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君が気づかせてくれたから

2 - 第2話ーひゅうがの優しさー

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2024年11月17日

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やまとの報告を聞いて、ゆうたの胸はまるで締め付けられるように苦しくなった。



彼の幸せそうな顔が、ゆうたの心に深く突き刺さり、ただじっとしていることが辛くなった。



周りのメンバーはやまとを祝福し、和やかな空気が漂っている中、ゆうたはその場にいることが耐えられなかった。


しばらく、何も言えずに座っていたゆうたは、深呼吸を一つしてから、無理に声を絞り出した。



「ごめん、みんな…」



その声に、周りの視線が一斉に集まる。



みんなが驚いたように顔を向ける中、ゆうたは少しだけ顔を背けて、視線を避けるようにした。


「実は、今日は体調が悪くて…ちょっと早退するね。」





ゆうたの言葉は、みんなの期待していた返事とは違っていた。普段、こんなことで休むことなんて滅多にない彼が、突然そんなことを言い出したからだ。


メンバーは少しだけ驚いた表情を浮かべた。



「大丈夫か、ゆうた?無理しなくてもいいんだぞ。」



「うん、大丈夫。ありがとう。」




ゆうたは無理に微笑んでみせたが、その笑顔はぎこちなく、心の中でやまとの顔を避けるように、必死に平静を保とうとしている自分がいた。





やまとは少し困惑した様子でゆうたを見つめた。



「え?体調悪いの?大丈夫?」その声は心配そうで、まるで自分が何かできることはないかとでも考えているようだった。





その瞬間、ゆうたの心臓はまた激しく鼓動し始めた。やまとが自分を気にかけてくれることに、嬉しさと同時に胸の奥が痛んでいた。



だけど、もう耐えられない。もう、これ以上彼の顔を見ているのは辛い。





「うん、なんとか帰って休めば大丈夫だと思うから。」




ゆうたはその場を立ち上がり、無理に軽く手を振った。





「じゃあ、みんな、また明日。」







みんなは心配そうに見送ってくれるが、ゆうたはそのまま足早に事務所を出ていった。





彼の背中を見送るメンバーたちの声も、遠くからぼんやりと聞こえてきただけで、ゆうたはそのまま一刻も早く事務所から離れることだけを考えていた。






外に出ると、冷たい空気が顔を打ち、心の中で沸き上がる感情を少しだけ落ち着かせるような気がした。





深呼吸をしながら歩き続ける中で、ゆうたは頭の中で何度も自問自答を繰り返していた。



どうしてこんなにもやまとの幸せを受け入れられないのか。彼に対して自分の気持ちを言わなかったことを、こんなに後悔しているのか。


「…なんで、こんなに辛いんだろう。」






何もかもが自分の中で交錯して、気持ちが溢れそうだった。でも、やまとに対しての想いを伝えることができなかった自分を責めながらも、同時に、やまとが幸せであることを心から祝ってあげたいとも思っている自分がいた。





それでも、今はただ、どこか遠くに行きたかった。やまとと離れた場所で、少しだけでも心を落ち着けたかった。











✄——————-‐✄










ゆうたが事務所を飛び出すと、すぐに後ろからひゅうがの声が追いかけてきた。




「おい、ゆうた、待てよ。」




振り向くと、ひゅうががすぐ後ろをついてきていた。


「え?」



ゆうたは驚いた表情で立ち止まった。



ひゅうがは微笑みながら、手を振って言った。




「お前、体調悪いんだろ?送っていくよ。」



「いや、別に大丈夫だから。」



ゆうたは軽く手を振ってみせたが、ひゅうがは決して引こうとはしなかった。



「いや、送ってくよ。こんな夜に一人で帰るのは無理だって。」


ひゅうがの言葉には妙に安心感があった。



たしかに、嘘をついて帰ろうとする自分を見破られても、なんとなくひゅうがなら許してくれる気がした。





どうしてかはわからなかったが、今のゆうたにとってはその優しさがありがたかった。


結局、ゆうたは渋々うなずいて、ひゅうがの車に乗り込んだ。








車が走り出すと、ゆうたは窓の外をぼんやりと見つめながら、心の中でやまとのことを思い返していた。




どんなに自分が焦っても、もう戻れない場所に来てしまった気がして、気持ちがどんどん重くなっていく。


車が街を抜けると、ひゅうがが突然、ゆうたに向かって言った。





「…やまとのこと、だろ?」




その一言に、ゆうたはギクリとし、思わず視線をひゅうがから外した。




「うーん、なんとなくさ。」




ひゅうがは片手でハンドルを握りながら、あくまで冷静に話す。




「お前、あんな顔してるしな。やまとのこと、好きだろ。」





「…バレてんだなー。」





ゆうたは夜の空を見上げながら、少し寂しげに呟いた。





ひゅうがはゆっくりと息を吐き、少しだけ真剣な顔をしてから答えた。




「バレてないと思ってたか?けど、お前あんなにツンツンしてるのに、やまとがちょっとでも優しくすると、目の色変わるからな。」





「別に、そんな…」





ゆうたはうつむきながら答えるが、その目はもうひゅうがの目線を避けるように、真っ暗な夜空を見上げるばかりだった。


「でもさ、そんなお前を見てると、なんかお前が素直になれない理由、わかる気がする。」




ひゅうがは少しだけ温かい声で言った。





「でも、今はあんまり無理しなくていいんじゃないか?なんだかんだで、やまとのこと、大事に思ってるんだろ?」





ゆうたはその言葉に胸が締め付けられそうになった。やまとを大事に思っている。



でもそれが、どうしてこんなにも苦しいんだろう。




心の中で抱えた想いが重く、どこにぶつければいいのか分からなかった。


その時、ふと指先が冷たくなったのを感じた。冬の寒さが、無意識のうちに体に忍び寄ってきていた。



ゆうたは指先をこすり合わせてみたが、冷たさはなかなか取れなかった。しばらく車内は静かで、ただひゅうがが時折視線をゆうたに向けていた。


「寒いな。」



ひゅうががぽつりと言うと、ゆうたは薄く笑って答える。



「うん、寒い…。」



「それにしても、お前、本当にバレバレだな。」



ひゅうがは笑いながら言ったが、その笑顔にはどこか優しさがにじんでいた。


「バレバレって言うなよ…。」




ゆうたはちょっとだけ照れくさそうに言ったが、心の中ではやまとのことが頭から離れなかった。


ひゅうがの言葉が、少しずつ心の中に染み込んでいくように感じた。素直になれない自分、気持ちを伝えられない自分に、少しずつ疑問が湧いてくる。


やまとのことをどうしても諦められない。だけど、彼が幸せであることに、どこかで自分が辛いと感じている。そんな自分が、どうしてこんなにも苦しいのか、ゆうたにはまだわからなかった。












…… ᴛᴏ ʙᴇ ᴄᴏɴᴛɪɴᴜᴇᴅ

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