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アッシュ・カルドは、国王陛下の血を引いている。

正妻でも側室でもない女性から生まれた子供だ。しかし、母親は違えど、父親は同じだからヴァイスと兄弟ではある。

国王陛下はそれを知っていて、アッシュに希望に沿う形で優遇してくれたらしい。


「侯爵令嬢にはふさわしくない俺だけど」

「いいわよ。貴族の位なんて興味ないから」


私とアッシュは寝転がっている。空が青いわー。


「むしろ、貴族としての私が欲しいなら、すっぱり諦めたほうがいいわよ。近々、この身分とおさらばする予定だから」

「君が貴族だから好きになったわけじゃない」

「ええ、私に一目惚れですもんね」


私は彼の頬を指で小突いた。


「私も、あなたの外見は好みだったわ」

「外見だけかい?」

「あなただって同じでしょう? 初対面でよく知らない時なんてそんなものじゃない」


ゴロンと回って、彼の上に馬乗りになる私。彼は私の手を握った。指をからめて恋人繋ぎ。


「それで中身は?」

「気にいらなければ、こうはならなかったわ。あなたは?」

「君に同じ」

「駄目よ、言って」


私は顔を近づける。


「言わなきゃ駄目?」

「だーめ。女は言葉が欲しいのよ」


言わなくてもわかるだろムーブは、男はよくても女にはよくないのよ?


「好きだ」

「だーっ! もう!」


このイケボ! 背筋にしびれるような感覚が突き抜けた。


「ストレート過ぎて、情緒ってものが……」

「刺激が強いほうがお好みだと思って。わかりやすいだろう?」

「そうだけど、ムードってものが欲しいじゃない?」

「割と注文が多いんだな。女って結構面倒なのかな」

「男だって充分面倒よ」


私は彼の上に倒れ込んだ。


「だから、もう一回言って」

「何を?」

「『好きだ』って」


おねだりしたら、彼は――


「好きだ」


ありがとうっ――心の中で大喝采。もう死んでもいいわ。


「どこまでヤル?」

「何だって?」

「私、体がとても熱くなってきたの」


胸元に手がかかる。アッシュは目を剥いた。


「いや、さすがにここでそれはマズいだろ?」

「シたくないの?」

「したいけど、とてもしたいけど! ……時と場所はわきまえよ、な、アイリス」

「……そうね。ちょっと落ち着こう」


この近くには王子とメアリーがいて、さすがにお盛んな姿を見せるわけにはいかない。

まったく、これでは人のことをどうこう言えないわ。落ち着こう、落ち着こ

う……。深呼吸して……。スー、ハー。


「何?」


アッシュが私を見上げている。何か言いたそうだけれど何かしら?


「このままもそそられるけど、そろそろ降りたほうがいいかも」

「失礼」


私はアッシュのお腹に馬乗りになっていたのを思い出して、素早く離れた。

淑女が日常的に見られてはいけない光景だったわ。王子に見られたら、不潔だと蔑まれてしまうし、最悪『人の婚約者になにやってるんだ』ってアッシュが殴られてしまうかもしれない。


でも、王子との婚約を取り消させるには、悪くないかもしれない。王子の気持ちを完全にメアリー一択にするには最高かもしれないけど、婚約スキャンダルは王家にも少なからずダメージが出るから、やっぱりダメね。

アッシュの将来を含めて、追い込んでしまうことにもなるだろうし、彼の不名誉は望まない。私のせいで、それはさせられないわ。






ヴァイス、ごめんなさい。私は浮気をしてしまったわ。

……なとど、大して傷ついたわけでも申し訳ない気持ちもなく、私は帰りの馬車で思うのだった。


その馬車内で、私はヴァイスと手を繋いだ。彼としては婚約者のご機嫌取りだったのかもしれない。

でも隣り合ってはいても互いに顔を見なかったと思う。ヴァイスはメアリーを、私はアッシュを見ていた。


私は浮気という、世間でいうところの最悪の行為をしました。けれど、隣に座って黙り込んでいる王子様もまた、婚約者がいながら別の女性に浮気しています。

何ということでしょう。お互いに浮気して、しかも相手にバレていないと思っているのです……。


とはいえ、世間からみれば浮気でも、これは最初からそう仕組まれていたのだから、浮気という気分でもないのよね。

初めから王子と聖女をくっつけるつもりだったのだから。


フリーになる私が、他の異性にかまけても、それは浮気とは言わないわ。

親同士が決めた婚約で、他の異性に手を出すことは貴族社会ではよくあること。もちろん体面はあるから、大っぴらにするものでもないのだけれど。

……そもそも側室があって、複数の女性を囲めるというのだから、悪びれることもないのだけれど。


ただし、男性に限る。女性には、ひとりの男性に貞操を守って云々かんぬん。なのでこの状況だとお互い浮気していても、私のほうが悪いと世間では見られる。

ただ嫌われ悪役令嬢を演じる上では、この世間の見方はむしろ私にとって都合がよくはある。


それもこれも、王子様がハーレムを作らず、ひとりの女性と添い遂げようとしていることに原因があるんですけどね。

ただこれ『赤毛の聖女』の仕様上、攻略対象男子はハーレムを作らない影響もあるのだけれど。

いや、もしヴァイスがハーレム上等だったとしたら、この場合は私が完全に浮気の大悪女になってしまうわね。


――と、帰りの道中、そんなことばかり考えていたのは、多少なりとも罪悪感があったからかもしれない。


罪悪感。


切なさと少々の痛み。バレたらどうなるのだろう、という不安もある。

私はこの背徳感を楽しんでいる悪い娘なのだと思う。

悪役令嬢に私はなる!

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