テラーノベル
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「……ふざけんなよ」
最初に出た赫の声は、低くて、震えていた。
誰に向けた言葉なのか、分からないくらい──
でも、次の一歩で、はっきりした。
赫は、ベッドの横まで来ていた。
「なんで……」
拳を、ぎゅっと握りしめて。
「なんで、そんなこと……
勝手に決めたんだよ……」
翠は、びくっと肩を揺らした。
「……赫ちゃん……」
「俺は……」
赫の目が、赤くなる。
「俺は、守られるために……
翠にぃを殴らせたくない……!」
言葉が、詰まる。
「……なのに……」
「俺、毎日……」
赫は、唇を噛みしめてから、吐き出した。
「“翠にぃ、大丈夫かな”なんて……」
「一回も……本気で考えなかった……!」
翠の喉が、ひくっと鳴る。
「……ずっと……」
「俺、保健室で……」
「黄にぃと瑞と……」
声が、崩れる。
「“俺のほうが大変だ”って……
どっかで……思ってた……」
その瞬間。
黄が、目を伏せた。
学年主任も、何も言わない。
赫は、翠を見たまま、続ける。
「動画見て……」
「気づいた」
「……翠にぃ、いつも……」
「俺の後ろ、歩いてたよな」
「俺が保健室行く日は……
必ず、先に学校来てた」
翠の指が、シーツを掴む。
「……あれ……」
「俺の代わり、だったんだろ……」
声が、完全に泣いていた。
「……俺……」
「弟だからって……」
「翠にぃに……
そんな役、押し付けてた……」
翠は、首を振ろうとする。
「違……」
「違わない!」
赫が、叫ぶ。
でも、次の瞬間、声が落ちた。
「……ごめん……」
震える声。
「……ごめんな……翠にぃ……」
赫は、ぎりぎりで、すちに触れなかった。
前みたいに、拒絶されるのが怖かったから。
でも、その距離で、はっきり言った。
「……俺、怒ってる」
「翠にぃが……
自分の命、軽く扱ったこと」
「でも……」
赫の目から、涙が落ちる。
「……それ以上に……」
「気づけなかった俺が……
一番、ムカつく……」
翠は、耐えきれず、顔を覆った。
「……ごめ……」
「謝んな!」
即座に、赫が返す。
「謝るの、そこじゃねぇだろ……」
「……生きててくれよ……」
絞り出すような声。
「俺のために、じゃなくていい……」
「……翠にぃが、翠にぃでいるために……」
その言葉が。
翠の胸の奥に、ゆっくり沈んでいった。
逃げ場みたいにしてきた“自己犠牲”が、
初めて、真正面から否定された瞬間だった。
翠は、嗚咽をこらえきれず、小さく頷いた。
「……赫、ちゃん……」
名前を呼ぶ声が、震える。
赫は、やっと、そっと言った。
「……今度は」
「俺が、前に立つ」
「翠にぃ……」
「一人で、背負うなよ…」
コメント
1件
うああああすーちょっとすごいもう 最高すぎるわ