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「はい、わかりました。
恐らく明日中には……
引き続き受け入れ体制を―――
え? はい、それも出来れば」
「はい!
船団はライシェ国およびアイゼン国へ
向けて、すでに出発させていますので!
こちらで20隻、後は90隻ずつ
何とか……!」
「え!?
ヒミコ様が直接指揮を執って来て
くださると……
それは助かります!」
ランドルフ帝国の船団を『戦闘停止』にした
その後……
海岸に作られた拠点は修羅場となっていた。
「あの、帝国のみなさんが休憩出来る小屋は、
取り敢えず土魔法でなんとか用意しました」
ラミア族が忙しそうに、拠点の指令室とも
言える部屋に報告しに来て、
「ありがとうございます。
それと水分補給は十分にさせてください。
氷も出来る限り配って―――」
「はい水出すよ水ー。
……てか容器絶対足りないよねコレ」
「後の事まで考えて無かったからのう」
俺の指示の後、メルとアルテリーゼも
忙しそうに動き回りながら話す。
確かにあの後、帝国の二百隻の船団は
こちらの指示に従う意を示した。
問題はその人数が想定外に多かった事。
大小の船にはそれぞれ十人~三十人ほど
乗船しており、二百隻ともなればその総数は
四千人を超える。
またこの拠点にはそれだけの船を停泊させられる
港は無く―――
緊急で魔力通信機で各国と連絡を取り、
ウィンベル王国が調整、
船に関してはライシェ国とアイゼン国が
その大半を保管・管理するために受け取り、
人員もある程度収容してくれる事となった。
ただ両国はそれぞれ五百人程度が限界だと
いう事で……
残りの三千人をいったんウィンベル王国で
預かり、
一応国交のあった新生『アノーミア』連邦が
二千人の受け入れを表明し―――
その他は調整が付き次第、チエゴ国・クワイ国・
魔族領他連合国へ輸送していく、という話で
落ち着いた。
「わ、私はどうなるのだ……?」
そこでランドルフ帝国船団の最高責任者という、
太った軍人がつぶやく。
「えーと、ゾルタン副将軍殿……でしたっけ。
一応、軍の上層部の方々はウィンベル王国の
王都・フォルロワへ行って頂く事になります。
ドラゴンの『乗客箱』に乗っての移動と
なりますので、お時間はかからないかと
思いますが」
ドラゴンという言葉に、副将軍ほか部下の
面々は目を丸くする。
「し、質問してもいいだろうか。
あれは何をしているのだ?
噂に聞いていた魔力通信機か?」
仕官の一人であろう青年がおずおずとたずね、
「はい。
あれで各国と連絡を取り合っております。
何せ人数が多いので―――
今、どの国がどれだけ受け入れられるのか
調整しているのです。
ご不便かと思いますが、それが決まるまで
しばし御辛抱を」
それを聞いたゾルタン以下の表情は青ざめる。
魔力通信機の事は聞いていたが、それは
あくまでもせいぜい数十メートルの範囲内、
建物や船同士の連絡に使える程度だと推測
していた。
しかし、『国単位の連絡が可能』……
そうあっさりと目の前での事を説明されて
しまったのである。
彼らは軍人として教育を受けたエリートであり、
『国家間の距離の応答が一瞬で済む』という事が
どれだけのアドバンテージになるか理解し、
また同時に、仮想敵国の内情把握に全力を
上げる事を決意。
そして喧騒の中―――
帝国の副将軍とその部下たちは、大人しく
時間が過ぎるのを待ち続けた。
「では、帝国のワイバーンライダーの扱いは
お任せいたします」
「国は違えど同胞。
まあ悪いようにはせぬ」
その日の夕暮れになって―――
ワイバーンの女王・ヒミコ様が、『乗客箱』に
似た移動用の客車を前に話す。
真っ赤な長髪に抜群のプロポーションの
姿の彼女の隣りには、当然夫であるマルズ国の
第九王子、エンレイン様もいる。
「意外と、と言っては何だが……
そこまで酷い扱いは受けていないようで
ホッとしたよ」
二十歳そこそこの、中性的な顔立ちの青年が
妻と一緒にワイバーンライダーの方へ目をやる。
彼らに対し、少し事情聴取をしたのだが、
王子様の言う通り―――
帝国でワイバーンライダーに就く者は、
それなりに信頼関係を築いていたらしい。
基本は空か海の上で、落とされたら
一蓮托生……
そんな環境で命を預ける『パートナー』に、
一方的な仕打ちは出来なかったのでは
ないか―――
それがヒミコ様の感想だった。
「まあ卵や雛を盾に言う事を聞かせるのは
感心せぬがな。
マルズ国までの輸送は責任を持って行うので、
安心するがいい」
そう言うと彼女はワイバーンの姿となり、
夫であるエンレイン王子様は、彼女の抱える
『乗客箱』に似た客車へと乗り込む。
今回、彼女は五十騎のワイバーンと共に
海岸の拠点まで飛来し、人を乗せては
ピストン輸送していたが、いかんせん数が
足りないので、
一日一往復として、数日かけて二千人を
運ぶとの事だ。
「結局、拠点にはどのくらい残ってるのー?」
アジアンチックな顔立ちの妻が、私に話しかけ、
「2,500人以上って聞いた。
グラキノスさんが来てくれて助かったよ。
少なくとも暑さからは逃れられるからな」
魔族領からは、『対鏡』のノイクリフさんに
『永氷』のグラキノスさんが来ていたが、
ハイ・ローキュストの大群の防衛戦よろしく、
拠点一帯を氷のドームで覆ってくれたので、
帝国軍の人たちもその恩恵を受けていた。
もしかしたらそれを見越して、魔王・マギア様が
派遣してくれたのかな?
まあイスティールさんにオルディラさんは、
彼の護衛のようなものだし……
大規模な戦力相手に対しては妥当な人選とも
思う。
「食料の味付けは味噌が中心となるのう。
数ヶ月分の保存が消えるが、まあ仕方なし。
ヒミコたちが食料をいくらか持ってきてくれて
助かったわい」
次いで、西洋モデルのような体形の妻が、
大きな鍋を運びながら声をかけてくる。
「問題は具だよなー……
ラミア族や人魚族が、魚介類を獲ってきて
くれるらしいけど」
この世界、食料は必須ではないが―――
いずれランドルフ帝国に帰るであろう事を
考えると、彼らの扱いは神経を使う。
帝国もいくらか食料は持参していただろうが、
百八十隻はすでにライシェ国・アイゼン国へ
出航済み。
二十は残っているので、そこまで深刻な
状況ではないが。
夕食の献立に頭を悩ませつつ、私は家族と
共に奔走した。
「う、うまい!
これが小麦の塊とは……!」
「すいとんって言うんですけどね。
小麦粉に片栗粉をちょっと混ぜて、水と一緒に
練ったものです」
ゾルタン副将軍が、味噌汁に入れた具に驚き、
「まるで氷の洞窟の中にいるようですから、
熱いものでも大変美味しいです!」
「魚も貝も、このスープにとても合ってて……
まさか野外でこのような料理が食べられる
なんて」
彼の部下たちもまた、元から船に保存されていた
乾パンのような物を片手に舌鼓を打つ。
そして魚や貝は、こちらが提供したものだ。
ラミア族や人魚族が、海の幸の捕獲に全力を
挙げてくれていたのだが―――
途中、カジキマグロの化け物のような魔物、
鬼カジキを発見。
私もすぐに呼ばれたものの……
水中生物のある程度の巨大化は私の常識の範囲内
なので、どうしたものかと思っていると、
クチバシを水中に空にと飛ばしてきたので、
『あ、こんなのいないから』と即座に無効化。
まるでクジラのような巨体を手に入れる事が
出来、食料問題が一息付いたのであった。
「それにしても……
攻撃魔法の使い手がほとんどいなかった、
というのは」
そしてここで判明した事が一つ。
鬼カジキの発見を受け、ランドルフ帝国側にも
手伝ってくれる人を要請したのだが、
なんと、航行用の風魔法の使い手を除いて、
強力な攻撃魔法を使う人間は乗船していない
というのだ。
「船での移動ですから、攻撃範囲や威力の高い
魔法は、危険という認識なんです。
火魔法なんてもってのほかですし、
雷魔法も周囲への影響を考えると……」
「それに火力だけならワイバーンがおります
からね。
今回はいつ対空飛翔体が撃ち出されるのか
判明しなかったので―――
それも船上待機となりましたから」
つまり、船団行動となる以上……
あまり威力の高い魔法は却って行動が
制限されてしまう、という判断らしい。
さらに今回は対空攻撃兵器の試験航行と
いう事で、うかつにワイバーンも動かせなく
なってしまい、
そこで進退窮まった、との事だった。
「なるほど。
どうして魔法攻撃が一切無かったのか、
不思議に思っていたのですが」
「我が国には、水上戦力はほとんどと
言っていいほどありませんから―――
確かに、そういう意味では盲点でした」
アリス様とニコル様、婚約者同士が揃って
うなずく。
「私としては、『水中』戦力なるものが
あるという事が驚きだったが……」
「そ、そうです!
それに対空飛翔体が突然故障した事も!」
「あれはいったい……!?」
こちらが、対空魔法が無かった事が疑問だった
ように―――
帝国側はどうして対空飛翔体が機能しなくなった
のかが重要なのだろう。
だが、まさか自分の能力を話すわけにもいかず、
どうしたものかと思っていると、ブラウンの
ショートカットをした伯爵令嬢が、
「……我が国には、凄まじい『抵抗魔法』の
使い手がいる―――
という話は伝わっておりませんでしたか?」
アリス様の言葉に、ランドルフ帝国の面々は
顔を見合わせる。
そこで離れたところから声がして、
「シンー、そこにいたんだ」
「やっと鬼カジキの解体が終わったぞ。
と言っても、もう半分は使ったがな」
妻であるメルとアルテリーゼが手を振りながら
近付いてきて、
「シン……
『抵抗魔法』……
万能冒険者―――
ま、まさか!?」
ゾルタン副将軍が、涼しい氷の中だというのに
ダラダラと汗を流し始める。
確かこの人は船団の最高責任者らしいし、
私の情報も一応は知っているのかも知れない。
「私が範囲索敵であなた方を発見した翌日には、
水中からすでにシン殿が『抵抗魔法』で
無効化していたんです。
人魚族やラミア族が水中でそれを確認後、
合図で報せる手筈になっていました。
あの時の信号弾はそういう事だったんです」
まるで少女のような顔立ちのシルバーヘアーの
少年が、婚約者の女性の言葉を補足する。
硬直したような面持ちになっている帝国の
上層部に、
「ま、まあまあ。
今は食事を楽しんでください」
「そうですよー。
せっかくシンやラミア族、人魚族が
獲物獲ってきてくれたんですから」
「明日はクラーケンくらい来てくれぬ
ものかのう」
何とか家族と一緒にフォローを入れて、
夜は更けていった。
「さて、明日我々はウィンベル王国の王都へ
移送される事になっているのだが……」
深夜、ゾルタン副将軍及び部下にあてられた
拠点の部屋で―――
彼らは話し合っていた。
「もし、我々が未帰還という事態を受け、
本国が救援、もしくは本格的な戦争状態に
突入した場合……
帝国は勝てると思うか?」
その問いに、部下たちは一斉に首を横に振る。
「こちらに水中戦力がある、という事が
判明しましたが―――
今回、ただの1隻も本国へ帰還する事が
出来なかったため、情報が伝えられず
対応が取れません。
それは即ち、我々と同じ道をたどる事を
意味しています」
「と言いますより、現状……
水中戦力に対する有効な手段は無いかと。
同じようにラミア族や人魚族のような種族を
扱うにしろ―――
今の体制では協力すらしてくれるかどうか」
帝国の人外・亜人に対する差別を彼らはよく
知っており……
眉間にシワを寄せる。
「万が一、帝国が再度押し寄せる事態に
なりましたら―――
どうにか我々を最前線へ同行させて、
説得の機会をもらえるよう、お願いするしか
ありません」
「それが最善の手段ですね。
飛翔体は万能冒険者の『抵抗魔法』で
無効化され、ワイバーンは数において
劣り……
さらに水中にはロック・タートルまで
待ち構えている。
どう考えても戦う相手を間違ったとしか」
部下の意見をただ肯定しか出来ず、
ゾルタンは大きく息を吐く。
「最先端の魔導具も技術も全て寄越す、
帝国より少しだけ文明レベルの高いお人好しの
大陸と侮っていたが……
水上戦力が無いというのも納得だ。
水中を自由に動き回る戦力があれば、わざわざ
敵の視界に身をさらす的など必要あるまい」
彼の分析に、彼らは沈黙で答える。
「平和的で友好な態度を見せつけつつ、
裏では警戒を怠っていなかった。
もし本国に戻る事が出来たら、
全身全霊で対等な同盟を結ばせるぞ!
諸君らも、敵対的な態度は慎むようにな」
「「「ハハッ!!」」」
こうして、帝国側の上層部は方針を決めると、
氷のドームに包まれた快適な気温の中、
彼らは眠りについた。
「ただ今、戻りました~……」
「お、おう。ご苦労」
私は公都『ヤマト』の冒険者ギルド支部に
到着すると、まずそのトップへあいさつに
来ていた。
「お、お帰りなさいッス」
「結構時間かかりましたね?」
レイド夫妻が取り敢えず労う言葉を口にする。
結局、各国へ残りを振り分けるのに、
丸五日ほどかかり―――
拠点にも帝国の軍人を二十人ほど任せて、
ようやく事態は落ち着いた。
「まあ、日に日に人は減っていったので、
後になるほど楽になったんですけど」
「……別に食料は必須じゃなかっただろ。
あちらも捕虜同然って事はわかっていた
だろうし―――
何がそんなに疲れたんだ?」
ジャンさんが白髪交じりの髪をガシガシと
かきながら聞いてくる。
「食事はラミア族や人魚族の協力で、
意外と何とかなったんですけど―――
トイレがですね……」
そこで褐色肌の青年と、その妻の丸眼鏡の女性は
微妙な表情となる。
そう―――
一番難儀したのはトイレ事情。
何せ、せいぜいが二百人程度を収容する施設に、
二千五百人が追加されたのだ。
彼らの船も現場に二十隻ほど残っていたし、
そこにもトイレはあったのだが、
処理は後で沖に出て捨てるというのと、
一度拠点のトイレを経験した帝国の軍人は、
二度と船に向かう事は無く、
おかげで食事後は何かのアトラクションの
ごとく、行列が出来る有様だった。
「毎日下水道にもぐって清掃しなきゃ
いけませんでしたからね……
グラキノスさんの氷ドームがあったので、
暑さからは逃れられましたけど……
それが無ければ正直厳しかったですよ」
「そ、そうか」
ジャンさんが対応し、そして今回の件を
さらに詳しく報告して―――
一段落した事を告げる。
「でも面白い話ッスね。
強力な攻撃魔法は水上で使えない、なんて」
「確かにまあ、船上でぶっ放して他の船や
足場沈めたられらたまらねぇもんな」
「合理的な考え……なんですかね」
ギルドメンバーは口々に感想を述べる。
実際、火力としては飛行出来る機動力を持つ
ワイバーンがいて、
さらに対水上戦力用にも―――
五十隻用意していたと聞く。
そんな中、船の上でしか動けない範囲魔法を
使う戦力など、用意する意味も予算も無かったの
だろう。
「今回はホント……
後始末の方が疲れましたよ。
しばらくはゆっくり休みたいものです」
私がぐぐーっと伸びをするとレイド君が、
「奥さんたちは―――」
「メルとアルテリーゼは、ラッチを迎えに。
結構離れてしまいましたからね」
「だよなあ」
「ですねえ」
それを聞いたジャンさんとミリアさんが、
父娘のようにうなずく。
「しかし、アリス様か。
航空管制司令って言ったか?
ずいぶんと出世したもんだよなあ」
空軍戦力のトップは言うまでもなく、
ワイバーン騎士隊となるが、
その彼らに命令を下せるのが航空管制部隊、
そして司令がアリス・ドーン伯爵令嬢だ。
「将来結婚する相手が範囲索敵持ちの
ニコル様ですから……
意思疎通や情報処理において、この上無い
組み合わせだと思います。
それと、女性である事も幸いしていますね」
「?? それはどういう……」
ミリアさんが首を傾げると、
「警告にしろ問い合わせにしろ―――
男の野太い声で高圧的に言われるより、
女性の声の方が話を聞いてくれる確率が
上がりますから」
心理学でも、男より優しくて柔らかいイメージの
女性の声の方が、ストレス無く耳に入ってくると
言われている。
だからデパートや公共機関でも、案内や宣伝は
女性の音声である事が多い。
そういう助言をライさんやラーシュ陛下に
伝えたところ……
元から空軍に組み込まれていた彼女は、
ニコル様ともども航空管制部に抜擢された。
「確かに、冒険者ギルドの受付が全員
ゴツイ男だったりしたらキツいッスね」
「ああ……
すごくわかりやすいです」
レイド夫妻が語り合い同調する。
そして次は私の方から質問し、
「結局、6・7日ほど時間が取られてしまい
ましたが―――
公都の方で、何か変わった事とかは」
「そうだなあ。
これと言って無かったが……
あ、ドーン伯爵家からお前に相談があるとか
言っていたような」
「へ? 伯爵家から?」
その後、ギルド長始め彼らと情報共有した後、
私は自分の屋敷へと戻っていった。
「さてさてぇ?
ご自慢の訓練部隊が出航してから、
どのくらい経ちますっけぇ?」
「まだ10日だ。
外洋訓練であれば、別段珍しい時間では
あるまい?」
ランドルフ帝国帝都・グランドール―――
帝国武力省司令室。
そこで来客と思われる、ブロンドの長髪をした
女性と、
部屋の主である、眠たそうに眼を半開きにした
男が相対していた。
「200隻だっけ?
そこそこの規模だよね?
それが一隻も帰還せずというのは、ちょーっと
マズくありませぇん?
ねぇ、アルヘン将軍殿?」
「たかだか試験訓練の一部隊が戻るのが遅れて
いるだけで、問題は無い。
メリッサ魔戦団総司令殿……
用件はそれだけか?」
男の方は何事も無いかのように流すが、
女はからかうような口調のまま、
「アタシ、ティエラ王女様にも聞いたのよ。
空、陸上、水上戦力は全て見せて
もらったって言ってたから―――
『それ以外の戦力は?』ってね」
それを聞いて、アルヘンは片眉を吊り上げる。
「それ以外、だと?
何があるというのだ?」
「さあ?
ただ、もし『それ以外の戦力』があったと
したら……
全船未帰還って事態も起こり得るんじゃ
ないかねぇ?」
メリッサの言葉に将軍はため息をつき、
「どういう意味かわからん。
そういえば魔戦団総司令殿は―――
事あるごとに、不確定要素があると
口にしていたが……
少しは現実に則した発言をしたらどうかね」
すると彼女は人差し指を垂直に立て、それを
振り子のように動かしながら、
「あらぁ? 無いって言いたいワケ?
じゃあさ、あのアストルって亡命者が―――
飛翔体ってモン作ったんだよね?
アレってどこの戦力に属してんの?
空? 陸上? それとも水上?」
「む……
あれは新機軸の兵器だ。
今は陸上と水上だが、開発が進めば
ワイバーンに装備させる事も」
するとメリッサはつい、とアルヘンの前に
顔を突き出し、
「その新機軸の兵器とやらは、あちらの大陸から
亡命してきたアストルの作ったもの。
じゃああちらの大陸に、アストル以外に
新兵器を作る者がいなかったとでも?
そんな都合の良い話は無い―――
ってのがアタシの見解なんですけどねー」
将軍はしばらく魔戦団総司令をにらむように
見つめていたが、やがてそれに疲れたという
感じで視線を外し、
「ご忠告感謝する。
それでもし向こうが新機軸の兵器とやらを
持っていたとしたら……
どのように対応するおつもりでしょうか?」
「んー、情報が足りな過ぎだからねー。
防衛に徹するならともかく攻め込むとなると、
計画は立てられないかなあ」
そこまで話すとお互いにフッと笑い合い、
「なかなか興味深い話だった。
今後もご鞭撻のほどを」
「次はお茶菓子お願いねー♪」
両者ともに組織のトップではあるが、
メリッサは全くそれを感じさせず、
風のように司令室を去っていき、
「やれやれ……
しかしどうしたものか。
今後の方針は―――
訓練部隊が戻って来てからだな」
一人司令室に残った武力省将軍は、
備え付けのソファに深く腰を掛け直した。