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10.愛することは、相手を敬うこと
「ふわぁ……今日は珍しく天気が不安定ですね。さっきまで雨が降っていたのに、今は晴れてますよ」
「まるで今日の話し合いの決着を描いているようね」
「ちょっと、怖いこと言わないでくださいよ」
3日かけてすっかり片付いた事務所で、花音はソファで大きな欠伸をする。昨日からこれまで集めていた情報をまとめていたせいで、ここのところよく眠れてないのだ。
一方、マリアは事務所の中心にあるテーブルで、資料を真剣な表情で読み漁っていた。
今日はkくんの家に行く日。でも会いに行くのはkくんではない、両親のほうだ。
あの後母親である真希さんと何度か交流を重ね、1週間後の今日、父親でもある雅人さんも交えて話を聞かせてもらえることになったのだ。
「大丈夫でしょうか。私たちがkくんに依頼されて、あの家について調査していた探偵ですって伝えて」
「……正直母親のほうは危険ね。私のことを友人だと思っているし、何よりその友情とやらを裏切ったら何をしでかすかは、全くわからないわ。でもこれはkくんのためなのよ」
マリアのその瞳には、今まで以上に真剣で、熱意が込められていた。
まるで今にでも戦場に行ってしまうかのような。
ピンポーンという音が、辺りに響く。
ログハウスのような雅人さんの家とは違い、いかにも洋風でお金持ちが住んでいそうな豪邸だ。家の周りが門で囲まれており、庭には大きな池がある。流石は医者をやっているだけのことはあるようだ。
「あら、いらっしゃいマリアさん。そちらの方って、娘さんよね?講習会に来ていた」
「そうよ。今日はちょっと話があるから花音にも一緒に来てもらったの。いいかしら」
「ふふっ……もちろんいいわよ。さぁ、上がって頂戴」
玄関も煌びやかで、一般人の暮らしとはずいぶん違う生活を送っているのだと実感された。
それと同時に、今から真希さんを裏切る。その事実がマリアと花音の胸を侵食していくのを感じた。
「紹介するわ。あの人が私の夫の木下雅人よ」
「よ、よろしくおねがいします……」
朗らかで優しい雰囲気を持っているのは前回と変わっていないが、どこか落ち着きがないように見える。
この間話した女性が今、目の前にいるからなのだろうか。それとも、違う理由なのか。
二人は椅子に腰かけ、真希さんは台所へ向かう。ウキウキした気分でコーヒーを二つ淹れているらしい。
その後、用意したカップを二人の前に一つずつ置き、その場にいる全員が一つのテーブルに集まった。
「そういえば息子さんは、今日も二階でお勉強を?」
「いいえ。今日は塾の日だからちょうど塾へ行ってるわ。何か用事でも?」
「別に、ただ何となく気になっただけよ」
最初はいつも通り軽い雑談から、そしてその場が和まれたら本題に入る。そのほうがその人の本心が聞ける確率が上がる。
それから数分した後、マリアはその顔から笑みを消し、いつになく真剣な表情で真希さんと雅人さんを見つめた。
元より鋭い目をしたその瞳は、より一層深みを増している。雰囲気の変化には、その場にいる全員が感じていただろう。
「今日はね。真希さんと雅人さんにお話があってきたの。お二人の息子さん……今はkくんと名乗っておきましょうか。今までの人生、あなた達はkくんに長時間の勉学を強制し、友達も制限。自由も意思も無視し、自分たちの意見を押し付けた。それは親として__人間としてしてはいけないこと。ここまでの話はわかりますか?」
「はっ?何を言ってるの?」
「あぁ、すみません。そういえば私の職業をいうのをすっかり忘れていたわ。改めまして、私は北条マリア。子供たちを救う探偵をしてるの。そして隣にいるのは、娘ではなく私の助手よ」
話を聞いているうちに、真希さんの顔には少しずつ怒りが表れてきた。信じていた友人に裏切られたせいなのか。それとも自分の考えを否定されたせいなのか。
雅人さんは気まずそうな表情で床を見つめている。彼の癖らしい。
「すべて正直に言います。子供の意見を無視し、自由を与えず、ほめることもせず、自分たちの当たり前に子供を巻き込む時代は、もう終わったんです。今は多様性の時代です。子供たちのやりたいことをやらせ、のびのびと生きる。そしてそうなるような環境を与える。それが本当の親の務めです。自分のエゴのために、自分の価値を上げるために子供を道具として利用し、まるで人形のように操るのは、本当の親がするべきことじゃない。子供のため、将来のため。いわゆる”子供のため”という呪縛によって逃げられないようにしているんです。本当は、すべて”親である自分たちのため”なのに……」
「違う!私は本当にあの子を思っているの!あの子のために無理やりにでも、体調が悪くても勉強をさせなきゃ、きっと周りの子と差ができてしまう。今頑張ればあの子は絶対に幸せになれる!私は何も間違っていない!そもそも、他人のプライベートに勝手に深入りするのが探偵のやることなんですか?それに私のことを騙して……本当に」
「いい加減にしろ!」
勢いよく立ち上がり、二人を非難する真希さんを、1つの声が制止させる。
強くて芯があって、でもどこかに優しい雰囲気をもった、子供と大人の中間にいるような。
その声の主を探すため、真希さんは辺りを見渡す。しかし、どこを見てもその声の主はいない。
すると、ガタガタと近くにあったクローゼットが静かに動き出し、扉が勝手に開かれた。
中から出てきたのはブルーの透き通った瞳をした、雅人さんと同じような茶髪の髪をしている__
「……啓?」
依頼人の__kくんこと、啓くんだった。
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