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「それでは、ドーン伯爵様と所縁の深い、
高名な万能冒険者―――
シン殿からお祝いの言葉があります!」
拍手と共に、私は緊張した面持ちで立ち上がる。
居並ぶ面々の中には、ドーン伯爵と縁続きに
なった、侯爵家や王族の顔まであり……
この世界では平民である自分に取って心臓に
悪いが、
顔見知りが多い事が、唯一の救いであった。
「えー、では……
ドーン伯爵家嫡男、ギリアス様と―――
フォス伯爵家三女、イライザ様……
お2人の結婚を祝しまして、僭越ながら
祝辞を述べさせて頂きます」
そう、この場は結婚式。
公都『ヤマト』の、領主様の御用商人の
屋敷兼滞在先。
バルク・ドーン伯爵家当主から、結婚式の
相談を受けていた私は―――
今回は裏方ではなく、式への出席を打診された。
ジャンさん曰く……
今を時めく万能冒険者との繋がりをアピールする
場である事と、
妻であるシルバークラスのメル、そして
ドラゴンのアルテリーゼと―――
『伯爵家にはこのような人脈がある』、
『下手に事を構えればドラゴンも敵に回る』、
そう誇示出来る機会でもあると説明された。
出席する事自体は問題無かったのだが、
選りに選ってスピーチを頼まれ……
それについて悩みに悩み、今日という日を
迎えたのである。
私はドーン伯爵家当主に近付くと、
ある小道具を取り出した。
「酒……ですか?」
片眼鏡に八の字に広がったヒゲの当主は、
それを見て私に問う。
「はい。
このお酒は―――
バルク・ドーン伯爵様より私に、初めて
下賜されたお酒でございます。
まだ『ヤマト』が公都ではなく、名も無き
町だった頃の話ですが」
(■10話 はじめての ちょうみりょう参照)
私は自分の手でお酒の封を解き、まずは
彼に……
そして二人の奥方に注いでいく。
それが終わると、今度は主役である二人、
ギリアス様とイライザ様の方へ赴き、
「頂きます」
「ありがとうございます……!」
深々と頭を下げられながら、私は二人の
コップへも酒を注ぐ。
そして最後に自分のコップにも注いで、
「このお酒は、先ほども申し上げました通り、
私が初めて伯爵様より頂いたものです。
いつか特別な日に開けようと思って
おりましたが―――
今日と言う日にピッタリだと思い、
用意いたしました」
あちこちから、『おお』『なるほど』と、
感嘆の声が上がる。
「ここで、私の故郷の話を一つ。
『酒には、今までの人生の味が加わる』、
そんな言葉があります。
お二人が、今のドーン伯爵様と同じ年に
なられた時……
うまい酒を飲めるような人生を歩んで欲しい、
そう願っています。
伯爵様からのお酒と、年長者としてのこの
話を以て―――
お二人の門出を祝う言葉に代えさせて
頂きます。
それでは、乾杯……!」
私がコップを持った片手を挙げると、
「乾杯!」
「乾杯!!」
と、方々でグラスやコップが掲げられ―――
何とか大役を果たす事が出来たのだった。
「いやー緊張したよー」
スピーチを終えた後に自分の席に戻ると、
「お疲れー、シン」
「良い話であったぞ」
「ピュウ」
アジアンチックな童顔の妻と、対照的に
西洋モデルのようなドラゴンの妻が出迎え、
労いの言葉をかけてくる。
席に着いて一息ついていると、
「師匠、お疲れ様です!」
「短いながら、感動するお話でしたわ」
ブロンドの短髪の青年と、細く切れ上がった目に
ウェービーヘアーの女性が私に挨拶してきた。
シーガル・レオニード侯爵家次男と―――
エリアナ・モルダン伯爵令嬢だ。
「お久しぶりです、シーガル様、エリアナ様」
私も席を立って返礼しようとすると、
「いや師匠、そのままで!」
「そ、それよりシン殿。
是非わたくしたちの結婚式でも、シン殿に
お言葉を頂けたらと……」
それにメルとアルテリーゼが食い付き、
「お!?
じゃあお2人も結婚を!?」
「おお、それはめでたい!」
と、反応したところでシーガル様が小声で、
「他の方の結婚式なんだから、今そういう話は」
「あ……
ご、ごめんなさい、シーガル様」
そこで私もフォローに入る事にし、
「最近はランドルフ帝国とのゴタゴタも
ありましたし―――
ワイバーン騎士隊は身動きが取れなかった
だろうからね。
結婚の話どころじゃなかったでしょう」
二人の立場を配慮するよう言葉を選び、
「もちろん、喜んで出席させて頂きますけど、
一応侯爵家からドーン伯爵家へ、話を通して
おいてくださいね」
「は、はい!」
「ありがとうございます」
二人は一礼すると、自分たちの席へと戻って
いった。
すると今度は入れ違いになるように、
ライさん……
もとい、ライオネル・ウィンベル様が
お見えになり、
「シンよ、大儀であったな」
「ライオネル様」
彼はそのままこちらの丸テーブルへと
座ると、小声だがくだけた態度になって、
「しかしお前さんもなかなかやるねえ。
ありゃこの上ないドーン伯爵家への贈り物に
なっただろう」
「はあ」
意図がわからずに私が少し首を傾げると、
「酒の話にかこつけて、伯爵からもらった酒を
大事に取っておいたと―――
これだけで、お前さんが伯爵家をどのくらい
重視しているのかがわかる。
また、町が公都『ヤマト』となる前……
つまり、昨日今日の関係ではなく、それなりに
付き合いが長い事を示唆したんだ。
あんな短い話で、よくもそれだけの意味を
持たせたモンだよ」
あの酒、取っておいたけど飲む機会が無く、
今回思い出したので使っただけなんだよなあ、
と思っていても口には出せず。
「王侯貴族相手ですからねー」
「神経を使うものよのう」
「ピュウ~」
家族が受け答えしていると、
「まあ慣れておけ。
もうお前さんたちだけの問題でも
無いからな」
「??」
私がきょとんとした表情になると、ライさんは
続けて、
「次の世代だよ。
多分、ドーン伯爵家や王家は―――
孫の世代とお前さんたちの子供を
くっつけようとしてくるぞ。
そうすりゃ縁続きとなって安泰だ」
「あー、ありそう」
「ラッチも、サイリック前大公から孫の相手にと
言ってきておったしのう」
(■134話
はじめての ちょうさいらい参照)
そういえばそんな事もあったな、と思い出す。
「ラッチの性別がまだわからないので、
その時はうやむやになったんですけど」
「まだどっちかわからないのか?」
今度はライさんが、ラッチの方を向いて
首を傾げる。
「そろそろわかってもいい頃なのだが」
「アルちゃんみたいに、人間に変身して
くれたら一発なんだけどねー」
「ピュイ?」
当のラッチは会話内容がわからないのか、
料理を口に頬張りながら大人たちを
見つめ返す。
「じゃあまた後でな」
それだけ言うと、ライさんは忙しそうに
去って、その後ろ姿を見送っていると、
駆け寄って来る小さな影が―――
「ラッチ~!!」
「あ、ヘンリー様」
ちょうどさっきの話に出てきた
サイリック大公家、その御子息である少年が、
来るなりラッチを抱き上げる。
「こら、ヘンリー!」
「シン殿。
お久しぶりです」
ご両親である、当主シュヴァン様、
そして夫人のマルテさんも姿を現す。
「お久しぶりです、お二人とも。
おや? 前大公様も確かいらっしゃった
ような」
「ああ、父上なら向こうで挨拶攻めにあって
おりますよ」
なるほど……
自分にも来るんだから、大公ともなると
そりゃ挨拶に来る人も多いよな。
その後、ロック前男爵様やシィクター子爵様、
ブリガン伯爵様他、顔見知りの王侯貴族と
挨拶を交わし―――
引き出物を頂いた後、結婚式場を後にした。
「はああ、疲れました……
それにしてもドーン伯爵家の嫡男の結婚式
でしたのに、どうして伯爵家の屋敷か王都で
挙げなかったんでしょうか」
翌日―――
私は妻二人と共に宿屋『クラン』を訪れ、
そこにちょうどいたギルドメンバーと一緒に
昼食を頼んでいた。
「そりゃお前、公都『ヤマト』が一番、
娯楽も食事も充実しているし……」
「ドーン伯爵家の威光を示すんだったら、
ここ以上のところは無いッスよ」
「王家専用施設もあるから、王族の人が来ても
対応出来ますしね」
ジャンさんにレイド君、ミリアさんが、それぞれ
ソーメンや冷やし系の麺類を頬張りながら語る。
「ん?
そういえばラッチちゃんは一緒じゃ
ないのかい?」
そこに料理を運んで来た、クレアージュさんが
疑問を口にし、
「ラッチはねー、サイリック大公様ご一行に
お邪魔しているから」
「結婚式で、ヘンリー君がラッチを
離さなくてのう。
まあ問題はあるまいて」
メルとアルテリーゼが、ザルソバをすすりながら
答える。
大公家の跡継ぎだし、仲良くしておいて損は
無いだろう。
それに立場上、なかなかラッチと会えないという
事情を考えると―――
こういう時くらい独占させてあげても、という
気持ちもあった。
「ライたちはどのくらいで帰るんだ?」
白髪交じりの筋肉質の体をしたギルド長が、
親友でもある王族のスケジュールを問う。
自分は納豆のとろみをつけた汁にソバを
つけながら、
「いても2日くらいだって言ってました。
例の帝国の『保護』した人たちの処遇もあり、
なかなか忙しいらしく」
「なるほど。『保護』ッスかー」
「まあ上の考える事ですので、アタシたちには
なんとも」
褐色肌の夫と、タヌキ顔の丸眼鏡の妻が
微妙な表情になる。
あれから、彼らの対応をどうするかは、
こまめに連絡を受けていたが、
例え局地的にしろ戦闘に入っていたと認めて
しまうと、後々問題になるとの見解から、
ウィンベル王国及び連合各国は……
『訓練航海していた帝国の船団が意図せず
領海に近付き過ぎてしまったため、
停船指示に従ってもらい、保護している』
という『形』に落とし込んだらしい。
これはまあ各国のトップオブトップの
判断なので、口出し出来る事も無く、
今後はランドルフ帝国がどう出て来るかの
様子見、となっている。
全隻未帰還なので、いきなり開戦に突入する
可能性は低く―――
まずティエラ王女様か誰かを、確認に寄越して
来るだろうというのが上層部の大方の見方だ。
「何にせよ、しばらくは落ち着きそうだな。
あ、女将さん。
葛餅出来ているかい?」
「あいよ!
量が多いけど大丈夫?」
ジャンさんにすかさずクレアージュさんが
答える。
多分、児童預かり所へのお土産か何かだろう。
「レイド、ミリア。
食い終わったら運ぶの手伝え」
「へーい」
「はーい」
息子や娘が父親に返事するように、
二人は答える。
「あ!
こっちにもちょうだーい。
3人前!」
「あいよー。
よく冷えているよー」
「おう、気が利くのうメルっち」
メルが私とアルテリーゼの分も注文してくれ、
それを待ちながら、昼下がりの長閑な時間に
身を任せた。
「はあ……」
ランドルフ帝国帝都・グランドール―――
その王宮の一室で、
パープルの長髪を眉の上で揃えた女性は、
その眉間にシワを寄せていた。
「お嬢、こうなっちまっては仕方ありませんや」
「訓練船団が全隻未帰還……
さすがにこれで、好戦的な連中も頭を冷やす
でしょうよ。
それに、確認のための使者として行かせて
くれって、もう頼んであるんでしょう?」
赤髪のアラフィフの男と、アラフォーの
ブラウンのボサボサ髪をした男性―――
従者の二人、カバーンとセオレムが、主人である
ティエラ王女に話しかける。
「そうですね……
後は軍部と父上が賢明な判断をしてくれる事を
祈るばかりです」
彼女の言う通り、ランドルフ帝国では今……
訓練部隊全未帰還という事態を受け、
皇帝マームードと軍部との間で緊急会合が
開かれていた。
「訓練部隊が1隻も戻って来ておらぬ、と……
その件について述べよ―――
帝国武力省将軍、アルヘン」
六十代と思われる、しかし最も身分の高い
威厳に満ちた老人が口を開く。
「はい。20日ほど前……
最新の対空飛翔体を搭載した船と、
対水上攻撃用の飛翔体を搭載した船団―――
およそ200隻が遠洋に出航いたしました。
未だ一隻足りとも帰還せず、捜索と原因の
究明に全力を挙げております」
皇帝マームードから名指しされた、大柄な鎧に
半開きの目をした将軍が答え、
「情報が少な過ぎて断定は出来ませんが、
船体強度か航海中に何らかの問題が発生したと
考えております。
新兵器である対空飛翔体が原因である可能性も
否定は出来ません。
ですが、水上攻撃用の飛翔体を載せた船も
未帰還というのは……」
三十代後半と思われる眼鏡の男が、将軍の
後に続く。
「ムラト新機軸技術部門主任―――
確かに、新型兵器の故障が原因であるならば、
従来の攻撃船も未帰還の説明が出来ぬ。
ならば他に何が考えられる?」
皇帝の問いに、アルヘンとムラト以下……
複数の軍部の面々が沈黙する。
やがて皇帝に対してではなく―――
『嵐にあったのでは』『魔物の襲撃とか』
『いやそれで全滅は』と、内輪で話すように
小さな声が交わされる。
すると、ゆっくりと新機軸技術部門主任が
片手を挙げて、
「……あくまでも可能性の一つですが。
水中からの攻撃、というものが考えられます」
ガタガタッ、と席が動く音が各所から響き、
またざわめきが起こる。
「水中、だと?」
皇帝マームードの一言で場は静まり返り、
先を促すプレッシャーがムラトにかけられる。
「私がまだ新生『アノーミア』連邦にいた頃、
水中を自由に航行する船のアイディアが
ありました。
ですがそれは構想段階であり―――
理論にしろ素材にしろ現実的ではなく、
飛翔体すら開発中止にする向こうの大陸で、
ましてや実用段階に至るという事は
非現実的です」
「ふむ……」
最も身分の高い老人がアゴを撫でながら
相槌を打つ。
「ただ、あちらの大陸には確か半人半蛇の
亜人もおりました。
数は非常に少なく、ティエラ王女様一行の
報告通り―――
戦力としての評価は微妙ですが。
もし彼らの襲撃を海中から受け、混乱したと
想定した場合、全隻未帰還もあり得るかと」
かつて亡命に利用し、捨て駒にしたズヌクが
半人半蛇の少女に執着していた事を思い出し、
その亜人たちの襲撃を推測する。
彼の言葉に大きく息を吐いた後、皇帝は
将軍に向かい、
「アルヘンよ。
今回の訓練部隊が全滅していたと想定して、
どのくらいの影響がある?」
「ハ……
正規軍にも加えられていない、実験段階の
臨時部隊ですから―――
国防における影響はありません。
今後、訓練部隊を拒否する者が多く
出そうですが」
その答えに、苦笑があちこちから聞こえる。
皇帝は次に新機軸技術部門主任に対し、
「ムラトよ。
水中戦力が事実だとした場合―――
対応策はあるか?」
「水中に棲む亜人程度なら、より水面を警戒・
強化するくらいしかありません。
数も攻撃も限定的でしょうし、それで船が
沈む事は考えられませんから……
後は慌てるな、としか」
あちこちから、さっきよりも大きな笑い声が
聞こえて来るが、
「ただ、4千人もの兵力が生死不明なのは
事実だ」
その言葉に、軍部一同は首を垂れる。
いかに帝国とはいえ、無視出来る
ダメージではない。
当初、アルヘン将軍は正規軍ではないからと
答えたが、それはあくまでも数字上の話で、
軍人というのは相当の予算を食う。
一人前に育てるまでの訓練、装備、衣食住―――
それらが消えた理由は、軽視出来なかった。
「今回、ティエラより確認と捜索を兼ね……
再び向こうの大陸、ウィンベル王国へ
向かいたいとの要望を受けておる。
その間、こちらでもより水中戦力への
対応策を探り―――
また未帰還の原因が究明されるまで、
軍はうかつに動くな」
「「「ハハ……ッ!!」」」
全員が席から立ち上がり、皇帝に対して
最敬礼をした。
「やれやれ……
お疲れ様でした、アルヘン将軍」
「問題はむしろこれからだろう。
水中戦力に対する有効な手段などあるのか?」
帝国武力省司令室で、ムラトの言葉に
アルヘンはやや疲れた表情を見せる。
「あれはあくまでも可能性の一つとして
申し上げたまで。
ただ人外戦力を周知徹底していなかったのは、
ミスと呼べるかも知れませんね」
かつて、マルズ王都・サルバルで魔力収奪装置を
使ったテロ行為の際―――
獣人やハーピーを始め、亜人・人外をその
エネルギー源として使用したのだが、
その後、報復として風精霊が、ハーピー族の
拉致を担当した諜報機関を壊滅させた事を、
彼は知る由もなく。
(■110話 はじめての まるずこく(おうと)
■115話 はじめての たいぐん参照)
「そもそも陛下は慎重に過ぎます。
水中を自由に航行出来る人外など、
実戦投入出来るまでにどのくらいかかる事か。
ましてや兵器など……」
「口が過ぎるぞ、ムラト。
あの方の判断が間違っていた事など無い」
「これは失礼を―――」
そこでアルヘンはいったん話を区切り、
「仮にウィンベル王国ほか大陸の各国が
水中戦力があると仮定して―――
その規模はどれくらいだと思うか?」
「仮定でのお話には答えにくいのですが。
むしろ仮に帝国の国力を基準に考えれば、
おわかりになるのでは?」
そこで将軍は少し考え、
「実戦投入出来るまでの育成、期間。
さらに他の人外や人間との混成も考慮に
入れると……
10か20、といったところ―――
せいぜいが奇襲用、か」
「ええ、どう考えても数は揃えられない
でしょう?
まあ時間も出来た事ですし、水中で爆発する
魔導具や、対策を考えてみるとしましょう」
そこでムラトは席を立ち、司令室には
部屋の主が残された。
「キャー!!」
「きゃーーー!!」
「キャハハハハ!!」
水飛沫を上げ、人工の湖面を子供たちが走る。
正確にはロック・タートルのオトヒメさんの
子供の亀に乗って、だが。
ここは公都『ヤマト』の―――
亜人・人外専用居住地区。
そこで主にラミア族が棲む人造湖で、
人間の子供たちがオトヒメさんの子の背中に
乗りながら遊んでいた。
「ぶつからないようにねー。
ちゃんと気を付けるんですよー」
母親である長身の女性が、そのパープルの
長いウェービーヘアを揺らしながら、
自分の子供たちに声をかける。
「涼しそうですね」
そのオトヒメさんの隣りで、私も
水面に足を入れ、
「いやーめっちゃ楽しいでしょアレ!」
「そういえば、お主の子供は何人ほどなのだ?」
メルもアルテリーゼも、その光景を見て
会話に加わる。
「33人です~。
おかげさまで誰一人欠ける事なく、
すくすく育っています」
「33人……」
それを聞いたメルの顔色が青くなる。
卵生だものなあ。
ゾウガメも一度に三十個前後産むって話だし。
ていうか全員育ったら、水陸両用の恐ろしい
戦力になるのでは。
オトヒメさん級の水中移動基地ともなると……
そんな事を考えていると、急にオトヒメさんが
上空を向き、
「……!
子供たち、逃げなさい!!」
何事かと私も空を見上げると、強烈な陽射しが
遮られ、
コンドルのような羽に、恐竜のプテラノドンの
胴体を付けたような魔物がそこにあった。
「あれは!?」
「コンガマトーです!
自分のようなタートル系の魔物の子供を
襲う魔物……!
自分が巣から離れたので、追ってきたのかも
知れません!」
上空を、そのシッポまで入れて十四、五メートルは
あろうかという巨体が旋回する。
そういえば亀の天敵は鳥類と聞いた事がある。
亀を捕らえてはるか上空から落とす事で、
甲羅を破壊して中身を食べるとか……
「おー、おっきいねえ」
「オトヒメ殿の子供を追ってきたのか。
ご苦労な事じゃ」
妻二人はのんきに状況を語り合い、
そして俺に向かって微笑む。
「あー、落ち着いてくださいオトヒメさん。
何とかしますから……
それより、子亀たちに湖から上がるよう
言ってください。
今水中に潜られたら溺れる子がいるかも
知れないし、アレが落ちて来る可能性も
ありますので」
「え……!? は、はい!」
私の指示に従って、彼女は湖に呼びかける。
すると一斉に波飛沫を上げ、子亀たちは
子供たちを乗せたまま陸上へ。
そして私は空を見上げて、
「その巨体と羽の比率で―――
さらにそこまで巨大化して飛行能力を
有するなど、
・・・・・
あり得ない」
味方を巻き込まないよう、他に飛んでいる
ワイバーンやドラゴンがいないのを確認しながら
つぶやく。
「ギョルッ!?」
一瞬、上空でコンガマトーとやらが硬直したかと
思うと、頭を下にして落下し……
湖の中央に大きな水柱を立てた。
「ラミア族のみなさーん!
引き上げてくださーい!!」
「わかった」
「みんな、手伝えー!!」
と、ラミア族たちが浮かんでいるコンガマトーへ
向かい、
ちょうどそこへ、異変を感じて飛んで来たで
あろうワイバーンが二体。
妻たちが彼らに手を振って、
「シンが獲物仕留めたからー!!
もう大丈夫ー!!」
「解体するので、中央区まで運ぶのを
手伝ってくれい!」
メルとアルテリーゼの言葉に首を見合わせると、
二体は近場へ着陸し―――
人間の姿になって駆け寄って来た。
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