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#親友
*椥守蕊月*
219
~♡Տᗩᑎᗩ♡~
29
## あの子なら大丈夫
時間の感覚がなくなっていた。
朝なのか、昼なのか。
何時間経ったのか。
なつきには分からなかった。
部屋の中は暗かった。
カーテンは閉めたまま。
スマホには何度も通知が来ていた。
家族から。
友達から。
でも、見る気になれなかった。
頭の中にあるのは、ひなたの声だけだった。
「もし私がいなくなったらさ」
「泣いてくれる?」
何度も。
何度も。
同じ言葉が繰り返される。
「……なんで」
なつきは小さく呟いた。
「なんであんなこと言ったんだよ……」
怒っているのか。
悲しいのか。
自分でも分からなかった。
ただ、悔しかった。
あの時。
少しでも変だと思ったなら。
「何かあった?」
って聞いていたら。
もし。
あと少しだけ、ひなたの顔を見ていたら。
何か変わっていたのかもしれない。
そんな考えが、何度も頭を巡る。
でも。
一番苦しかったのは、別のことだった。
なつきは、ひなたのことを知っていると思っていた。
好きな食べ物。
嫌いなもの。
笑うポイント。
怒る時の顔。
昔からの癖。
全部知っていると思っていた。
「私……」
声が震える。
「私、ひなたのこと……」
そこで言葉が詰まる。
知っていた。
そう思っていた。
でも、本当に知っていたのか。
ひなたが苦しい時。
ひなたが一人で抱えていた時。
ひなたが「大丈夫」と言い続けていた時。
自分は何を見ていた?
「……何も見てなかった」
涙が落ちる。
「私、ずっと……」
「なんでも知ってると思ってた」
ひなたのことなら分かる。
ひなたは強い。
ひなたは優しい。
ひなたなら大丈夫。
そう思っていた。
でも。
「違った……」
なつきは顔を伏せる。
「私が見てたのは……」
「私に都合のいいひなただった……」
いつも笑っているひなた。
元気なひなた。
何でもできるひなた。
その姿だけを見ていた。
本当は。
ひなたが笑えない日もあったかもしれない。
誰かに頼りたい日もあったかもしれない。
「大丈夫じゃない」って言いたい日もあったかもしれない。
なのに。
「ひなたなら大丈夫」
自分もそう思っていた。
周りと同じだった。
ひなたを信じていたつもりで。
ひなたに任せていただけだった。
その時。
ふと、なつきは思った。
あの日の質問。
『もし私が死んだら、泣いてくれる?』
あれは本当に、泣くかどうかを聞いていたのか。
違う気がした。
ひなたは、もっと別のことを聞いていたんじゃないか。
「……ひなた」
声が震える。
「お前さ……」
「『泣いてくれる?』って聞いたんじゃなくて……」
「私がいなくなったら……」
「私のこと、ちゃんと見てくれる?って……聞いてたの?」
返事はない。
いつもなら。
「なつき考えすぎ」
って笑うはずなのに。
「違うよ」
って言うはずなのに。
もう、その声は聞こえない。
なつきは初めて分かった。
ひなたは、最初から強かったんじゃない。
強く見えるようにしていたんだ。
周りが安心できるように。
誰かが笑えるように。
ずっと。
そして、なつきは気づく。
ひなたが最後まで欲しかった言葉は、
「ひなたなら大丈夫」
じゃなかったのかもしれない。
「大丈夫じゃなくてもいい」
だったのかもしれない。
「助けてって言っていい」
だったのかもしれない。
でも。
その言葉を、なつきは言えなかった。
言う機会は、もう二度と来なかった。
コメント
1件
第5話、読み終えました。なつきの自責と後悔がひしひしと伝わってきて胸が詰まりました。特に「私に都合のいいひなたしか見てなかった」という気づきと、「大丈夫じゃなくてもいい」と言えなかった悔い——あのシーンの重みがすごくて、読んでるこっちも自分の過去の関係性を振り返らされました。ひなたの「泣いてくれる?」の真意にたどり着く構成、伏線の効かせ方が本当に巧いです。続き、すごく気になります。