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暫くして、コンシェルジュが部屋までお弁当を届けてくれると、二人はテーブルにお弁当を広げて食べ始めた。
和牛のすき焼き重に、ローストビーフ、海老と野菜の天ぷらに煮物という様々な料理が入った二段弁当は相当ボリュームがある。
「美味しい?」
「はい、凄く美味しいです」
「でしょ? まあ、多少値は張るけど、やっぱり食べるなら美味しい物を食べないとねぇ」
郁斗の言う事は最もかもしれないけれど、毎日こんな高価な物を食べていては金銭的に困るのではと詩歌は思う。
「……あの、郁斗さんは毎日こういった物を食べているんでしょうか?」
「ん? いや、毎日ではないよ? 流石にこう高いのばっかりはね。時にはチェーン店の物も食べるし」
「あ、いえ、その……それもそうなんですけど、自炊はなさらないんでしょうか?」
詩歌が一番気になったのは、毎日の食事は全てデリバリーや外食なのかという事なのだが、
「しないよ? そもそも俺、料理出来ないからね。頼むしかないよ」
料理が出来ないと言う郁斗はこれが日常だと言った。
「それでは栄養が偏りますし、身体にも良くありませんよ?」
「んー、でも俺はそういうの拘らない主義だし、それに食事もしたりしなかったりなんてよくある事だし、気にしないかな」
「それは、お仕事柄……ですか?」
「まあ、そうだねぇ」
「……あの、あまり知られたく無い事だというのは理解しているんですけど……出来れば、どんなお仕事をされているのか、教えて欲しいです」
昼間、出掛ける前にそれとなく聞いた時にはぐらかされたのを思い出すと、あまり触れられたくない事だというのは重々承知している詩歌だが、食事もまともにとれないくらい忙しい仕事をしているのなら自分も何か力になれないかと考え、どうしても知りたいと思ってしまう。
「うーん、まあ……仕事の内容としては、お金を貸してる人からの集金をして回ったり、経営に携わってる店の見回りをしたり……他にも色々やってるよ?」
「お金を貸したり、集金……? お店の、見回り……?」
しかし、郁斗の説明からは仕事内容が想像出来ず、詩歌の頭は混乱する。
そんな彼女を前にしても相変わらずマイペースを貫く郁斗はある事を思い出した。
「あ、そーいえば、これ」
そう言いながら詩歌に手渡したのはす新品のストッキング。
「あ、すみません、わざわざ」
受け取った詩歌はそれがブランド品だと分かり、何だか申し訳なく思う。
「それで良かったかな? どれがいいのか分からなかったから、店に置いてあったのを適当に持ってきたんだ」
「お店から……持って来た? その、経営しているお店からって事ですか?」
「そうだよ。まあ、俺が経営してる訳じゃないけどね」
郁斗のその言葉で、彼の職業がますます分からなくなる詩歌。
「えっと、郁斗さんのお仕事って……」
「そんなに知りたい?」
「は、はい。知りたいです」
「……まあ、別に隠すつもりはないから、いっか。俺、市来組っていう組織の一人なんだよね」
どうしても職業を知りたいという彼女の思いを汲んだ郁斗は少し迷った末、隠すつもりはないからと自分が【市来組】の一人である事を打ち明けたのだけれど、
「市来組……?」
郁斗の話を聞いてもピンと来なかった詩歌の頭にはハテナマークが飛び交っている。
そんな彼女を目の当たりにした郁斗は説明不足だと気付き、
「ああ、分からないかな? そうだね、分かりやすく言うと、ヤクザって事」
「――――!?」
市来組を分かりやすく“ヤクザ”である事を伝えると、詩歌は目を見開いて驚いていた。
(郁斗さんが……ヤクザ……?)
それもそのはず。郁斗を見る限り、とてもそっち側の人間には見えないからだ。