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「なあ」
放課後、教室に残ってたのは、俺といるまだけだった。
帰るタイミングがなんとなく被って、
そのまま席でスマホいじってたら、
静かすぎて、逆に落ち着かなくなった。
「……何」
先に反応したのは、いるまだった。
顔はこっち向いてないけど、ちゃんと気づいてる。
「ちょっと聞きたいことあって」
「……内容による」
即答。
相変わらずガード硬ぇな。
「前の学校のこと」
一瞬で、空気が変わった。
わかりやすいくらいに。
「……誰に聞いた」
声が低くなる。
「まあ、いろいろ」
正直に言うと面倒そうだから、曖昧にする。
少しだけ沈黙。
教室の時計の音がやけに響く。
「……別に」
ぽつりと、いるまが言う。
「大したことじゃない」
「でもさ」
言葉を探しながら続ける。
「ケンカしたって聞いた」
反応はない。
でも、否定もしない。
「相手、怪我したとか」
「……」
「それって、本当?」
長い沈黙のあと、
いるまは、小さく息を吐いた。
「……結果だけ見れば、そうなる」
それだけ言う。
(結果だけ?)
「俺がやったって思われても、仕方ない状況だった」
淡々とした声。
感情があるのかないのか、わからない。
「でも」
ほんの少しだけ、間が空く。
「最初に手出したの、俺じゃない」
その一言だけで、十分だった。
「じゃあさ」
気づいたら、前のめりになってた。
「なんで言わなかったんだよ」
「……は?」
「違うなら、違うって言えばよかったじゃん」
いるまは少しだけ目を細める。
「言ったところで、変わんねぇよ」
即答だった。
「見てたやつは、見たいようにしか見ない」
低い声。
でも、さっきまでと少し違う。
「それに」
そこで言葉が止まる。
珍しく、迷ってるみたいに。
「……関係ないやつ、巻き込むのも面倒だったし」
(……ああ)
なんとなく、繋がった気がした。
あの日の、廊下。
あの女子。
「守ったんだろ」
気づいたら言ってた。
一瞬。
ほんの一瞬だけ、
いるまの表情が止まる。
「……別に」
すぐに目を逸らす。
否定も、肯定もしない。
でも、それで十分だった。
「そっか」
それ以上は聞かなかった。
たぶん、聞かなくてもいい部分だ。
立ち上がって、カバンを持つ。
「帰るか」
「……ああ」
教室を出るとき、
ふと振り返る。
「なあ、いるま」
「……何」
少しだけ考えて、
でも結局、シンプルに言った。
「俺は、ちゃんと見るから」
沈黙。
「……勝手にしろ」
いつも通りの、そっけない返事。
でも。
その声、ほんの少しだけ、
柔らかかった気がした。