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海月
38
俺は会議室から自室に帰ってベッドにダイブすると、頭を枕の中に埋める。
「なんか大変なことになったな」
ヨハンナも、俺が重要な決定を迫られていることを察して後頭部をガリガリとかく。
ママ上は、俺の態度に心配そうな声をあげる。
「何があったのかしら?」
「これ話していいのか?」
「…………いいよ」
俺は枕に頭を埋めたまま頷くと、ヨハンナが先程の出来事をかいつまんで説明してくれる。
「そんなことが……」
「先にこっちをハブにしたのは連中なんだけどな……。砦の責任者は、ほうっておくと攻撃されるし、後ろから撃ってその責任は別の国になすった方が良いって」
「ジャガー君って、昨日ラウルちゃんと仲良くお食事してた子でしょ?」
「……仲良くはない」
「ねーねーラウルはどうなるのがいいと思ったの?」
犬形態のナハトに聞かれて、俺は顔を上げる。
「皆仲良くすればいいじゃんって。俺はそう思ってるだけなのに、なんでこう自国の利益とか復讐心を優先させちゃうんだろうか」
「そりゃ……キャプテンだからだろ。あたしも規模は違うけど、海賊団を食っていかせるためには手を汚す覚悟はしたし、実際汚いこともした。仲間の為なら、キャプテンは悪いこともできちまうんだよ」
「俺は自国の民のために、4国の王子と王女を殺してもいいと思う?」
「ん、ん~……話がでかすぎるぜ」
俺が溶けたタールみたいにふにゃふにゃになっていると、ママ上がぎゅっと抱きしめてくれる。
「ラウルちゃんは優しい子だから……。せっかくできたお友達と戦いたくないよね」
「友達ではない。おれあいつ嫌い」
「ママもね、戦わないほうが良いと思うの」
「…………」
「あたしが言っても説得力ないと思うけど、あたしも……そう思う。一回タガが外れちゃうと、あいつも殺しちゃえばいいかってなると思うんだ。お前の場合だと、あの国も潰しちゃえばいいかってなると思う」
「…………」
「ラウルちゃんは、皆が争わないように仲良くしようとしていたのに、皆は勝手に行っちゃったんだよね」
「うん。気づいたら一人にされてた。俺は危ないって言ってるのに」
「じゃあさ、こういう時こそ優しくしてみない?」
「?」
「皆今は眼の前のことに必死になって、周りが見えてないと思うの。だけどいずれ、慎重に行動するべきだったって気づくと思う。その時ラウルちゃんが、カンカンに怒ってると皆気まずくて自分の過ちを認められないと思う」
「…………それは、攻撃せずに何もするなってこと?」
「そう。やっぱりラウルちゃんが正しかった、冷静だったって思ってもらえるように、怒らずにいてほしい」
冷静にか……。でも怖いよ。4国で結託して襲いかかってきたら、リガルドだって大きな被害を受ける。
ガレスなんか前屋敷で襲ってきたタランチュラと同じだ。自分のことを正義だと疑ってないし、話し合いすら通じない。
アンドリューの言う通り、今のうちに倒さないといずれ俺だけでなく、ママ上たちも危険に晒すんじゃないかと思う。
「ラウル、邪悪な決断をすると心が邪悪に染まるよ。イヤミルみたいになっちゃダメだよ」
ナハトはいつもにまにま顔をしているが、珍しく真面目な顔をしている。
「あっ、そうだラウル。これ言うか迷ったんだけどさ」
「何?」
「ダークラインの中に、多分聖剣あるよ」
「……何?」
「多分聖剣を持ってた聖女が、魔獣に食べられちゃったんじゃない?」
「…………」
◇
1時間後――
アンドリューが部屋を尋ねてきた。
「王子、ご決断を」
「騎士達に戦闘準備を。明日、四国同盟の魔獣殲滅作戦に合わせてリガルドは動く」
「畏まりました」
◆
翌日――
ジャガー、ソニア、グローリー、セレーネは、それぞれ砦内の部隊を率いて魔獣防衛壁の前に立っていた。
人類と魔獣を隔てる巨大な魔法防壁――ダークライン。
数百キロに渡り、東西を分断するその長壁は高さ約30メートル。北側を第1区画として順に2区3区と分かれ、最終南側防壁を第10区画としている。防壁はそれぞれ地下に張り巡らされた、送魔パイプにより魔力を送られ防壁を展開する。
壁面には無数の傷やひび割れが刻まれており、壁の中に埋め込まれた防壁発生装置がむき出しになっている部分もある。
防壁には長年の負荷と戦いの痕跡が見て取れた。それでもなお、その威容は圧倒的であり、簡単に突破できるものではないことを物語っていた。
――第5区画、丁度防壁の中間点にあるこの区画には、入場用のゲートが存在する。
軍隊でも通り抜けられる横広のゲートには、各国の代表を先頭に砦内の部隊が集っていた。
黒に銀色の鎧、肩には歯車の国章、溶接工のような四角いフェイスガードを被り、その手には銃砲が握られたギデオン国の装甲騎士隊。その数、約5000人。
ソニアと同じ、学生服のような騎士服に身を包み、その手にはクリスタルのついたワンドを握るトリスタン魔法騎士隊。その数、約3500人
頭を隠すケープがついたブルーのローブに、三叉になった槍のような杖を持つアクアレムのヒーラー部隊。その数、約1800人。
これだけの軍が展開する中、ガレス共和国はたった15人ほどしか連れてきていなかった。
ジャガーは、そのあまりにも貧相な人数に憤る。
「おい、どうなってんだ。砦にいる兵を全員連れてこいって言ったのはテメェだよな!? なんでガレスだけ出し渋ってんだよ!」
「誤解だ、ここにいる兵たちが本当にガレスの全戦力なんだ」
「嘘ついてんじゃねぇよ!」
「ボクには軍を動かす権限がないんだ。だってそうだろう? ボクが好き勝手に軍を動かしちゃうと、独裁になるじゃないか」
「だからって、なんなんだこの人数は!? ピクニックに来たんじゃねぇぞ!」
「彼らは革命を成功させた有能な戦士だ。彼らだけで一個師団クラスの働きはする」
「本当かよ!? 適当抜かしてんじゃないだろうな!?」
「ボクはそんなくだらない嘘はつかない」
ジャガーはここに来て、グローリーの脳天気さに頭を抱えそうになっていた。この状況でもし部隊が壊滅した場合、最も痛手を払うのは、兵数が多いギデオン。
他の国もリスクをとって来ていると思っていたが、蓋を開けてみるとガレスは兵を連れてきていない。
これでは四国同盟ではなく、三国同盟である。
ジャガーは、ほぼ詐欺にあったような気持ちになっており、脳裏にリガルドと組んだほうが良かったんじゃないか? という後悔が浮かび始める。
「くそっ、実質ウチとトリスタンとアクアレムでやるしかないか」
しかし彼以上に緊張した顔をしていたのは、セレーネだった。
この四国同盟で、前衛ポジションが不在なため話し合いの結果、アクアレムが前衛というよくわからないポジションになってしまったのだ。
ジャガー曰く、結界魔法で耐えている間になんとかしてくれるとのことだが、兵の命を最前線に送ることになり動悸が止まらない。
「わ、私は本当にこれで良かったのでしょうか?」
「姫様、しっかりして下さい。この同盟でアクアレムが活躍し、議会での地位を確立するのです。今が一番苦しいときなのです」
「し、しかしヒーラー前衛なんて聞いたことありません」
「何事もやってみないとわかりません」
「や、やらなくてもわかるから誰もやってないのでは!?」
「姫様、もう始まってしまったのです。後には戻れませぬ!」
セレーネお付きの禿頭の騎士が励ますも、彼女の目は渦巻き状になっておりパニックを起こしていた。
コメント
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第28話読んだよ!ラウルが「皆仲良くすればいいのに」って言ってるところ、めっちゃ切なかった……。ママ上の「優しくしてみない?」ってアドバイス、深いなと思ったわ。怒りに任せて動くのではなく、冷静にいることで後々「ラウルが正しかった」って思わせる戦略、そういうのもあるんだなって。 最後の四国同盟、兵数出し渋るガレスにジャガーがキレてるシーン、リアルな政治の駆け引きって感じでゾクゾクした。ヒーラー前衛とか不安しかないけど、どうなるんだろう…。続きが気になる!