の湿った紙の匂いが鼻を突く。
棚には古い研究レポートが山積み。箱には「極秘」「要封印」「閲覧注意」など不穏なラベルがびっしり貼られている。
「いや、こういうのこそ研究者がやる仕事だろ…
俺たちは前線だっての」
「でも、栗原さんが困ってたよ?
資料が多すぎて整理できないって」
「それは…
そうだけどよ」
結局、ミントに言われると逆らえない。
俺は段ボールの山を横目に、ため息を一つついて棚の前にしゃがみ込んだ。
♦︎♦︎♦︎
二時間後。
俺とミントは埃まみれになりながら、資料を分類していた。
「ミントー、その箱“Eシリーズ”って書いてるから、あっちの棚――」
「わかった!」
ミントは両手で大きな箱を抱え、ひょいっと持ち上げた。
細い腕からは想像できない、常識外れの怪力。
俺はいつも通り「ああ、こいつ普通じゃねぇな……」と思いながらも目を逸らした。
その瞬間。
「ん……?」
ミントがパソコン机の前で立ち止まった。
古びた研究用PCの電源が、ボタンを押してもいないのに勝手に点灯した。
「おいミント? 触ったのか?」
「ううん。指は触れてないよ?」
なのにモニターが勝手に起動し、黒い画面に白い文字がざあっと流れる。
意味不明な呪文みたいな文字列――のはずなのに、ミントはゆっくりキーボードに手を伸ばして、何の迷いもなく高速で文字を打ち込んでいく。
カタカタカタッッ!
「お、おい……ミント……?」
「大丈夫。ちょっと、開けるね」
何をだ。
数秒後、画面が切り替わった。
そこには――
**《Eシリーズ被験データ/覚醒体堕ち個体一覧》**
俺は言葉を失った。
♦︎♦︎♦︎
スクロールされるファイル名。
そこに並ぶ個体番号は全て“E”で始まっていた。
E-001:完全覚醒体化により終了
E-002:暴走・封印
E-003:神経耐性崩壊
E-004:覚醒体堕ち確定
E-005:アポカリト(元半覚醒体)
そして。
**E-006:ミント(覚醒体転移の可能性・要観察)**
「…は?」
頭が真っ白になる。
「ミ、ミント…これ…」
ミントはモニターをじっと見つめていた。
瞳が――ゆっくり、黒く沈んでいく。
「ミント、覚醒体じゃない。まだ大丈夫。でも…
“落ちる可能性”は…ある、んだって」
震えていた。
それはミントの声なのに、どこか別の何かが混ざったような響きだった。
「ふざけんなよ…!」
俺は机を殴った。
拳に鈍い痛みが走っても止められなかった。
「なんでだよ…!
なんでミントが、こんな“シリーズ”なんかに…!」
ミントを見た。
小さな肩が震えている。
「お兄ちゃん…ミント、怖いよ…」
その瞬間、怒りが全身を貫いた。
誰だ。
誰がミントをこんな化け物みたいな分類に入れた。
圧し殺した怒りが喉元まで込み上げ――だが、画面の最後の一文が目に飛び込む。
**E-005:覚醒体アポカリト(元Eシリーズの半覚醒体)**
「…アポカリトも、そうだったのか」
あの化け物を飼育している封印区画。
研究者の間で“世界で最も危険な覚醒体”と呼ばれる存在。
もとはミントと同じ“Eシリーズ”?
「ミント、行くぞ」
「え…
どこに?」
「アポカリトだ。
見に行く。
確かめないと気が済まねぇ」
ミントは不安そうに俺の袖を掴んだ。
「怖いよ…」
「大丈夫だ。俺がいる」
それが嘘でも、言うしかなかった。
ミントを安心させるためじゃない。
俺自身が、そう口にしなければ崩れそうだった。
ミントの手を握り、俺たちは地下深くへと向かった。
覚醒体アポカリト――
その存在が、ミントの未来を映す鏡だというのなら。
俺は、その現実から目を背けるつもりはなかった。
必ず、ミントを守るために。