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今、僕はすっかり固まってしまっているところ。
何故かと言うと、小出さんのすぐ横――というレベルじゃないね、これは。ハッキリ言って密着状態なんだもん。それが原因で緊張しまっくって完全に固まってしまっている僕です。我ながらヘタレすぎる……。
「大丈夫? 園川くん? 漫画読んだりしないからちょっと心配になっちゃって」
「だ、大丈夫! ごめんね、心配かけちゃって。ちょっと考え事をしてただけだからさ」
うん、もちろん嘘。大嘘。密着しちゃってるせいで僕の心臓はバクバクと音を立てて、今にも破裂しそう。その上、緊張しまくりなわけで。そんな状態だから漫画を読んだりする余裕がないんだ。全くね。
「そっか、良かった」
言って、小出さんは再び漫画を読むことに再集中。
ちなみに。小出さんはというと、今は靴下を脱いですっかりリラックスモード。でも気持ちが分かるなあ。僕も家に帰ったらまずは靴下を脱ぐのが習慣になってるくらいだし。落ち着くんだよね。
で、小出さんもそのタイプみたい。
……ん? そのタイプ? リラックス?
「ねえ小出さん? ちょっと質問してもいいかな?」
「うん、大丈夫。ちょうどキリのいいところまで読んだところだし」
「あのさ、小出さんもやっぱり家に帰ったら今みたいに靴下をすぐ脱いだりするの?」
「へ? う、うん、そうなんだけど……も、もしかして私……へ、変かな?」
「ち、違う違う! ごめんね、そういう意味じゃないんだ。単に僕も同じだからさ、家に帰ったら靴下をまず脱ぐ派なんだ。だから小出さんもそうなんじゃないかなあって」
あ、危ない……せっかくリラックスしてる小出さんの邪魔をするどころか、あらぬ誤解をさせちゃうところだった。
でも、ハッキリした。今僕のすぐ隣りにいる小出さんは完全にプライベートモードなんだ。それってつまり、あれだよね。僕に対して『本当の』小出さんを見せてくれてるってことだよね。いや、『本当の』というのは語弊があるかな。『ありのまま』と言った方が正しいか。
なんだか嬉しいな。緊張しまくってる僕がバカみたいに思えてきちゃったよ。せっかく。いつもの小出さんを見せてくれてるっていうのに。僕に対して、それだけ安心感を抱いてくれてるっていうのに。
――って。
「こ、小出さん!? ど、どど、どうしたの!?」
ただでさえ密着しちゃってたのに、彼女はより僕に寄り添ってきた。身を乗り出すようにして。小出さんの吐息が僕の顔に優しくかかる。そして、漫画を見開き状態にしたまま、それを僕の膝下に置いた。
「このシーン、一緒に読みたいなって思って。すっごく面白いから」
「そ、そそそ、そうなんだ……」
なんかさ、今の僕と今の小出さんって、完全に逆転してない? これまでは学校で小出さんの方があたふたしてて、僕はそれを平然と、みたいな感じだったのに。
「あ、あのー、こ、小出さん? ちょ、ちょっと近すぎないかな?」
「え? 近付かないと、園川くん読めないと思うよ?」
「そ、そうだね。あははは……」
ま、漫画を読む心の余裕がない……セリフの文字が全く頭に入ってこないし。ダメだ……ヘタレすぎる。カムバック! 昨夜、勇気を出した僕!
でも、小出さんがこんなにも近くにいるわけでして。吐息はかかるし呼吸の音が聞こえてくるわけでして。うん、緊張するなって言う方が無理!
とか、考えていたら――。
「さっきからうるせえんだよ! 二人でイチャイチャしやがって! クリスマス? んなもん知るか!! このリア充が!!」
隣のブースから、怒声と共に『ドンッ!!』と力いっぱい壁を殴ったであろう音が響き渡った。
で、小出さんはというと――
「あ、あわわわ!! そ、園川くん!! ど、どど、どうしよう!! に、ににに、逃げないと!!」
あ。いつもの小出さんだ。やっぱりこっちの小出さんの方が見ていて落ち着くなあ。
って、違う違う! そんなことのんびり考えててどうするんだよ僕!!
「小出さん! とりあえず漫画! 漫画を片付けなきゃ!」
「は、はい! ま、漫画を片付け……ああ!!」
小出さん、見事なまでに転んじゃった。あまりに焦りすぎ。はたまた、単純に重かったのかな?
と、いうわけで。僕も漫画を片付けるお手伝い。というか、ほぼ全部の漫画を僕が片付けることにした。そして一応、それは完了っと。でもなんだろう? 今の僕、やけに冷静なんだけど。
「じゃあ行こうか小出さん」
「は、はい!!」
* * *
お会計を済ませてから、僕と小出さんはネットカフェを脱出。に、しても。さっきのお隣さん、なんで一人でいたんだろう? 隣もカップルシートのはずなんだけど……。僕が勝手に『一人』だと思い込んでるだけなのかな? まあ、それはないよね。だってあんなにもムキになるくらいだし。『このリア充が』とも言ってたし。
まあ、もういいか。気にしてもしょうがない……って、ん???
「どうしたの小出さん? なんだかやたらそわそわしてるみたいだけど」
「く、靴下……持って帰るの忘れちゃいました……」