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第2話:死者の投稿
午前4時。
静まり返った部屋の中で、スマホの通知音だけが響いた。
——ピコン。
眠れないまま、陸は画面を開く。
メッセージアプリのアイコンの横に、「1」。
送信者:結衣。
さっき見た幻じゃなかった。
メッセージは、確かに存在している。
既読をつけずにスクショを撮ろうとした瞬間、
テキストが自動的に消えた。
そして代わりに、新しいメッセージ。
「今、ニュースを見て」
陸は慌ててテレビをつける。
どのチャンネルも同じニュースを流していた。
『都庁南棟火災、監視映像が外部流出』。
映像が再生される。
黒焦げの廊下、崩れた天井。
その奥に、動く“人影”。
顔は見えない。
だが、その右手に光るブレスレットを見た瞬間、陸の背筋が凍る。
それは、結衣が最後までつけていたものだった。
SNSでは、異常な現象が同時に起きていた。
“ZERO”のアカウントが、
まるで誰かに乗っ取られたように、
次々と投稿を始めたのだ。
【ZERO】
「彼女はまだ、燃えていない。」
「清陽高校、午前8時12分。もう一度、光が落ちる。」
「見たいか? 彼女がどうやって死んだか。」
その最後の投稿に、1枚の動画が添付されていた。
再生ボタンを押した瞬間、
画面が暗転する。
ノイズの向こうに、制服姿の少女が映る。
——結衣だ。
血の気のない顔で、まっすぐカメラを見つめている。
口が、何かを言っている。
だが音は入っていない。
唇の動きだけを追うと、こう読めた。
“兄を、止めて。”
午前7時40分。
登校途中の陸のスマホに、通知が次々と届く。
クラスのグループチャット、Twitter、ニュース速報。
全員が同じ言葉を見ていた。
「#清陽高校爆破予告」
警察が動き、学校は封鎖。
ニュースヘリが上空を飛ぶ。
校舎の前には、制服姿の生徒たちが立ち尽くしていた。
陸もその中にいた。
すると、クラスメイトの一人が声を上げた。
「なあ、あの投稿……変じゃね?」
画面を見る。
ZEROの新しい投稿。
「7:52 この投稿を見ている君へ。」
「爆弾は存在しない。」
「——ただし、記憶は爆発する。」
その投稿の一分後、陸の頭の奥で、
爆発音が鳴った。
視界が白くはじける。
そして、耳の奥で誰かの声。
「おはよう、陸。今日も、ゼロから始めよう。」
意識が途切れた。