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みら

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次の日。
昼前には、九人全員が目黒の家に集まっていた。
特別なことをしているわけではない。
魔王ソファに座って、飲み物を飲んで、昨日と同じようにくだらない話をしている。
ただ。
全員が、どこか落ち着かなかった。
今日かもしれない。
そう思っているから。
阿部も何度か玄関の方を見ていた。
「ほんとに帰ってくるかな」
「予定では今日でしょ?」
ラウールが言う。
「予定通り動く魔王に見える?」
渡辺が返す。
「見えない」
「でしょ」
深澤が笑った。
「もう一週間延長とか言われたらどうする?」
「嫌だよ」
阿部は即答した。
その瞬間。
インターホンが鳴った。
全員が止まる。
佐久間が勢いよく阿部を見る。
「来た!?」
「まだ分かんない」
阿部は立ち上がり、モニターを見る。
そこには。
知らない男が立っていた。
サングラス。
大きな旅行鞄。
両手には大量の紙袋。
見覚えはない。
でも。
阿部には何となく分かった。
通話を繋ぐ。
「……誰?」
『俺ー』
「だから誰?」
『魔王』
リビングから笑い声が聞こえた。
阿部は額を押さえる。
「やっぱり」
『開けてー。荷物重い』
「自分でどうにかできるでしょ」
『旅行帰りの人に冷たくない?』
「一ヶ月待たされた人に言わないで」
それでも鍵を開ける。
しばらくして、玄関が開いた。
「ただいまー!」
人間の姿をした魔王が、大量のお土産を抱えて入ってくる。
佐久間が一番に駆け寄った。
「お土産!」
「そこ!?」
阿部が言う。
魔王は嬉しそうに紙袋を床へ置いた。
「いっぱいあるよ」
「どこ行ってたの?」
康二が聞く。
「世界一周」
全員が黙る。
渡辺がゆっくり振り返った。
「……世界一周?」
「うん」
「一ヶ月で?」
「魔王だから」
深澤が吹き出す。
「便利だな、魔王」
「すごかったよ。海も山も街も全部行った」
「こっちはあんた待ちだったんだけど」
阿部が言うと、魔王は悪びれず笑った。
「でも楽しかった」
「知ってる。ポストカード来たから」
「写真よかったでしょ?」
康二がすぐに頷く。
「ええ写真やった」
「康二!」
「写真は写真やん!」
また笑いが起きる。
帰る日なのに。
最後まで。
魔王は魔王だった。
「で」
岩本が少し空気を戻すように言った。
「帰れるんだよね?」
「帰れるよ」
魔王が頷く。
その瞬間。
いつの間に来たのか。
魔王ソファの端に、天使が座っていた。
「うん。帰れるよー」
全員が一斉に振り返る。
阿部が目を見開く。
「いつ来たの?」
「さっき」
「普通に入ってこないでよ」
「最後だからいいじゃん」
天使はいつもの調子で笑う。
でも。
その顔は少しだけ優しかった。
「じゃあ説明するね」
九人が自然と天使を見る。
「帰り方は簡単」
天使は魔王を指差した。
「魔王がみんなを眠らせる」
「眠らせる?」
佐久間が聞く。
「うん。そのまま眠れば、次に目を開けた時は現実」
思っていたより。
ずっと簡単だった。
阿部は少し驚く。
「それだけ?」
「それだけ」
深澤が首を傾げた。
「それさ」
「何?」
「あべちゃんでもよかったんじゃない?」
阿部も。
「あ」
と思う。
夢の中で何度も魔法を使った。
魔王にもなった。
眠らせるくらいなら。
できそうな気がする。
でも。
魔王は即座に首を振った。
「無理」
「なんで?」
「だって、あべちゃん魔王レベルカンストしてるもん」
沈黙。
魔王は普通に続けた。
「あべちゃんが眠らせる魔法使ったら、どれだけ加減しても生身の人間は三年くらい起きないよ」
また。
沈黙。
渡辺が最初に口を開いた。
「三年?」
「うん」
「それ寝てるって言う?」
「寝てるよ」
「長すぎるだろ」
ラウールが阿部を見る。
「あべちゃん、そんな強いの?」
「俺が聞きたい」
深澤が笑い始める。
「レベルカンストしてるんだ」
岩本まで笑っている。
佐久間が目を輝かせる。
「あべちゃん最強じゃん!」
「嬉しくない」
魔王が頷く。
「俺より強いよ」
「帰る直前に変な情報増やさないで」
阿部が言うと。
全員が笑った。
最後の最後まで。
重くなりすぎない。
そのことが。
阿部には少しありがたかった。
笑いが落ち着いたあと。
魔王が九人を見た。
「で」
少しだけ真面目な声になる。
「もう準備できてる?」
誰も。
すぐには答えなかった。
でも。
迷っているわけではなかった。
岩本が最初に笑う。
「できてるよ」
深澤も頷く。
「むしろ魔王待ち」
渡辺も。
「一ヶ月待ったからね」
康二が笑う。
「こっちはとっくに準備できとったで」
ラウールも。
「帰ったらやりたいこといっぱいあるし」
佐久間が阿部を見る。
「続きもあるしね」
阿部は。
その言葉に笑った。
「うん」
宮舘も静かに頷く。
「帰ろう」
最後に。
みんなの視線が阿部へ向く。
阿部は。
一人ずつ顔を見る。
怖くないわけじゃない。
現実へ戻れば。
痛みもある。
病院もある。
事件のことも。
仕事のことも。
全部。
ここみたいに優しいものだけではない。
それでも。
帰ったらやりたいことがある。
九人で歌いたい。
踊りたい。
写真を撮りたい。
ご飯を食べたい。
イベントへ行きたい。
何もしない日も作りたい。
そして。
目黒と一緒に家へ帰りたい。
「俺も」
阿部は言った。
「準備できてる」
目黒が。
隣で静かに笑った。
天使も。
満足そうに頷く。
「じゃあ、帰ろっか」
魔王が立ち上がる。
「みんな楽な姿勢になって」
佐久間がすぐソファへ深く座る。
「ここで寝ていい?」
「どこでもいいよ」
「俺もソファ」
ラウールも座る。
渡辺と宮舘。
深澤と岩本。
康二も。
それぞれが近くに座る。
阿部は。
目黒の隣。
いつもの場所。
魔王ソファに腰を下ろした。
目黒を見る。
「めめ」
「うん」
阿部は。
何も言わず。
手を伸ばす。
目黒の手を握った。
すぐに。
強く握り返される。
昨日。
約束した。
目を覚ましたら。
今度は現実で。
この手を握り返す。
魔王が。
少し離れたところに立つ。
「じゃあ魔法かけるよー」
軽い声。
本当に。
これで終わるらしい。
阿部は。
最後に部屋を見た。
広くなったリビング。
魔王ソファ。
みんなが集まった場所。
笑った。
泣いた。
何度も話した。
ここで。
記憶のない自分が。
もう一度みんなに出会った。
もう一度。
目黒を好きになった。
全部。
持って帰る。
阿部は。
目黒の手を握ったまま。
ゆっくり目を閉じた。
「めめ」
「うん?」
「向こうでも」
少しだけ笑う。
「よろしくね」
目黒の指が。
阿部の指に絡む。
「こちらこそ」
魔王の声が聞こえた。
「おやすみー」
身体から。
ゆっくり力が抜けていく。
眠い。
でも。
怖くない。
最後に聞こえたのは。
隣にいる目黒の声だった。
「あべちゃん」
阿部は。
握った手に。
もう一度だけ力を込める。
そして。
夢の中で。
最後の眠りについた。
コメント
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おはようございます☀ 一気に読みました。 帰って来たんですね 魔王が 本当に適当だね。でもそれが重くならないから良いのかも 現実に戻るのですね。 続き待ってます♪
いやあ、読んでてじんわり温かくなりました……「魔王が世界一周してた」っていう軽い衝撃から、最後の「おやすみー」まで、ずっと同じ空気が流れてるのがいいですね。レベルカンストしてる阿部ちゃんの「三年起きない」ネタも笑ったけど、その後の「持って帰る」って内面の整理、すごく好きです。手を握って、目を閉じて、終わっていく――静かなのに確かな決意があって、読んでるこっちも「帰れるんだな」って安心できました。素敵なエピソードでした。