テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ゆゆゆゆ
ゆゆゆゆ
3,331
ソファに沈んだまま、
逃げ場は、もうない。
マフィオソの影が覆いかぶさる。
距離はゼロ。
視線も、呼吸も、完全に絡んでいる。
「……っ」
チャンスの息が、少し荒くなる。
さっきまでは抑えられていたリズムが、
徐々に崩れていく。
(……押されてるな)
頭では分かっている。
主導権は完全に向こう。
このまま行けば、負ける。
それなのに——
「……は」
小さく笑いが漏れる。
「マジで、容赦ねぇな」
「言ったはずだ」
低い声。
すぐ近くで落ちる。
「逃がさないと」
その言葉通り、距離は一切緩まない。
むしろ、じわじわと詰めてくる。
一定のリズム。
逃げる隙を与えない圧。
「……っ、」
チャンスの指が、ソファを軽く掴む。
力が入る。
でも——押し返さない。
(……楽しい)
その感覚が、先に来る。
悔しさよりも、
焦りよりも、
先に。
「お前さ……」
息混じりに言う。
「こういうの、慣れてるだろ」
「どう思う」
「慣れてる顔してる」
「なら、その通りだ」
淡々と返される。
だがその言葉の裏には、
余裕以上のものがある。
“経験”じゃない。
“支配する側の感覚”
「……チッ」
チャンスが舌打ちする。
でも、その顔は——
完全に崩れてきている。
目が少しだけ細くなって、
呼吸が揺れて、
いつもの余裕が削れていく。
「顔に出ているな」
マフィオソが静かに言う。
「何が」
「楽しんでいる」
「……は?」
一瞬、間。
否定しようとして——
言葉が止まる。
(……図星かよ)
「別に」
強がる。
けど声が少しだけ掠れる。
それを見逃す相手じゃない。
「隠すな」
低く囁かれる。
「どうせ、もう分かっている」
距離がさらに近づく。
逃げ場はない。
「お前は」
続く言葉。
ゆっくり、確実に。
「こういう“負けかけの状況”が一番好きだ」
「……っ」
完全に、核心を突かれる。
チャンスの目が見開かれる。
一瞬だけ。
(……やべぇ)
当たってる。
完全に。
勝てる勝負じゃ、満足できない。
追い詰められて、
ギリギリのラインで揺れる瞬間——
それが一番“面白い”。
「……はは」
笑う。
もう隠す気がない。
「よく分かってんじゃねぇか」
息を吐く。
肩の力が抜ける。
完全な抵抗は、もうしていない。
「ならさ」
視線を上げる。
まっすぐ、ぶつける。
「もっと追い詰めてみろよ」
挑発。
マフィオソの目がわずかに細まる。
「いいだろう」
その返答は静か。
だが、確実に温度が上がる。
チャンスがわずかに身を起こす。
近づく。
逃げるんじゃない。
自分から寄る。
「どこまで行けるか、見せてみろ」
その瞬間、
空気が完全に変わる。
遊びじゃない。
ただの勝負でもない。
もっと危うい何か。
マフィオソの手が、わずかに動く。
「……なら」
低く、静かに。
「限界まで連れて行ってやる」
「は、上等」
チャンスは笑う。
息は乱れている。
目も少し潤んでいる。
完全に崩れかけているのに——
その顔は、
楽しそうで、
浸っているようで、
そして何より
“まだ終わってない”顔をしている。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!