テラーノベル
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いつの間にか、校内放送が流れていた。
「──昼休憩になりました」
その声で、初めて時間が進んでいたことに気づく。
保健室の扉が、こんこん、と軽く叩かれた。
「はーい」
保健の先生が応じるより先に、
ひょこっと顔を出したのは──こさめだった。
「赫くーん! 一緒に───」
そこで、言葉が止まる。
ベッド。
立ち尽くす赫。
椅子に座ったまま俯く黄。
そして───
「……翠にぃ……?」
瑞の声が、少しだけ高くなる。
「……え、なに……?」
状況が、まったく飲み込めない。
「どうしたの? 具合悪いの?」
赫が、口を開こうとして、閉じた。
黄も、何をどう説明すればいいのか分からず、黙ったまま。
その沈黙が───
一番、瑞を不安にさせた。
「……俺、邪魔?」
冗談みたいな声。
でも、目は真剣だった。
その瞬間。
ベッドの上で、翠の身体が、びくっと震えた。
「……ちが……」
かすれた声。
「ちがう……瑞ちゃん……」
無理やり、上半身を起こそうとする。
「……説明……する…から…」
赫が、はっとする。
「翠にぃ、無理すんな!」
でも、翠は止まらなかった。
(だめだ)
(こさめちゃんだけ……)
(何も知らないままにしたら……)
(また、俺が……)
「……俺……」
声が、途中で引っかかる。
喉が、きゅっと締まる。
「……動画が……」
そこまで言って。
翠の視界が、ぐらりと揺れた。
「……っ」
息が、うまく吸えない。
手が、勝手に震え出す。
「……翠にぃ?」
瑞が、一歩近づく。
その“近づく”という動作だけで、
翠の身体が、拒絶するように強張った。
「……だめ……」
小さく、でもはっきり。
「……ごめ……」
言葉が、続かない。
説明しなきゃ、と思うのに、
頭の中が真っ白で、音だけが遠のいていく。
(……また……)
(体が……)
肩で息をし始める翠を見て、
黄がすぐ立ち上がった。
「瑞ちゃん、ちょっと待って」
優しい声。でも、真剣。
「今は……翠くん、説明できる状態じゃないんよ」
瑞は、唇を噛んだ。
「……でも……」
視線を、翠に向ける。
「……瑞だけ……?」
その一言が、
翠の胸に、深く刺さる。
「……ちが……」
震える声で、必死に首を振る。
「……仲間はずれ……」
「……したく……ない……」
その瞬間。
翠の手が、ぎゅっとシーツを掴んだまま、力を失った。
上体が、前に崩れかける。
「翠にぃ!」
赫が、咄嗟に支える。
でも、触れられた瞬間、翠の身体が強く跳ねた。
「……っ!」
完全な拒絶反応。
もう、限界だった。
瑞は、その光景を見て、完全に言葉を失った。
「……え……」
「……なに……これ……」
誰も、すぐには答えられない。
ただ一つ、はっきりしていたのは──
翠は、“説明できないほど”限界だったということ。
瑞の目に、ゆっくり涙が溜まる。
「……瑞……」
声が、震える。
「……知らないうちに……」
続きは、言えなかった。
保健室に、重い沈黙が落ちる。
仲間はずれにしたくなくて、
無理をして、
それでも───
体が先に、拒絶した。
それが、翠の今だった。
コメント
2件
うああぁちよいとうんやばいって翠っちゃんよ!!休んでくれ切実に!!!!