テラーノベル
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渡辺の罵詈雑言を、宮舘は黙って受け止めていた。そして、渡辺の目から涙がこぼれ落ちたのを見た瞬間、静かに、しかし、核心を突く言葉を放った。
「…翔太」
その声は、驚くほど穏やかだった。
「それ…本当に、思ってる?」
その一言に、渡辺の動きがぴたりと止まる。
「あぁ!?」
虚勢を張って睨みつけるが、宮舘は動じない。ただ、静かに続けた。
「翔太は、心と違うことを言おうとする時、いつも少しだけ声が震えるんだ。昔から、ずっとそう。だから…今の翔太は…本当の事を言っていないでしょ?」
その指摘は、あまりにも的確だった。自分の、誰にも気づかれたくないはずの癖を、いとも簡単に見抜かれてしまった。その事実に、渡辺の頭にカッと血が上る。
「だったらなんなんだよ…!」
渡辺は、宮舘の胸ぐらを掴み、壁に叩きつけた。
「俺のこと…なんでもかんでも、分かった気になるんじゃねぇ!!」
至近距離で、怒りを叩きつける。しかし、宮舘は怯まない。その瞳は、悲しいくらいに冷静で、そしてどこか寂しそうに、渡辺を見つめ返していた。
「…分からないよ」
「あ?」
「分かるわけないだろ。言ってくれなきゃ」
宮舘は、静かに言った。
「俺が、リテイクを繰り返してた時、翔太が何を考えてたのか。俺が翔太に『浮かれてる』って言った時、お前が本当は何に傷ついたのか。そして…お前が、菊池くんと笑っていて俺が傷ついた時、お前はどう思っていたのか…」
その言葉に、今度は渡辺が息を呑んだ。
「言ってくれなきゃ、分からないだろ…!俺たちは、もう、ただ一緒にいるだけで、何でも分かり合えた子供じゃないんだから…!」
それは、宮舘の心の叫びだった。いつも冷静な彼が初めて見せた、感情的な姿。その瞳は、怒りではなく、深い悲しみと、ほんの少しの懇願の色をたたえて潤んでいた。
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