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残り二日。
昼前。
九人が集まったリビングに、突然天使が現れた。
当然のように魔王ソファの真ん中へ座り、お菓子の袋を開ける。
阿部は少し離れたところから、その姿をじっと見た。
「……何?」
天使が聞く。
「いや。普通に来るようになったなと思って」
「居心地いいからねー」
「俺たちの家なんだけど」
「でもこのソファ、魔王のだし」
「魔王が勝手に作ったんだよ」
横で渡辺が笑う。
「もう諦めなよ。完全に天使と魔王の別荘じゃん」
「嫌だよ」
そんな阿部を無視して、天使はお菓子を一つ食べた。
「そういえば、そろそろ魔王帰ってくると思うよー」
阿部がすぐに振り返る。
「本当に?」
「多分」
「また多分!」
佐久間が吹き出した。
「天使ずっとそれじゃん!」
「だって魔王の予定なんて分かんないもん」
「帰るのに必要なんでしょ?」
「必要だよ」
「じゃあ把握しといてよ!」
阿部が言うと、深澤まで笑い始める。
「帰る前なのに、魔王待ちで揉めると思わなかったね」
「俺もだよ」
岩本が天使を見る。
「帰ってきたら、すぐ帰れるの?」
「うん。みんなが帰るって決めてるならね」
その言葉に。
少しだけ空気が変わった。
天使は一人ずつ顔を見る。
「決めた?」
佐久間が阿部を見る。
ラウールも。
康二も。
みんな自然に阿部へ視線を向けた。
阿部は少し考えてから頷く。
「うん」
以前なら。
その一言を言うだけでも迷っていた。
今は違う。
「帰るよ」
天使が笑う。
「そっか」
それだけだった。
でも。
どこか嬉しそうに見えた。
「じゃあ、準備しといてねー」
「準備って何?」
「気持ち?」
「曖昧すぎない?」
「大丈夫、大丈夫」
「その大丈夫信用できない」
渡辺がすぐ反応する。
「あべちゃん、大丈夫一回で信じないんじゃなかった?」
#❤️💙
みら

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「天使にも適用するの?」
「した方がいい」
また笑いが起きた。
天使は最後まで気にする様子もなく、お菓子を持ったまま消えていった。
「……お菓子持って帰った」
阿部が呟く。
「人の家のなのに」
目黒が笑う。
「また買おう」
「そういう問題じゃないんだけど」
でも。
阿部も笑っていた。
帰る話をしても。
もう空気が重くならない。
それが。
少し嬉しかった。
その日の夕方。
阿部は冷蔵庫のカレンダーを見ていた。
やりたいことリストには、たくさん丸がついている。
海。
キャンプ。
花火。
料理。
アニメ。
ゲーム。
歌。
ダンス。
写真。
目黒との二人の日。
まだやっていないことも少しある。
佐久間が後ろから覗き込んだ。
「明日何する?」
「どうしようか」
「夢の国もう一回行く?」
ラウールがソファから言う。
「海もう一回でもいい」
康二も。
「写真撮りにどっか行く?」
深澤は。
「俺は温泉でもいいよ」
渡辺がすぐに見る。
「また?」
「好きなんだからいいじゃん」
みんなが好き勝手に言い始める。
阿部は。
その声を聞きながらカレンダーを見ていた。
残り一日。
最後なら。
何か特別なことをした方がいい気もする。
ここでしかできないこと。
夢だからできること。
豪華な場所へ行って。
たくさん写真を撮って。
思い出を増やして。
でも。
なぜか。
どれもしっくりこなかった。
「ねえ」
阿部が振り返る。
みんなが見る。
「明日さ」
「うん?」
「何もしない日にしない?」
佐久間が目を丸くする。
「何もしない?」
「うん」
「最後かもしれないのに?」
「だから」
阿部は少し笑った。
「普通に過ごしたい」
誰かがすぐに反対するかと思った。
でも。
最初に頷いたのは目黒だった。
「いいと思う」
岩本も。
「俺も」
深澤が魔王ソファにもたれる。
「じゃあ昼くらいに来て、適当に過ごす?」
「それがいい」
阿部が頷く。
最後だから。
何かをしなければいけないわけではない。
ただ九人でいる。
それだけの日があってもいい。
翌日。
本当に。
何の予定もなかった。
昼前から一人ずつ集まり始めて。
誰かが来るたびに、
「おはよう」
「遅い」
「何か買ってきた?」
そんな会話をする。
宮舘が昼ご飯を作る。
渡辺はカウンターに座りながら、それを見ているだけ。
「手伝わないの?」
阿部が聞く。
「今日は何もしない日でしょ」
「都合よく使ってる」
「いいの」
ラウールは冷蔵庫を開けて。
「アイス食べていい?」
「ご飯前」
宮舘に止められる。
深澤は魔王ソファですでに横になり。
岩本も隣でテレビを見ていた。
「ふっか、今日来てからほぼ動いてないよね」
阿部が言う。
深澤は目を閉じたまま答える。
「何もしない日だから」
「翔太と同じこと言ってる」
「今日はそれが正解」
佐久間はテレビの前でアニメを探し。
康二はその様子を写真に撮る。
「康二は結局写真撮るんだ」
「これは何もしてへんうちに入る」
「入らないと思う」
「俺にとっては入る」
みんな。
自分に都合のいいように解釈していた。
阿部は笑いながら。
目黒の隣へ座る。
すぐに手を握られた。
「めめは?」
「何?」
「何もしないの?」
「してるよ」
「何を?」
目黒は繋いだ手を見る。
「あべちゃんといる」
阿部が少し呆れる。
「それ何もしないに入る?」
「入る」
「みんな適当すぎる」
それでも。
手は離さなかった。
昼ご飯を食べて。
テレビを見て。
途中で何人か寝た。
目を覚ましたら。
誰かがまた何かを食べている。
話題も。
大したものではなかった。
昔の仕事の失敗。
最近見たアニメ。
帰ったら食べたいもの。
誰が一番寝相が悪いか。
本当に。
くだらない話ばかりだった。
でも。
阿部は。
その時間が妙に好きだった。
誰も何かを解決しようとしていない。
誰も誰かを支えようと頑張っていない。
泣いてもいない。
深い話もしていない。
ただ。
一緒にいる。
夕方。
窓の外が少しずつ暗くなっていく。
阿部はソファに座ったまま、部屋を見回した。
佐久間は床に座ってラウールと何か見ている。
康二は撮った写真を確認中。
渡辺は宮舘の肩にもたれて眠そうにしている。
深澤も半分寝ていて。
岩本はそんな深澤にブランケットをかけた。
目黒は。
ずっと隣にいる。
「……俺さ」
阿部が呟く。
「何?」
目黒が聞く。
阿部は。
みんなを見る。
「こういうのが欲しかったのかも」
佐久間が振り返る。
「こういうの?」
「うん」
阿部は少し考える。
「夢の国とか、温泉とか、海とか」
「全部楽しかったし」
「また行きたいけど」
一度。
言葉を切る。
「一番欲しかったのは、こういう時間だったのかもしれない」
誰も急かさず聞いている。
「九人で」
「何でもないことして」
「普通にご飯食べて」
「寝たり」
「喋ったり」
少し笑う。
「そういうの」
深澤がブランケットの中から言う。
「現実でもできるよ」
阿部が見る。
「忙しいじゃん」
「毎日は無理でも」
「たまにはできるでしょ」
岩本も頷いた。
「時間作ればいい」
ラウールも。
「九人全員休みの日、作ってもらおうよ」
渡辺が。
「それ一番難しくない?」
と言う。
佐久間が笑う。
「そこは事務所に頑張ってもらお!」
康二も。
「年一でもええやん」
宮舘が続ける。
「九人で何もしない日」
阿部は。
その言葉を聞いて笑った。
「いいね」
目黒が。
隣で手を握る。
「じゃあ帰ったら作ろう」
「うん」
特別な旅行でも。
豪華な場所でもない。
九人で何もしない日。
阿部は。
それを。
また一つ。
帰ったらやりたいことに加えた。
夜。
みんなが帰ったあと。
部屋は静かになった。
阿部は。
冷蔵庫のカレンダーを見る。
予定通りなら。
明日。
魔王が帰ってくる。
本当に帰ってくるかは。
まだ少し怪しい。
でも。
もし帰ってきたら。
夢で過ごす最後の夜になる。
「めめ」
「ん?」
「明日かもしれないね」
目黒もカレンダーを見る。
「うん」
二人で寝室へ向かう。
布団に入っても。
しばらく眠れなかった。
阿部が隣を見る。
「めめ」
「起きてるよ」
「怖い?」
少し間があった。
「怖い」
目黒は正直に答えた。
「帰ったら病院だし」
「うん」
「あべちゃんが本当に目覚ますまで」
目黒は天井を見る。
「多分、怖いと思う」
阿部も。
少しだけ黙った。
「俺も怖い」
現実へ戻ること。
身体の痛み。
病院。
女優。
仕事。
外の世界。
全部が待っている。
それでも。
阿部は布団の中で手を伸ばした。
目黒の手を探して。
握る。
「起きたら」
「うん」
「最初に、めめの手握るから」
目黒が。
息を止めたのが分かった。
阿部は続ける。
「夢の中みたいに」
「ちゃんと握り返す」
目黒は。
しばらく何も言わなかった。
それから。
阿部の手を強く握る。
「……待ってる」
「うん」
「絶対?」
阿部が笑う。
「二回聞く?」
「今日は聞く」
「絶対」
目黒が。
少しだけ笑った。
「分かった」
二人は。
繋いだ手を離さなかった。
夢の始まり。
目黒は。
病院で阿部の手を握っていた。
何度呼んでも。
握り返されなかった手。
今度は。
その続きを。
現実でする。
阿部は。
目を閉じる。
夢を終わらせるためではない。
目を覚まして。
続きを始めるために。
明日を待った。
コメント
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第54話、読み終えたよ〜〜〜!!😭💕 「何もしない日」、めっちゃ良かった…。九人でただ一緒にいる時間って、それだけで宝物だよね。阿部ちゃんの「こういうのが欲しかったのかも」に胸ぎゅってなったし、目黒くんとの「握り返す」約束、言葉にできなくていいよね…。帰る前の静かな温かさと、現実への不安と、二人が繋いだ手が本当に尊いです🥺✨ 明日が最終回なのかな…でも絶対ちゃんと続き見届けるからね!!💪🌸