テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ナッキとしては事実を言っただけであったが、年長者達の説教で気弱になっていたのだろう、若いメダカ達は揃ってキラキラした瞳に薄っすらと涙を浮かべて見つめている。
恐らく信者が誕生した瞬間なのではないだろうか、ワンランク上の忠誠を湛えた瞳であった。
年長の十数匹は更に判り易い反応を見せている。
涙腺に何らかの健康被害でも勃発したみたいに止め処なく、感涙を流しながら声を揃えたのである。
『ゆ、許すなど、とんでも有りません! それどころか、王様が自らこの池の安穏(あんのん)に心を砕かれて居られていると言うのに…… 我々年長者がそのお心を理解していなかったとは…… くぅっ! 汗顔(かんがん)の砌(みぎり)、でございます! メダカが昔から住んでいた? 勝手にですって? 関係有りませんっ! どうぞ思うままになさって下さいませっ! いいえっ! どうかどうかっ! 王様の思(おぼ)し召すままにこの池、いいえ、王国の改革に邁進して下さいませぇっ! メダカは、いいや我等臣民は只々、御身に寄り添って生きて参りますのでぇっ! 死をも厭(いと)いはいたしませんっ! と言うか必要ならば今死にますっ! 寧(むし)ろ、無意味でもどうかご命令下さい! 『死ね』とっ! 喜んで死んで見せますよぉっ! ええ、ええっ! そうでしょうともぉっ!』
なるほど、狂信者誕生の瞬間らしい。
人間でバランス感覚とかに多少でも意味を感じる者であったら気色悪い、そんな風に思う場面であろうが、幸か不幸かナッキは宗教とか一切関係ない純朴な銀鮒である。
故だろう、満面の笑顔で年長のメダカ達に感謝の言葉を告げるのであった。
「うわぁ、本当かい? 良かったよぉ、じゃあさ、色々、変えさせて貰っちゃうよぉ! やったぁー!」
大喜びのナッキと同じ位に嬉しそうな顔を浮かべた、狂信者っぽい年長のメダカ達も声を揃えて叫ぶ。
『はいぃっ! 王様がここまで仰ってくれているんですから、我々も頑張りますよぉっ! 今後は今まで以上にハイペースでこの池の住環境に施すべき改善案の図面を上げていきますのでぇ! 王様っ! ご期待下さいませぇっ!』
ナッキは尚も満面の笑顔を浮かべたままで嬉しそうに答える。
「えっ? 図面? ああ、あれかぁ! あれ使ってないよぉ! だってメダカ目線だけで書かれているじゃない? あんなのの通りに作ったら僕が生き残れないからね? だから、図面とかいらないよ! 僕が先生、あ、これは銀鮒の学校の先生ね! 先生に教えてもらった知識だけで作るからさ、君たちは何もしなくて良いんだよぉ! 作りたければ作っていいよ? どうせ捨てちゃうけどねっ! アハハハ♪」
年長の鮒たちの表情は急激に冷静さを取り戻していったが、狂信とは恐ろしい物なのだろう、一様に引きつった顔のままで搾り出すように声を揃えたのである。
『そ、そうですか…… そうですよ、ね…… アハ、アハハハ、グスッ、アハハハハ……』
「うん、アハハハハハァッ! 良かった良かったぁー!」
こうしてナッキは思い通りにこの池の環境に即した改造を行う権利の言質(げんち)を得て、明日からも馬鹿みたいな早起き、限界突破の遅寝をする事に決めたのである。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!