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第7話「無刀の真髄」
「ひゃはは! 刀が折れたなぁ! 一撃でお前を噛み砕いてやる!」
狂喜乱舞する鬼の巨体が、目の前に迫る。
だが、俺は焦るどころか、フッと冷たい笑みを浮かべた。手元に残った折れた刀の柄を、あえて地面に投げ捨てる。
「勘違いするなよ、化け物。……刀が折れたくらいで、俺の強さは変わらねぇんだよ」
鬼の爪が俺の鼻先をかすめる。
普通の剣士なら絶望する間合い。しかし俺は、緋蜜さんの地獄の柔軟訓練によって、常人にはあり得ない角度まで上体を真後ろにぐにゃりと反らせてそれを躱した。
「なっ……!?」
驚愕に目を見開く鬼の顎めがけて、反らした姿勢のまま、鞭のようにしなる右足の蹴りを下から垂直に突き上げる。
ドンッ!!!
「が、はっ……!?」
凄まじい衝撃波とともに、鬼の巨体が上空へと跳ね上がった。
俺はそのまま流れるようなバク転で体勢を立て直し、すぐさま地面を強く蹴り上げる。目指すは、宙に浮いた鬼のさらに上空。
(忘れてんじゃねぇよ。俺の呼吸は、水の流麗さと、恋の呼吸の速度としなりを合わせたものだ)
刀がなければ、自分の肉体を刃にすればいい。
空中で完全に鬼の頭上を取った俺は、驚異的な関節の柔らかさで自らの体を限界まで捻り、螺旋を描くような超高速の連続後ろ回し蹴りを叩き込んだ。
――蜜ノ呼吸・無刀の型:甘露の波飛沫(かんろのなみしぶき)!!
「がぁっ!? ぐはっ、あがぁっ!?」
波が激しく弾けるように、不規則かつ超高速で放たれる蹴りの嵐。まるで四方八方から同時に殴られているかのような連撃に、鬼は防御すら許されず、肉体をボロ雑巾のように引きちぎられていく。
そして着地の瞬間、俺は鬼の懐へと滑り込み、地を這うような180度開脚のスライディングで鬼の足元を完璧にすくい上げた。
ドサァッ!!と、再び体勢を崩して横転する鬼。
その首元へ、俺は全体重としなりを乗せた強烈な踵落とし(かかとおとし)を真っ直ぐに踏み降ろした。
――陸ノ型:六角の蜜房(ろっかくのみつぼう)!!
寸分の隙もない強固な連撃のように、目にも留まらぬ速さで繰り出された踏み込みが、鬼の首の骨を、ハニカム構造を粉砕するように粉々に踏み砕く。
グシャ、と鈍い音が響き、鬼の首が胴体から完全に離れ、地面を転がった。
「ば、馬鹿な……刀も持たないガキに、俺が……首を……っ」
灰になって消えゆく鬼を、俺は冷たい目で見下ろした。
12歳の蜂須賀紺。柱の継子としての1年間は、伊達じゃねぇんだよ。
チリン、と夜風に揺れた髪の後ろで、蜜流のリボンが誇らしげに鈴の音を響かせた。
グシャ、と鈍い音が響き、鬼の首が胴体から完全に離れ、地面を転がった。
「ば、馬鹿な……刀も持たないガキに、俺が……首を……っ」
灰になって消えゆく鬼を、俺は冷たい目で見下ろした。
柱の継子としての1年間は、伊達じゃねぇんだよ。
それからの残り日数、俺の耳に届く受験者たちの悲鳴は、すべて俺の獲物の居場所を知らせる合図に変わった。
刀がないなら、奪えばいい。
死にかけた受験者からヤワな刀を拝借し、それが俺の呼吸の威力で折れれば、また別の刀を拾い、あるいは素手と蹴りだけで鬼の肉体を破壊し尽くした。
「な、なんだあいつ……本当に12歳かよ……」
「化け物だ……鬼より化け物だろ……」
周囲の受験者たちが腰を抜かし、恐怖と畏怖の目で俺を見つめる。
けれど、そんな声すら今の俺にはどうでもよかった。俺が見据えているのは、もっと先――誰もが一生頭の上がらない「英雄」の座だけだ。
――そして、七日目の朝。
紫色の藤の花が美しく咲き誇る、山の出口。
そこに辿り着いた受験者は、ほんの数人しかいなかった。その誰もがボロ雑巾のように傷ついている中、俺だけは、服こそ土と鬼の返り血で汚れているものの、呼吸一つ乱さずに立っていた。
「おかえりなさいませ。お見事な生き残りでございます」
案内役の子供たちの声が響く。
無事に最終選別を突破した俺たちの前には、日輪刀の原材料となる『猩々緋砂鉄(しょうじょうひさてつ)』と『猩々緋鉱石(しょうじょうひこうせき)』がずらりと並べられていた。自分の刀となる玉鋼(たまはなぎ)を選ぶのだ。
(俺の呼吸の『しなり』と『速度』に耐えられる、最高に頑丈な石はどれだ……)
目を凝らし、直感で一つの鉱石を指差す。
これで、俺だけの本物の刀が手に入る。あの村の奴らも、世界中の鬼たちも、誰も俺を舐めることはできなくなる。
チリン――。
山を吹き抜ける朝風に、髪の後ろの鈴が綺麗に鳴り響いた。
それはまるで、遠い村にいる蜜流に、俺の最初の勝利を告げるかのように。
蜂須賀 紺、12歳。
ここから、本当の英雄譚が幕を開ける。
第7話完
コメント
3件
わっふるさん、第7話、一気に読ませていただきました! 折れた刀を捨てて「無刀」で戦う紺くん、本当にカッコよかったです…!特に蜜ノ呼吸・無刀の型「甘露の波飛沫」の連続蹴り、しなりと速度を活かした動きに息を呑みました。12歳でここまで覚悟が決まっているのがすごい。そしてラスト、自分の刀となる鉱石を選ぶ場面の静かな緊張感も良かったです。英雄の座への第一歩、これからの物語がますます楽しみになりました!