まさか体内の痛みに襲われるとは。
さすがにこればかりは逃げられなかった。外からの攻撃には痛くもかゆくもないがこれは盲点だ――とはいえ、痛みはあるが耐えられないほどじゃない。要は耐えられれば得られるスキルというだけのこと。
久しくこんな目に遭っていないだけに、意表を突かれただけに過ぎない。
だが、
「ぬぅぅぅ……痛え……なんてこった」
痛いものは痛い。
恐らくだがネローマさんもリリーナさんも、おれが痛みに耐えられず弱音を吐いたり醜態をさらけ出すことを予想して、さっさと引っ込んでしまったに違いない。
徐々にだが、何とか痛みに慣れてきた――というより、痛みそのものを抑え込んでいるといった方が正しいか。
「フフフッ、アックさま。痛みをも快感に感じているのではなくて?」
「ミルシェ? 何だ、ここに残っていたのか」
「もちろんですわ。あたしはアックさまの片腕ですもの。離れるわけには行きませんわ」
用心深いミルシェのことだからリリーナさんたちと一緒に行くことは無いと思っていた。
しかし相変わらず趣味が悪い。ミルシェはおれを見下ろしながら楽しそうに微笑んでいる。痛がっていた姿もきっと面白おかしく眺めていたんだろうな。
辺りは静寂を保っていて、おれとミルシェ以外に人の姿は感じられない。だいぶ痛いということを口にするほどでも無くなってきたが、それすらも望んでいるような表情をしている。
「ちなみにどんな痛みを感じるのです?」
「そうだな、複数の鋭い剣が何本も同時に刺さって来るような……そんな感じだ」
「……それは興味深いですわね」
どういう意味で……とは聞きたくない。ミルシェは何だかんだで冷静に能力的なものを見られるタイプ。つまりそういう意味で言ったはずだ。
「ふー……もうすぐだな」
「意外と毒への順応が早かったですわね。もはやアックさまは人間をも超越してしまったということですのね」
「否定はしないけどな。だが痛みは感じるし、それに慣れることは無いぞ」
「そうなると、脅威となるのはあの娘の料理かしら……」
ミルシェとシーニャがトラウマを抱えているのはルティが作った料理全般。しかしルティが作るあらゆる料理に慣れたせいか、そこまで怖さを感じることは無くなった。
ルティのおかげということもあるのかもしれない。どうやらおれは、覚醒の覚醒を果たすことに時間はかからなかったようだ。
「……よし、痛みは完全に抑えた。しかし、覚醒した感じには思えないが……」
「アックさまからあたしたちを覚醒する力だというのならそうなのでは?」
おれでは無く彼女たちを覚醒するとなると、何か別の力に目覚めた感じはしない。しかし受けた痛みは何かの意味があるような気もする。
「それもそうか。うっ? 何か熱のようなものを感じる……。これは|魔法文字《ルーン》が出る時の熱さか!? ガチャをしてもいないのに……くぅっ……!」
痛みに耐えきり落ち着いたところで、いつもガチャを引いた後に出ていた熱が突然出始める。
「え、アックさま? どうなっていますの!? 何かあの、頭上から物騒なものが見えますわ」
「上?」
ミルシェが珍しく慌てている。どうやらおれの頭上に何かが見えているようだが。
「あぁぁぁっ!? アックさま、突き刺さりますわ! 身構えた方が――」
「……え、何が?」
おれからは見えていないが、ミルシェからはよく見えているらしい。
そして――。
「ひ、ひぃっ!? み、見ていられませんわ!!」
ただ事では無さそうだがおれに何か突き刺さったのか?
「――け、剣……!? 痛みは感じられないが、何だこれ?」
怖いもの知らずのミルシェでも目も当てられない光景……といっていいほどの無数の剣がおれの体に突き刺さっている。
しかし全く痛みを感じない。
何が起こっている?
もしかしてルーンから何か浮かんでいるんだろうか。
【斬撃の覚醒 範囲攻撃 指定攻撃 潜在:???の片手剣】
これはおれ自身の覚醒?
ルーンから見えたと同時に突き刺さっていた無数の剣が、いつの間にか消えていた。ソードスキルとは別物のようだが、錆びた片手剣の覚醒に関係しているということになるのか。
「ア、アックさま、もう大丈夫ですの?」
「ああ、問題無い」
「何ともありませんの? おかしいですわ、さっきは確かに……」
「おれも見えたよ。無数の剣のことだろ?」
「ええ。一体何がなんだか……」
これも含めての覚醒だったのだろうか?
何にしてもこれでネーヴェル村での用事は全て果たせたということになりそう。
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