テラーノベル
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受け付けを済ませた僕と小出さんは、エレベーターを使って三階へ。
それから、まずはそこに設置してあるドリンクバーコーナーに行って、各々飲みたいものをグラスに注いだ。
小出さんはグラスじゃなくてコーヒーカップだけどね。メイド喫茶に行った時も同じだったけど、選択したのはブラックのホットコーヒーだった。やっぱり大人っぽくてなんか羨ましいや。
「えーっと、304号室だから……あ、ここだ。って……え!?」
「園川くん、どうしたの? とりあえず入ろうよ」
「で、でもさ、こ、これって……」
僕が狼狽える姿を見て、小首を傾げる小出さんだけど、そらゃそうなるよ。当たり前だよ。だってさ――
「せ、狭すぎるでしょ!!」
小出さんが受け付け時に指差しで希望したのは『ペアフラットシート』という名称だった。で、写真を見るに案外広いんだなあと思ったんだけど、違った。狭かった。かなーり狭かった。
その理由を説明するのは簡単。ただでさえ狭い空間の中に座席が二つ置かれてたからに他ならない。な、何故にして、フラットシートの上に座席を置いちゃうかな……。
「こ、小出さん? い、いいの? 本当にいいの? 今から入っちゃって?」
「うん? さっきからどうしたの? 園川くん? でもここ、思ってたよりも狭くてリラックスできそうだね」
「そ、そうだね。狭いとなんか落ち着くもんね」
なんとか僕の動揺がバレないように返事を返した。返したんだけどさ……な、なんで? なんでこんなにも小出さんは平然としていられるの?
そういえば……小出さんをクリスマスデートに誘った僕ではあるんだけど、正確に『デート』とは言ってないことに気が付いた。
もしかして小出さん的には、これをデートとして捉えてくれてないってこと?
「あ! ちょっと待ってて園川くん! あっちにたくさん漫画とかが置かれてる! 入る前に私、ちょっと持ってくるね」
「あ、あははは……言ってらっしゃーい」
乾いた笑いでそう応えた僕だったけど、なるほど。小出さんがネットカフェに行きたかった理由はそれかあ。たぶん、漫画をたくさん読みたかったんだ。
「やっぱり、クリスマスでも小出さんらしいや。漫画、大好きだもんね」
そんな彼女だからこそ、僕は好きになった。本物の恋をした。どうして今、僕はそれを改めて思い出したんだろう。
小出さんのことを想うと、自然と口元が緩んじゃうや。
クリスマス? デート? そんなの関係ない。今はそれを一度忘れようっと。
それよりも、そんな小出さんとこの時間。一緒にすごし、一緒にいられることの喜びを噛み締めよう。
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