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翌日
朝。
催眠は解けていた。
けど、心臓の高鳴りは残っている。
「……おはよう、ないこ」
「……ああ」
ただのメンバーとして返した。だが視線が合うだけで昨日の記憶が蘇る。
「(やば……意識しすぎでしょ俺)」
撮影終わり、全員で集まる。
机の上には、昨日の映像を録ったカメラ。
誰も軽口を叩かない。
最初に口を開いたのはりうらだった。
「……昨日の、マジでやばい。編集どうする?あれ絶対流せないよ」
真剣な顔で俺を見てくる。
いむが頷きながら言う。
「ないちゃんといふくんがキスしてるとこ、完全に事故だよ。もし出したら炎上どころじゃすまないって」
しょーちゃんも珍しく真面目に。
「笑い話にしよう思ってたけど……あれは笑われへんわ。ないちゃん、嫌やったやろ?」
俺は言葉に詰まる。
「……まぁ、催眠やし……嫌とかいうより……覚えてんのが、きつい」
まろが横で口を噤む。
いつもなら軽口を叩くくせに、この時ばかりは沈黙していた。
その代わり、あにきが低い声で言った。
「俺から言わせてもらうと……あれは危なすぎる。メンバー同士の信頼壊しかねへん。二度と同じことすんな」
全員がうなずいた。
会議の結論――あの映像はお蔵入り。外には絶対に出さない。
ただ、メンバー全員の心にはくっきり残ってしまった。
気まずい帰り道
解散のあと、まろと二人きりになった。
沈黙が重い。
「……なぁ、ないこ」
「……なに?」
「昨日のこと、催眠のせいやってわかっとるけど……俺、ほんまに好きやったんかもしれん」
一瞬、心臓が跳ねた。
だが俺は視線を逸らす。
「……あほか。催眠のせいだって」
「せやけど、ないこ抱きしめたときの感触……まだ忘れられへんねん」
胸の奥が熱くなる。
けど、俺は笑って誤魔化すしかなかった。
「……俺も忘れられないよ。だから困りまくってんだよ、ばーか」
お互い目を逸らしたまま。
催眠は解けてる。
なのに、二人の間には――解けない何かが残っていた。