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これは、最近演技が話題になっている渡辺と阿部が主演で共演した、切ない異世界の物語。
映画『Thaw』
森の奥深く。
人が滅多に立ち入らない場所に、小さな家があった。
大きくもない。
立派でもない。
けれど、渡辺にとっては十分だった。
窓の外には木々が広がり、少し歩けば小さな川がある。
春には花が咲き、夏には木陰が涼しい。
秋になれば宮舘と一緒に木の実を拾い、冬は二人で暖炉の前に座った。
人里から離れたその家で。
渡辺と宮舘は、二人きりで暮らしていた。
二人とも魔法使いだった。
それだけで。
昔は、人間たちから恐れられた。
魔法が使えるというだけで。
何をするか分からない。
危険だ。
人間ではない。
そんな言葉を浴びせられた。
話を聞いてもらうことすらできなかった。
ある時には。
本当に殺されかけた。
二人で必死に逃げた。
それから。
人里には近づかなくなった。
必要なものは森で集める。
それでいいと思っていた。
人間がいなくても。
二人一緒なら。
十分だった。
朝。
渡辺が目を覚ます頃には。
いつも家の中が暖かい。
寝室の扉を開けると。
廊下の向こうから、薪の燃える匂いがする。
今日も同じだった。
暖炉には火が入り。
台所では宮舘が朝食を作っている。
「おはよ」
まだ少し眠そうな声で言うと。
宮舘が振り返った。
「おはよう、翔太」
鍋から湯気が上がっている。
テーブルにはパン。
森で採れた果実。
昨日作っておいたスープも温め直されていた。
渡辺は椅子に座る。
「寒い」
「起きたばかりだからじゃない?」
「外も寒い」
「冬だからね」
宮舘はそう言いながら。
渡辺の前へ温かい飲み物を置いた。
「はい」
「ありがと」
両手で器を持つ。
じんわりと指先が温まる。
それだけで。
少し機嫌が直った。
宮舘が向かいに座る。
いつもの朝。
特別なことは何もない。
渡辺にとっては。
それが一番だった。
朝食を終えると。
宮舘は棚から籠を取った。
渡辺が見る。
「どこ行くの?」
「薬草」
「昨日も取ってなかった?」
「翔太が使ったから少なくなった」
「俺?」
「昨日、指切ったでしょ」
渡辺は自分の指を見る。
もう何も残っていない。
小さな切り傷だった。
宮舘が治療に使った薬草のことなど、すっかり忘れていた。
「魔法で治せばよかったのに」
「薬草で済む傷だったから」
「もったいなくない?」
「何が?」
「わざわざ取りに行くの」
宮舘は少し笑った。
「また生えてくるよ」
そして外套を羽織る。
渡辺も立ち上がった。
「俺も行く」
「今日はいいよ」
「何で」
「昨日遅くまで本読んでたでしょ」
「見てたの?」
「明かりついてたから」
渡辺は少しだけ目を逸らす。
「……途中だったから」
「今日はゆっくりしてて」
宮舘が扉を開ける。
外から冷たい空気が入ってきた。
渡辺が肩をすくめる。
宮舘は振り返ると、いつものように言った。
「暗くなる前に帰ろう」
渡辺もいつものように答える。
「分かってる」
宮舘が森へ消えていく。
渡辺は扉を閉めた。
それだけ。
本当に。
何でもない朝だった。
その日の夕方。
宮舘は約束通り帰ってきた。
籠いっぱいの薬草を持って。
渡辺が、
「多くない?」
と言えば。
宮舘は。
「また翔太が怪我するかもしれないから」
と答えた。
「しないよ」
「分からないよ」
「俺、そんな怪我ばっかりしてないから」
「小さいのは多い」
「数えてるの?」
「数えてない」
「絶対数えてるじゃん」
そんな話をしながら。
二人で夕食を作った。
夜になれば。
暖炉の前へ並んで座る。
宮舘は本を読み。
渡辺は、その隣で別の本を眺める。
眠くなれば。
どちらからともなく寝室へ向かう。
明日も。
同じ朝が来る。
そう思っていた。
翌朝。
渡辺は寒さで目を覚ました。
布団の中で。
少しだけ眉を寄せる。
「……寒」
いつもより明らかに寒い。
目を開ける。
隣を見る。
宮舘はいなかった。
それ自体は珍しくない。
宮舘は渡辺より早く起きる。
いつも。
先に暖炉へ火を入れているから。
だから。
渡辺は最初。
何も気にしなかった。
布団から出る。
冷たい床に足をつけ。
寝室の扉を開けた。
その瞬間。
渡辺は止まった。
寒い。
廊下も。
リビングも。
空気そのものが冷えている。
暖炉を見る。
火がない。
昨日の薪が。
黒く残っているだけだった。
「……涼太?」
返事はない。
渡辺は台所を見る。
鍋が出ていた。
野菜も切られている。
パンも。
二人分。
皿に置かれている。
途中まで。
朝食を作っていた。
それなのに。
宮舘はいない。
「涼太?」
今度は。
少し大きな声。
寝室へ戻る。
いない。
浴室。
いない。
物置。
いない。
裏口を開ける。
庭を見る。
誰もいない。
「涼太!」
森へ向かって呼ぶ。
返事はない。
胸の奥が。
少しずつざわつき始める。
渡辺は家の中へ戻った。
宮舘の外套。
ない。
靴もない。
外へ出た。
それだけなら。
薬草を取りに行ったのかもしれない。
でも。
こんな朝早く。
しかも。
朝食を途中にして?
渡辺は無意識に杖を探した。
宮舘がいつも置いている場所。
壁際。
そこを見て。
息を止める。
あった。
宮舘の杖。
昨日と同じ場所に。
立てかけられている。
「……何で」
渡辺は。
ゆっくり近づく。
宮舘が杖を持たずに森へ入ることはない。
どれだけ近くでも。
必ず持っていく。
昔、人間に襲われてからは。
特に。
「涼太が、置いてくわけないじゃん……」
嫌な感覚が一気に強くなる。
渡辺は杖を手に取った。
その時。
食卓の上。
見慣れない跡が目に入った。
黒い。
焼けたような跡。
渡辺はゆっくり近づく。
木のテーブルに。
紋章が焼きついていた。
丸い輪。
いくつもの線。
複雑に絡み合った形。
「……これ」
見覚えがある。
渡辺は手の中の杖を見る。
杖の持ち手。
宮舘が長年使い続けてきた場所に。
同じ紋章が刻まれていた。
「何なんだよ……」
指で触れる。
テーブルの紋章は。
まだ少しだけ。
温かかった。
渡辺は反射的に手を離す。
火の魔法。
違う。
宮舘はこんなものを使わない。
そもそも。
自分の家のテーブルに。
こんな印を残す理由がない。
目を閉じる。
考える。
朝食は途中。
杖は残されている。
焼けた紋章。
宮舘はいない。
何かあった。
それだけは間違いなかった。
渡辺は。
すぐに支度を始めた。
外套。
薬。
少しの食料。
水。
そして。
宮舘の杖。
荷物へ入れようとして。
やめた。
手に持つ。
宮舘がずっと使ってきたもの。
これだけは。
離したくなかった。
家を出る前。
渡辺は一度。
振り返った。
冷え切った部屋。
火のついていない暖炉。
途中まで作られた朝食。
二人分の皿。
昨日まで。
何も特別ではなかったものばかり。
その全部が。
今は。
宮舘がいないことを突きつけてくる。
渡辺は唇を噛んだ。
人間のいる場所へ行く。
そう考えただけで。
身体が少し強張る。
何年も。
避け続けてきた。
また同じ目に遭うかもしれない。
魔法使いだと知られたら。
何をされるか分からない。
怖くないわけではない。
それでも。
渡辺は。
手の中の杖を強く握った。
「……涼太がいないなら」
小さく呟く。
「ここにいても意味ない」
扉を開ける。
冷たい朝の空気が。
頬に触れた。
いつもなら。
宮舘が先に歩く道。
暗くなる前に帰ろうと。
二人で何度も歩いた道。
今日は。
渡辺一人だった。
「絶対、見つけるから」
誰もいない森へ。
そう言って。
渡辺は。
初めて。
宮舘のいない家を後にした。
人間の世界を避け続けてきた魔法使いは。
たった一人の恋人を探すため。
森の外へ歩き始めた。
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みら

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みら

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まきぴよ
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コメント
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みぅです🖤読ませていただきました……。 冒頭の静かな朝の風景、すごく丁寧で、だからこそ胸が苦しくなりました。「何でもないはずの朝」が二度と戻らないって分かった瞬間の渡辺くんの動揺が、短い文の連なりでしっかり伝わってきて……大好きな人の杖を握りしめて森を出るラスト、切なくて、でも強くて、涙が出そうになりました。続きが気になって仕方ないです……🌙