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重い扉が、静かに閉まる。
外の音が完全に遮断される。
——静寂。
広い室内。
だが今は、その広さすら意味を持たない。
「……逃げ場、ねぇな」
チャンスが小さく笑う。
その声は軽い。
けど、どこか熱を帯びている。
マフィオソは背を向けたままコートを脱ぐ。
ゆっくり、無駄のない動き。
「最初からそのつもりだろう」
「まぁな」
チャンスはネクタイを緩める。
自分から。
さっき中途半端に乱されたそれを、わざと外す。
「で?」
軽く首を傾ける。
「どっちが勝つ?」
マフィオソは振り返る。
その視線は静かで——逃げない。
「勝敗にこだわるのか?」
「当たり前だろ」
チャンスは笑う。
「お前には負けたくねぇ」
はっきりとした言葉。
一瞬、沈黙。
その空気を切るように——
マフィオソが歩み寄る。
距離が縮まる。
「なら」
低く落ちる声。
「覚悟はあるな」
「は?」
次の瞬間——
一気に距離を詰められる。
肩を押される。
そのままソファへ。
沈み込む感覚。
「っ、」
一瞬、体勢が崩れる。
(……来たな)
チャンスの口元が歪む。
だが——
次が、予想より早い。
逃げる間もなく距離を詰められる。
近い。
近すぎる。
視線を逸らす暇もない。
「今度は、逃がさない」
低い声。
そのまま——
触れる。
さっきまでよりも、迷いがない。
一定のリズムで詰めてくる圧。
完全に主導権を握られている。
「……っ」
チャンスの呼吸が一瞬乱れる。
(……やべぇな、これ)
分かる。
今までの“遊び”じゃない。
押されてる。
完全に。
普通なら——
ここで引く。
でも
「……は」
小さく笑う。
息が少し混じる。
「いいじゃねぇか」
むしろ、楽しい。
体の力が少し抜ける。
抵抗じゃなくて——受ける方向に。
「その顔だ」
マフィオソが低く言う。
「さっきから、それを見たかった」
「……何だよそれ」
チャンスは笑う。
少しだけ目を細める。
「崩れるの、そんな好きか?」
「滅多に見られないからな」
淡々とした返答。
だが、その手は離れない。
逃がさない距離。
チャンスは息を吐く。
「……チッ」
舌打ち。
けど、その表情は——
明らかに楽しんでいる。
「やっぱ、お前」
肩で息をしながらも笑う。
「退屈しねぇわ」
視線を上げる。
まっすぐ、ぶつける。
「もっとやれよ」
挑発。
でも、それはさっきまでの“試し”じゃない。
完全に——乗っている。
マフィオソの目がわずかに細まる。
「言われなくても」
そのまま、さらに距離を詰める。
逃げ場はない。
でも——
チャンスはもう逃げようとしない。
むしろ、迎えにいくように少しだけ体を起こす。
ぶつかる距離。
「……はは」
小さく笑う。
「これで負けたら、さすがに悔しいな」
「負けを認める気はあるのか?」
「状況次第だな」
息混じりの声。
だが目は死んでいない。
むしろ——
完全に火がついている。
「でも今は——」
少しだけ距離を詰め返す。
「まだ終わってねぇ」
その一言で、
空気がまた一段、濃くなる。