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6 - [1-6] 自分の想い、伝わるまで

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2025年08月18日

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11.本当の想い

「な、なんで……啓は今塾に行っているはずじゃ?」

クローゼットから出てきた息子の姿に、思わず動揺しているのか、その場に立ち尽くしている。

そんな様子の真希さんの肩に、そっと誰かの手が置かれた。

ごつごつしていて、怖いのか心配なのか、その手は少し震えているように見える__そんな雅人さんの手は、どこか温かい。

両親を横目にチラッと見た後、kくん__いわば啓くんはもう一度、正面から向き合った。

まるで今までの過去と、現状を変えようと決心しているかのような。自分の力で未来を変えようとしているかのような。そんな気がした。

「塾は休んだ。お父さんに頼んで、休ませてもらったんだ。どうしても伝えたいことがあって」

「何を言っているの?休んじゃダメじゃない!今回の授業分、ほかの子に遅れをとることになるのよ!?」

ハッと我に返ったのか、鬼のような形相で啓くんに詰め寄る。話には聞いていたが、実物を見ると、そのピリピリとした雰囲気が、先方にも通じてくる。

それでも、啓くんは表情を何一つ変えなかった。凛としていて冷たくて、強い意志が感じられる、青い瞳をしていた。

一歩ずつ、一歩ずつ。啓くんはテーブルから少し離れたクローゼットから両親のもとへ歩み寄ってくる。

マリアと花音は、その様子を部屋の隅からうかがっていた。自分たちにできることはなにもない。今は家族内で話し合うべき時間だ。

「二人の言いたいことはわかるよ。学業は学生の仕事っていうし、いい大学に行って、良い職場に就いて、良い人生を歩む。手本みたいな人生を過ごす。それが全部僕のためってことくらいわかるよ。高校生なんだから」

でも、と啓くんは意を決したように、息を吐いた。

「僕は、ずっと両親を頼りに生きたいわけじゃない。失敗しない人生を歩みたいわけじゃないんだ。失敗してもいい、間違ってもいいから、いろんなことにチャレンジしてみたい。もちろん、勉学も支障がないように毎日頑張る。自分の人生なんだから……自分のやりたいようにやってみたい。肩の力をぬいて、リラックスして、マイペースでさ」

「いや、そんな我儘がきくような世の中じゃないのよ?ちゃんと勉強しないと__」

「もういいだろう。真希」

その時初めて、芯の強い、男性らしい声が聞こえた。いつもの弱弱しい声が、今は違うように聞こえる。

「……あなたまでそんなことを言うの?なんで?いつもは私と同じことを言っていたじゃない!私のやり方が、間違っているとでもいうの!?」

真希さんは、その場に崩れ落ちた。顔を手で覆っているため表情はわからないが、床に水滴のようなものが落ちているだけはわかる。

そんな様子の真希さんを、雅人さんは優しく抱き着いた。

君は間違っていないよ、とでもいうかのように。

「僕は、啓と真希のことを第一に生きてきた。君たちに何かあれば、僕は何があってもすぐに飛んでくるほどさ。だから、二人が望んでいるのであれば、このやり方も間違っていないのではないか。そう、自分に言い聞かせていたんだ。啓の本心も、気が付いていないふりをしていた。でも、これは誰も悪くないんだ。ただちょっと、愛情が行き過ぎただけのことなんだ。すまない、二人とも……」

そう訴える瞳は、少し赤い。でもくちはわかっていた。

しばらくの間、無言の時が流れた。10分か5分か、あるいは1分か。もしかしたら1分すら経っていないのかもしれない。

そんな空気に耐えられなくなったのか、マリアが口を開いた。

「真希さん。騙してしまって、本当にごめんなさい。探偵、という職業を理由に、あなたを傷つけてしまった。これは探偵として、許されないことだわ。私のことは許さなくてもいい、どれだけ責め立てて、怒ってくれてもかまわない。でも……家族の心は、無視しないで」

真希さんは目を見開いて、マリアの顔をじっと見つめていた。

怒り、動揺、悲しみ、疑問__それらの感情が複雑に入り混じっているように思える。

床の一点を見る癖は、どうやら雅人さんと一緒らしい。

そして、むくりと誰かが立ち上がった。

キリっとした凛々しい瞳に、黒髪ロングヘアーの女性である。

「……私は、どこかで恐れていたのかもしれない。啓が生まれたのと同時に、この子を立派な子に育ててあげたいって思った。苦労をさせないように、この世の恐ろしさを知らない子にって」

か細い声で話しながら、真希さんは大きい窓のそばにある椅子に、ゆっくりと腰かけた。

「社会はつらいから、今のうちにその辛さを教えてあげようと思った。何度も何度もこの子のためだって。自分に言い聞かせた。でも……いつのまにか、私は焦りに飲み込まれていたみたいね。大事にしていた啓の気持ちを、無視してしまうだなんて。ふふっ、母親失格ね。私は」

「そんなことありません!」

「……花音?」

「今の会話でもわかります。最初は、子供の気持ちを全く考えない、ひどい両親だと思っていました。でも、元をたどってしまえば、それらは全て子を思っての行動なんです。なんどもなんども”あなたのため”っていうのも、もちろん呪縛という存在になります。ですが、それが焦りから出る本心だっていうのも、また事実。大事なのは、過去を……過ちを二度と起こさないよう、未来を変えること。だたそれだけなんです」

花音は、そういう人だった。

他人の気持ちや思考を自分の術でコントロールするマリアとは対照的に、世間的な綺麗ごとで無意識に思考をコントロールしてしまう。その無意識が、誰かを救っているとは知らずに。

「それじゃあ、あとは家庭の問題ね。私たちはこれで帰るわ」

「あっ!待ってください!」

玄関に向かう二人を、啓くんが慌てて追いかけ、お辞儀をした。

「あの、今回は本当にありがとうございました。お二人がいなかったら、僕は勇気を踏み出せずにいたと思います」

「そんなことないわ。最後のは、啓君。あなたの勇気による結果よ」

「それで……依頼料は?」

「あれ?忘れちゃったかしら?依頼料はアイス代でいいって言ったじゃない」

そういえば、啓くんが二人に依頼したとき、そのようなことを口にしていた気がする。

でも啓は、それを冗談だと受け取っていた。アイス代など、500円にもならない。

とりあえず手元にあった500円を花音に渡し、また深々とお辞儀をする。

「今回は初めての依頼だったからサービスよ。もちろん、次回からはちゃーんと対価はいただくわ。もし、また何かあったら、ここに来なさい」

マリアが差し出したのは、事務所の名刺。しかし、啓はとあることが気になった。

「事務所名がありませんけど……」

「あっ、そういえば忘れてましたね。どうしましょうか。名前がない探偵事務所なんて、何も特徴がない人間と同じですよ」

ちょっと言いすぎなような気がするが、いつものことなので気にしない。

しばらく考え、何かひらめいたかのような顔をしたのは、まさかの啓だった。

「じゃあ、こんなのはどうですか?」


12.また新たな一日へ

「ふわぁ……依頼、来ませんね」

「いいことよ。困っている子供たちがいないってことなんだから」

あれから数日が立った。依頼が来るわけでもなく、片付けも終わってしまったので、のんびりするほかなかった。

花音はソファでのんびり外を眺めていた。一方、マリアはテーブルで何かを描いている。

「何作ってるの?それ」

「看板よ、事務所なんだからこれくらい必要でしょ?たった今できたところよ」

重たそうな、木でできた看板を持ち上げる。花音も暇なので、彼女の手伝いをすることにした。


ガタン、という音と共に、建物の壁にくっつけられた。

事務所の雰囲気と色に意外とあっており、無いよりましな程度になった。

「さてと、それじゃあ宣伝でもしましょうかね。暇ですし」

「いいわね。この間、啓くんにもらったお菓子と紅茶でもつまみながらやりましょうか」

そういって、二人はまた事務所の中に入っていった。

風がなびき、看板がゴトゴトと音を立てる。そこには黄色の文字で、こう書かれたいた。

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