車の窓から外をぼんやりと眺めていたゆうたは、ふと風景が見慣れないものに変わっていることに気づいた。
いつの間にか、繁華街を抜けて、静かな住宅街や暗い道を走っている。
周りには人も車も少なく、ただ暗い空と冷たい風だけが広がっている。
「…あれ?」
ゆうたは驚いて、無意識にひゅうがの方を見た。
ひゅうがはとても自然にハンドルを握って、軽く笑いながら言った。
「別に体調悪くないんだろ?ちょっとドライブしよーぜ。」
その言葉に、ゆうたは一瞬呆然とした。
「え…?」
ゆうたはうまく言葉が出なかった。ただ、心の中で何かがぐるぐると回り続けていた。ひゅうがの明るい表情が、どこか安堵をもたらすようでもあり、また同時に、心の中の混乱を深めるようでもあった。
ひゅうがは笑顔のまま、ゆうたの反応を気にせずに言葉を続けた。
「お前、やまとがどうとか気にしてるんだろ?でもさ、今はお前のことを少しでも楽にしてあげたいんだよ。」
その言葉に、ゆうたの心が少しだけ温かくなるのを感じた。やまとのことを気にしている自分に、ひゅうがは何も言わずにただ理解してくれているような、そんな優しさを感じることができた。
しかし、その優しさが逆にゆうたをさらに混乱させた。ひゅうがは、自分がやまとを好きだということを、すでに見抜いていたのだろう。
それを知った上で、こうして自分に寄り添ってくれているのだと思うと、少し心が痛んだ。
その時、ひゅうがが突然、ゆうたの冷たくなった手にそっと触れてきた。
「手、冷たくなってるじゃん。」
その一言とともに、ひゅうがの温かい手がゆうたの手に軽く重なった。最初はその温もりに驚いたが、次第に冷えた指先がひゅうがの手のひらの温もりに包まれる感覚が心地よく、思わず力が抜けた。
「…ありがとう。」
ゆうたは小さく呟くと、視線を外に向けた。冷たい風が頬をかすめ、心の中の混乱を少しでも沈めるように、ただそのまま黙って車の中で過ごした。
ひゅうがはゆうたの手を離さず、やや真剣な眼差しでゆうたを見て言った。
「無理しなくていいんだよ、ゆうた。お前、少し頑張りすぎだろ。」
その言葉に、ゆうたは少しだけ顔を上げた。ひゅうがの目には、優しさだけでなく、少しの心配がにじんでいるように見えた。
「頑張りすぎてるって…」
ゆうたは苦笑いしながら、何も言えなくなった。
確かに、ずっと自分の気持ちを隠し続けていた。やまとに対して素直になれず、無理に冷たく振る舞っていた自分。
それがどれだけ心を疲れさせていたのか、ひゅうがが気づいてくれていることに、少しだけ気づかされた。
「お前は、お前のペースでいいんだ。誰かに合わせる必要なんてない。」
ひゅうがのその言葉に、ゆうたはただ静かに頷いた。ひゅうががどうしてそんなに自分に優しくしてくれるのか、その理由はわからなかった。
ただ、今はその優しさが、心の中で少しだけ重荷を軽くしてくれるように感じた。
車はゆっくりと静かな道を走り続け、夜の街並みがぼんやりと後ろに流れていった。ゆうたはその中で、少しずつ心が落ち着いていくのを感じながら、冷えた手をひゅうがの温もりに預け続けた。
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車はしばらく静かな道を走り続け、やがてひゅうががコンビニに車を停めた。
ゆうたはそのまま黙って座っていたが、ひゅうががエンジンを切り、車を降りるのを見て、少しだけその動きに気を取られた。
ひゅうがは、ゆうたが気づかないうちにサッとドアを開けて、軽く振り返りながら言った。
「ちょっと待ってろよ。すぐ戻るから。」
その言葉に、ゆうたは少し驚いたものの、ただ「うん」と小さく頷いた。
ひゅうががコンビニに向かって歩いていくのを見送りながら、ゆうたは窓から外の夜空を眺めた。
空気は冷たいが、風の音も静かで、少しだけ落ち着くことができた。やまとのことを考えれば考えるほど、心が乱れていたけれど、今はただひゅうがの優しさが心にじわりと染み込んでくるのを感じていた。
数分後、ひゅうがは戻ってきて、車のドアを開けた。手に持っていたのは、温かい飲み物と、自分のタバコだった。
「ほら、お前のだ。」
ひゅうがはゆうたの方に温かい飲み物を差し出した。ゆうたはその温もりに一瞬驚き、すぐに受け取る。カップの中から蒸気が立ち上り、香りがほっと胸を温かくした。
「ありがとう。」
ゆうたは少しだけ笑顔を見せた。
心の中で、ひゅうがが気を使ってくれたことに感謝していた。ひゅうがは軽く頷き、タバコを一つ取り出して火をつけながら、優しげに言った。
「どういたしまして。」
その声には、どこか穏やかな温かさがあった。ゆうたはその声を耳にした瞬間、また少しだけ気持ちが軽くなったような気がした。
ひゅうがは一度、煙をふっと吐き出しながら、目の前のゆうたを見つめた。
少し長い時間、無言でそのまま車は走り出す。ゆうたはカップを両手で抱えたまま、車の窓からゆっくりと景色が流れていくのを見つめていた。ひゅうがの温かさ、そしてその穏やかな目が、ゆうたの心に静かに沁み込んでいく。
「…ありがとう、ひゅうが。」
ゆうたは、少しだけ意識してその名前を口にした。ひゅうがはまた優しく微笑みながら、「何も気にすることないよ。」と、穏やかな声で答えてくれた。
そのまま車は夜の街を走り続け、ゆうたの心は少しずつ、でも確実に、ひゅうがの思いやりに包まれていくのを感じていた。
…… ᴛᴏ ʙᴇ ᴄᴏɴᴛɪɴᴜᴇᴅ
コメント
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2話見てコメントしたら3話すぐ出てびっくりした笑笑 ひゅうが優しすぎるよ🥺 ゆうたひゅうがのおかげて落ち着けて良かったね!!