「フギャッ――!!」
「んげっ!?」
「…………な、何てこと」
久しぶりの属性テレポート、それも土属性を使用した――のは良かったが、やはり失敗したらしい。
覚醒を果たしても移動魔法にはあまりいい影響を及ぼさないようだ。着地は見事に失敗し、思いきり顔から地面に叩きつけられてしまった。
痛みは無いが、口の中を含めて顔中が砂っぽい。
「――ぺっぺっ! うえっ……舌がじゃりじゃりいってるな」
頭を上げて周りを見回すと、辺り一面が砂だらけのようだ。幸いにして魔物の気配は近くに無く、見渡す限りの砂地エリアに見える。
ミルシェとシーニャも無事に飛んできたはずだが、すぐ近くには見当たらない。
……そう思っていたが、ミルシェが恨めしそうな顔をして前方から歩いて来る。とりあえず無事なようで何よりだ。あとはシーニャだけだが。
「シーニャ!! どこだーー?」
砂地に声を響かせても返ってくるはずもなく、自分の声だけが空しく響く。こうも広い土地だと探しようが無いのだが。シーニャを見つけるよりも先にミルシェが怒りの声を上げた。
「最低ですわ、全く!!」
「う、ごめん」
「アックさま……。もしかして、小娘たちを毎回こんな目に遭わせているんじゃありませんわよね?」
「わ、割とそうかも?」
属性テレポート自体あまり使わないようにしていたが、運の要素があまりにも多すぎる。今回は土属性ということで砂地に飛んだようだが。
「本っ当に!! ひどい目に遭いましたわ! アックさま、砂がこんなにも入り込んでしまいましたのよ? 今すぐ取って下さい!!」
「――えっ? 取るって……どうやって」
予想だにしなかったくらいの砂が入り込んだようで、ミルシェは胸の谷間に手を置いて谷間を強調してきた。こういう大胆な行動に出ることは滅多に無かっただけに、どうすればいいのか見当がつかない。
「簡単なことですわ。谷間に手を差し込んで、砂を外に出して頂ければいいだけです!」
「て、手を谷間にか!? いや、しかしだな……」
「水棲怪物の時はあんなにも揉みしだいたじゃありませんか! それと同じですわ!!」
あの時の彼女はスライムのようなものだったから、そこまでの罪悪感は無かった。しかし今はほぼ人間のようなもの。誰も見ていないからといってこんなことをするのは、道を踏み外しそうな気が。
「違うと思うが……って、あ! シーニャの姿が! と、とりあえず、シーニャを助けないとな」
「ふん、意気地なし!!」
「シーニャを助けた後にやるから」
「……いいですわ。それで、虎娘は?」
……とはいうものの、シーニャを見つけたわけでは無い。何となく砂に埋もれた尻尾が動いた気がしただけである。
「こ、こっちだ」
「ふぅん? どこを見ても砂だらけですけれど?」
「嘘じゃないって」
「どうだか。――んっ? アックさま、人影が見えますわ!!」
ミルシェは疑っているが確かにシーニャの尻尾が見えた。そこに向かって進もうとすると、誰かがおれたちの方に近づいて来ているような気がする。
日差しの強い砂地のせいか、まるで蜃気楼のようにぼんやりとしか見えない。光が砂地に屈折していて何かの物体が浮き上がっているように見えているだけかもしれないが、警戒すべきか。
「むぅ、敵かどうか分からないな」
「アックさま、サーチは?」
「あー……そうだった。それが手っ取り早かったな」
砂に気を取られ、ミルシェの谷間にも気を取られていたせいですっかり忘れていた。おれのサーチスキルを使えばシーニャの場所も分かるし、人影の正体も分かるはずだ。
「あっ、どんどん近付いて来ますわ! どうします?」
「ミルシェは防御態勢を取れ! おれは――」
人影がこっちに気付いたようで、すぐ目の前にまで迫っている。
「あれ? もしかして、アックさんじゃない?」
「……えっ?」
どこかで聞いたことがある声だ。だがすぐには思い出せない――そう思っていると、彼女は被っていたフードを手で引き上げた。
見覚えのあるチュニックを着ている彼女はおれに満面の笑顔を向ける。隣のミルシェは警戒したまま彼女を睨みつけているが。
「アックさま、誰です?」
「えーと……」
「そちらの方は初めましてかな? 初めまして、私はレイウルムの回復士アクセリナです」
そうか!
ここはレイウルム半島だったのか。どうりで砂地が広がっているわけだ。
しかも遭遇相手がアクセリナだったとはな。
「ウウ……ンギャ、ウウウウニャ……」
「ん? シーニャ? どこだー?」
アクセリナが立っている辺りで何かが激しく動いている。変則的なその動きはシーニャの尻尾で間違いなさそう。
「え、どうしたんです? 足下に何か……?」
「ちょっと失礼……よし、引っ張るぞ! 少しの我慢だぞ、シーニャ」
「フギャニャッ!?」
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