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「……え? ……どうして?」
指輪が気に入らなかった? 夜景の見えるレストランの方が良かった? 予算とスペックの計算を間違えたか?
絶望で真っ白になり、脳内でエラーを吐き続ける僕に対し、白石さんは机の引き出しから一冊の冊子を取り出して、僕の目の前に置いた。
「これを見てください!! 私、『主従逆転上司の××』っていう、同人漫画を描いてたんです! それがこないだ、まさかの商業コミカライズ決定の連絡が来ちゃって! これから修正や描き下ろしで、寝る間もない修羅場が始まるんです! デートの時間もなくなるし、何より……ッ!」
表紙には、手足の長い韓国アイドル風美男子と、眼鏡にボサボサ頭の冴えない男が、情熱的に見つめ合うイラストが描かれている。 あれ?どこかで見たような……。
「……こ、これ。もしかしてこのキャラクター、僕と王子谷……?」
「そうです! 陽一さんへの愛(性欲)が高まりすぎて、BL描いちゃったんです! こんな腐った変態が奥さんになれるわけないじゃないですかぁぁ!! 私は汚物です! 陽一さんにふさわしくありません!!」
白石さんは布団に潜り込み、子供のように丸まって泣き始めた。
僕は、目の前の「王子谷×僕」の本を手に取り、静かにパラパラと捲った。
……なるほど。解釈が深い。僕がキーボードを叩く時の独特の指の癖や、集中した時の口元の歪みまで、驚くほど丁寧に描き込まれている。
「……あはは! ははははは!」
込み上げてきたのは、乾いた笑いではなく、心の底からの爆笑だった。
やっぱり、白石さんは最高にぶっ飛んでいて面白い。ドン引きする衝撃のデッドラインを越えた先で、僕の感情は「尊敬」という名の別のフェーズへ移行していた。
「……え?」
布団から涙目の彼女が顔を出す。僕は笑いすぎて出た涙を拭い、彼女の手を握った。
「最高じゃないか。白石さん、おめでとう。才能が、世界(商業)に認められたんだね」
「で、でも、不潔なんですよ!? 陽一さんが一生懸命準備したり、身体を鍛えてくれてた間、男同士のイチャイチャばかり妄想して……! 私なんて、一生一人でペン握ってるのがお似合いなんですぅ……」
「僕だって重度のゲーマーだ。深夜に叫んだり、廃人一歩手前までゲームし続けたりする。オタク同士、これ以上ないほど最高のパートナーだと思わない?」
僕は彼女の瞳を真っ直ぐに見つめた。
「会う時間がないなら、すぐにでも一緒に暮らそう。僕が家事も、健康管理も、進捗管理も全部協力する。安心して、好きなだけ描きまくればいい」
「陽一さん……っ」
「……よし。決まりだ。さっそくご実家へ挨拶に行こう」
僕がそう言った瞬間。一瞬だけ、脳裏にお義兄さん(魔王)の、殺気と鋼の筋肉が過った。……北海道。
あの恐ろしい魔王と白石さんを育んだ本拠地。まさか魔窟?僕の人生の最終決戦が、今、幕を開けようとしていた。