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海月
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翌日――
俺は会議場に入ると、昨日と同じく既に王子たちは揃っていた。
今日何かしら進展させないと。具体的にはどの国が防壁の修理に当たるか、その際警備はどの国が行うかなど決めないと。
そう思いながら椅子に腰掛けると、どこか嫌な雰囲気を感じ取った。
円卓に座る4人の王子と王女の視線が、全部こちらに向いている気がする。
初対面の昨日ならわかるが、今日俺の顔をジロジロ見ても仕方ないと思うが。
時間になり、アンドリューが会議を取り仕切る。
「それでは皆様、本日が最終日となります。今回議会延長手続きがなければ、次の会談は3週間後となります。それでは本日最初の議題となります。防衛壁の修理費の各国負担額についてですが、まずダークラインの建設費のご説明から――」
「すみません、その前に」
アンドリューが説明をする前に、すぐにグローリーが立ち上がる。
「会談を始める前に、伝えたいことがある。我々ガレス、ギデオン、トリスタン、アクアレムは一時的な同盟関係を結ぶことになった」
本当なら驚くことなのだが、なんとなく雰囲気からこの4国が何か仕掛けてくるのは目に見えていた。それが同盟とは思わなかったが。
「ボク達は、魔獣防衛に関して国を越えて相互協力を行うことにした。ボク達はボク達で会談を行い、軍事行動を行う。その軍事行動を妨害する国に対しては、結束して戦うことを決めた」
妨害行動をとる国って、もうリガルド帝国しかありませんが。
ウチがちょっかいかけたら、4国で反撃してくるってことですね、わかります。
「ひいては明日、魔獣殲滅作戦を行う」
毅然と言い放つグローリーに、俺は眉を寄せる。
「正気か? 今日同盟を組んで明日合同の軍事作戦って、絶対成功しないぞ」
「いいや、する。ボクらは結束し、悪の魔獣を討ち滅ぼすんだ。そうすればギデオンもトリスタンも一時的ではない、恒久的な同盟を結んでくれると約束してくれた」
なるほど、動く気のないリガルドよりも、魔獣討伐に乗り気なガレスについたというわけか。ダークラインの採掘を進めたいギデオンは、壁の修理よりも中の開拓を進めたい。トリスタンも魔獣を倒すことを目的としている。アクアレムは多分、多い方についただけだな。
「魔獣防衛壁の破損原因は、恐らく増えすぎた魔獣にある。それらを一旦ボクらで間引くんだ」
「諜報も準備も足りていない。そんな憶測で兵を動かすつもりか?」
「ボクらは臆病風に吹かれてはいない」
「そういう問題じゃない。壁に集まっている魔獣の数は数千。そんな昨日今日決めたノリで作戦を展開したら、部隊に大規模な被害が出るぞ」
「我々は知恵と勇気と結束力を持って、魔獣と戦う!」
「そんな根性論は聞いていない! 戦闘音が他の魔獣を呼び寄せ、壁の決壊を早めることになるぞ!」
「では聞くが、君は魔獣と戦ったことがあるのか? ボクはある! 魔獣は確かに強かったが、皆の勇気が合わされば倒すことができる!」
「それはあくまで少数の話だろう。部隊指揮になると全然話がかわってくるぞ」
俺は必死に説得を試みるも、グローリーは首を振る。
「君は、どうしてもボクらの同盟を引き裂きたいみたいだね」
「俺が嫉妬で、こんなこと言ってると思ってるのか?」
「リガルド帝国にとって、この同盟は都合が悪いことだろう」
確かにグローリーの思惑は、この作戦で魔獣討伐が上手くいったら、その流れでリガルドも4国で倒しに行こうってハラだろ。
そうなられると非常に面倒なのは間違いないが、みすみす死にに行くのを止めないわけにはいかない。
「とにかく俺は反対だ。もしダークラインの中を攻めるというのなら、もっと話し合って――」
「この作戦は、あくまでボク達4カ国の話だ。リガルドには関係ない」
グローリーに話しても無駄だな。こいつはもう完全に思考ロックしてる。
俺は、まだ賢そうだったジャガーを睨みつける。
「そんな目で見るな。オレは国益を判断して、この決断をしただけだ。ウチはヘビみたいに悠長に待ってられるほど、資源が残ってねぇ」
「兵が死ぬぞ」
「死んでもコアメタルはとらなきゃいけねぇんだ。オレはそのためにここにいるし、この場に派遣されているギデオンの兵も同じことを考えている」
「……そうか。トリスタンも同じ考えか」
「魔獣は倒さなければならない侵略者だ」
四人は立ち上がって、会議室を後にする。
アクアレムのセレーネだけは、最後までこちらにペコペコと頭を下げていた。
一人円卓に残された俺は、大きな息を吐く。
アンドリューは静かに俺の後ろに控える。
「いかがなさいますか?」
「諜報を出して、4国の動きを探って」
「彼らが魔獣を駆逐するというなら、駆逐後疲弊したところをリガルドが攻めるという手もありますが?」
「そうすりゃダークラインの資源は独り占めだな。4国からは徹底的に嫌われるだろうけど」
「それが国益と言うものです」
「父上がどうやって悪王と呼ばれるようになったか、段々わかってきたよ」
俺は自分の決断で、4国と戦争になるかもしれないという未来が見えて背筋が冷える。
いや、そもそもこのまま何もしなければ、勢いづいた4国がリガルドを攻める可能性は高い。
「アンドリュー、砦の部隊は?」
「リガルド最強の暗黒騎士隊、竜騎兵部隊が待機しております」
「4国と戦って勝つ見込みは?」
「魔獣戦後、疲弊した部隊なら制圧は容易でしょう。王子のおっしゃられた通り、昨日今日結びついた国は非常に脆く、魔獣にすら負ける可能性が高いです」
「…………ここで王子たちを討てば、国同士の戦争が始まるよな」
「向こうはそのつもりで同盟を組んでいます。でなければ我々を省く必要がありません」
「…………」
「それに彼らは無謀にも、魔獣だらけのダークラインの中へと向かったのです。誰に殺されたかはわかりません」
「魔獣の仕業に見せかけろと?」
「いえアクアレムを残して、全ての責任をなすりつけるのが良いかと」
魔獣駆逐で疲弊しているところを襲い、アクアレムだけ残して、アクアレムが造反して3国を討ったということにする。
そうすれば、世界の批判はアクアレムに集中、リガルドは大義名分を得て侵略を行うことが出来る。
恐らくセレーネのことだ、ロクに反論することすらできないだろう。
怪しむ者も多くいるだろうが、真実を知るのはリガルドとアクアレムだけ。
なんて悪い計画なんだ。
昨日チョリソとりあった奴を背中から撃って、責任は他の国になすりつける。人として終わってる。でも悪の国がやりそう。
「どうされますか王子? 先に裏切ったのは奴らですぞ」
「少しだけ時間をくれ……」
「畏まりました。休憩後、またお聞きします」
◆
その頃、ブロックス城塞を出た4人は、ギデオン国拠点【スパイラルギア】にて会議を行っていた。
4国のほぼリーダー的役割になったグローリーは、テーブルに座るジャガー、ソニア、セレーネを見渡す。
「よくボクのもとに集まってきてくれた。勇気ある王子たちに深く感謝します」
「あ、あの、本当によろしかったのでしょうか? リガルド帝国をのけ者にするような……」
グローリーはセレーネの言葉に大きく首を振る。
「彼らがやってきたことは、皆知っているはずだ。どうか自分の正義を疑わないでほしい」
「おい、んなことより魔獣殲滅作戦だ。当然策はあるんだろうな?」
ジャガーの言葉にグローリーは「ん?」と困惑する。
「おま、まさか無策でオレたちを集めたのか!?」
「いや、戦闘の作戦指揮なら任せてほしい。ボクらガレスの人間は魔獣をたくさん倒してるからね」
「なら、戦闘における役割分担をはっきりしようぜ」
「それはいいね、各々自軍の強みを教えてほしい」
ジャガーは、こいつ本当に大丈夫か? と顔をしかめながら自軍の強みを伝える。
「オレたちギデオンは、装甲騎士、銃砲騎士による中距離支援を得意としている」
「我らトリスタンは、魔法部隊による後方支援を得意としている」
「あ、アクアレムは負傷者の治療を得意としています。勿論後方サポートになります」
「ボク達、ガレスは少数精鋭による奇襲を得意としているよ」
自軍の強みを発表した後、各国に沈黙が広がる。
ジャガーは、この同盟の穴を口にする。
「おい、どの国が前衛やるんだ?」
「「「…………」」」
コメント
1件
うわあ…第27話、すごく重くて苦しい回だった…。王子が必死に止めようとしてるのに、グローリーたちの勢いがもう止まらなくて、読んでて息が詰まる感じがした。アンドリューの“魔獣の仕業に見せかけて”の提案、悪役すぎてゾッとしたけど、リガルドの立場を考えると納得もできてしまうのが辛い…。最後の「どの国が前衛やるんだ」でピシッとシリアスから滑稽に切り替わるギャップ、めっちゃ笑った。同盟、本当に大丈夫なのかな…次が気になる🥀