「それは全部他人の価値観だろ? ……朱里は自分の胸をどう思ってる? こんなにスベスベして綺麗なのに、気を遣ってないなんて言わせないぞ」
「……保湿とか、……してるけど……」
ボソッと呟くと、彼はクシャリと髪を撫でてきた。
「なら大切にしてるだろ。自分の体の一部なんだから、他人に何か言われたぐらいで動じるなよ。無責任な言葉でお前の価値を下げるな」
「…………っ」
ポロッと新しい涙が零れる。
――今まで、こんなふうに言ってくれた人なんて、誰一人としていなかった。
男の人は皆欲混じりの目で私を見て、昭人だって恋人の胸が大きい事を周囲に自慢していた。
昭人はいつも私を褒める時、顔と胸の事を言っていた。
当時は『それで喜んでくれるなら』と思ったけど、『もしも私が違う顔で胸が小さくても、付き合ってくれたのかな?』と疑問を抱いた。
そう思ってから、昭人にとっての私の価値は、中身なのか見た目なのか分からなくなっていった。
「……尊さんは……、私の胸、好き?」
小さな声で尋ねると、彼は私の頬にキスをした。
「好きだよ。でもお前の胸だから好きだ。仮にサイズが違っても好きなのは変わらない」
改めて言葉にされて、ずっと抱えてきたわだかまりがスッと解けていった。
「朱里は可愛いよ。不器用で、恋愛に慣れてなくて、体当たりするような恋しかできない。なのに強がって、傷付かないように必死に頑張ってる。……俺はお前のそういうところが好きだ。顔や体も好きだけど、歳を取ったら変化していく。若くていい体だから惚れたなら、十年、二十年経ったら捨てられる? んなアホな」
尊さんは、フハッと笑い、私の髪をクシャクシャ掻き混ぜる。
「お前が俺をまだ信頼しきれていないのは分かる。でも信じてくれ。俺はお前を裏切らない。酔っぱらって正体不明になったのを介抱したし、抱いて体の隅々まで見たよ。『頭スッカラカン』とも言われたし、『パパ活』とも言われた」
暴言を指摘され、私は思わず「ふふっ」と笑う。
「……でも一度でも俺がお前を怒ったか? 呆れた? 見下した?」
私は吸い寄せられるように、彼の色素の薄い目を見る。
その目には、慈愛しかなかった。
「……いいえ」
私は小さく首を横に振る。
そうだ。この人は口も性格も悪いけど、一度たりとも私を害していない。
昭人たちに鉢合わせた時は、大人げなく怒って立ち向かってくれた。
エッチの時も欲のままに振る舞えただろうに、大切に抱き、向き合ってくれている。
「少しずつでいい。俺を信じてくれ。今までつらい想いをして、自己肯定感が低くなったのは分かる。愛される事が分からないのも理解する。俺も同じだ」
〝同じ〟と言われて、涙がこみ上げた。
「俺も、お前ならきちんと愛せると思った。お前だけは違うって信じてる」
尊さんも人をちゃんと愛した事がなく、不安なんだ。
それでも彼は、一歩踏み出して私を愛すると決意した。
――なら、応えないと。
私はグッと唇を引き結び、手で涙を拭う。
「はい……っ」
――愛されたい。
本当はそう思っている事を、誰よりも私自身が分かっているはずだ。
昭人を愛そうとして、失敗して、もう傷付きたくないと思い、尊さんに期待して、けれど恐くて――。
それでも、この人を信じて最後の恋をして、幸せになりたい!
「うぅー……」
涙を拭ったはずなのに、次から次へと新しい涙が零れてくる。
「泣くなよ」
尊さんは困ったように笑い、私の頭を撫でてチュッと額にキスをしてきた。
「……大嫌いだったのに……っ」
「人の心なんて、変わるもんだろ」
私は尊さんに抱きつき、うぐうぐと泣く。
「こんな最低な男を好きになるなんて……っ」
「おいおい、俺のどこが最低だよ。お前だっていい男だって言っただろ」
尊さんは可笑しそうに笑い、私の横に寝そべると、胸元にキスをしてきた。
「~~~~だって、酔っぱらってる時に抱いたし、会議室でキスしてきたし……っ、馬鹿じゃないの?」
「…………そうでもないと、お前、ガード堅すぎだろ」
「へ?」
彼の言う事の意味が分からず、私は目を瞬かせる。
すると尊さんは眉を上げて笑ってから、私の顎をとらえて自分を見させる。
「前から言ってただろ。ずっと『いいな』って思ってたって」
「……え? …………え?」
目を丸くして戸惑っていると、彼は苦笑いする。
コメント
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朱里ちゃんは知らないと思うけれど、尊さんは貴女をずっと見守り愛し続けてきた....♥️✨ このチャンスを見逃したくないから、敢えて強引なアプローチをしたのだと思うよ🖤
尊さんは全てを愛したいし、朱里ちゃんに愛されたい。唯一出来る相手だと確信してし、ずっと願ってた事だもんね!