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ソファに沈んだまま、
逃げ場は、もうない。
マフィオソの影が覆いかぶさる。
距離はゼロ。
視線も、呼吸も、完全に絡んでいる。
「……っ」
チャンスの息が、少し荒くなる。
さっきまでは抑えられていたリズムが、
徐々に崩れていく。
(……押されてるな)
頭では分かっている。
主導権は完全に向こう。
このまま行けば、負ける。
それなのに——
「……は」
小さく笑いが漏れる。
「マジで、容赦ねぇな」
「言ったはずだ」
低い声。
すぐ近くで落ちる。
「逃がさないと」
その言葉通り、距離は一切緩まない。
むしろ、じわじわと詰めてくる。
一定のリズム。
逃げる隙を与えない圧。
「……っ、」
チャンスの指が、ソファを軽く掴む。
力が入る。
でも——押し返さない。
(……楽しい)
その感覚が、先に来る。
悔しさよりも、
焦りよりも、
先に。
「お前さ……」
息混じりに言う。
「こういうの、慣れてるだろ」
「どう思う」
「慣れてる顔してる」
「なら、その通りだ」
淡々と返される。
だがその言葉の裏には、
余裕以上のものがある。
“経験”じゃない。
“支配する側の感覚”
「……チッ」
チャンスが舌打ちする。
でも、その顔は——
完全に崩れてきている。
目が少しだけ細くなって、
呼吸が揺れて、
いつもの余裕が削れていく。
「顔に出ているな」
マフィオソが静かに言う。
「何が」
「楽しんでいる」
「……は?」
一瞬、間。
否定しようとして——
言葉が止まる。
(……図星かよ)
「別に」
強がる。
けど声が少しだけ掠れる。
それを見逃す相手じゃない。
「隠すな」
低く囁かれる。
「どうせ、もう分かっている」
距離がさらに近づく。
逃げ場はない。
「お前は」
続く言葉。
ゆっくり、確実に。
「こういう“負けかけの状況”が一番好きだ」
「……っ」
完全に、核心を突かれる。
チャンスの目が見開かれる。
一瞬だけ。
(……やべぇ)
当たってる。
完全に。
勝てる勝負じゃ、満足できない。
追い詰められて、
ギリギリのラインで揺れる瞬間——
それが一番“面白い”。
「……はは」
笑う。
もう隠す気がない。
「よく分かってんじゃねぇか」
息を吐く。
肩の力が抜ける。
完全な抵抗は、もうしていない。
「ならさ」
視線を上げる。
まっすぐ、ぶつける。
「もっと追い詰めてみろよ」
挑発。
マフィオソの目がわずかに細まる。
「いいだろう」
その返答は静か。
だが、確実に温度が上がる。
チャンスがわずかに身を起こす。
近づく。
逃げるんじゃない。
自分から寄る。
「どこまで行けるか、見せてみろ」
その瞬間、
空気が完全に変わる。
遊びじゃない。
ただの勝負でもない。
もっと危うい何か。
マフィオソの手が、わずかに動く。
「……なら」
低く、静かに。
「限界まで連れて行ってやる」
「は、上等」
チャンスは笑う。
息は乱れている。
目も少し潤んでいる。
完全に崩れかけているのに——
その顔は、
楽しそうで、
浸っているようで、
そして何より
“まだ終わってない”顔をしている。