江戸時代の静寂を切り裂く雨の夜、隅田川のほとりに一人の男が立っていた。黒い羽織に身を包み、風をはらんで静かに佇むその姿は、夜の闇と一体化している。男の名は橘、江戸随一の射手として知られる男だ。彼の手には、異国からもたらされた最新式の拳銃が握られている。
向かいには京都からの刺客・雅也が、冷たい視線を向けていた。雅也は鞘からわずかに刀を抜き、先端が月明かりに反射して光っている。豪快でありながらも繊細なその刀さばきは、数多くの敵を切り伏せてきた証でもあった。
「お前が江戸の橘か?噂通りの生意気な面構えやな。」
雅也の口元が皮肉めいた笑みを浮かべる。京都弁の響きが、どこか悠然とした冷たさを漂わせていた。
橘は口角をわずかに上げるが、その表情は鋭いままだ。
「京からわざわざご苦労なこった。だが、この江戸でお前の刀が通用するとは限らないぜ。」
雅也は刀を抜き、夜の静寂を切り裂くように構える。
「江戸の奴らは口ばっかり達者やな。今日が終わるまで、しっかり楽しませてもらうで。」
橘は雅也の挑発に応じるかのように拳銃を構え、わずかな隙を見て引き金を引く。夜の闇に閃光が走り、銃声が川面に響き渡る。しかし、雅也は一瞬の間合いで弾を避け、その鋭い目が橘を見据える。
「拳銃なんて派手なもん使いよって、それでわしに勝てるつもりなんか?」
雅也の声には、確固たる自信があった。
橘は冷静に距離を取りつつ、弾を込め直す。
「刀で守れる範囲なんてたかが知れてるだろう?江戸の拳銃は、京の刀よりも速い。」
「速さだけでは人の命は取れへん。人の心を斬るんが、ほんまの武士や。」
雅也の刀が一閃し、橘の間合いを詰める。二人の意地と誇りが交錯し、静かだった川のほとりは今や激しい闘気に包まれていた。
橘は雅也の速さに驚きを隠せなかった。京都の刺客の動きはまるで風のようにしなやかでありながら、刀の一撃一撃が重く鋭い。橘は拳銃を構え直すが、雅也の皮肉交じりの挑発が彼の冷静さを揺るがす。
「そろそろ覚悟を決めなあかんな、江戸の射手さん。お前が東京の誇りやいうても、ここで終わるかも知れへんで?」
「なら、見せてやるさ。江戸の男がどれほどしぶといかをな。」
橘は雅也に向かって再び銃口を向けた。その目には、覚悟と誇りが宿っている。そして雅也もまた、己の刀を握りしめ、攻撃の構えを崩さない。
川面に映る二人の影が揺らめき、互いに見つめ合い、どちらも一歩も譲らない。隅田川の流れが、彼らの激しい闘志を見守るかのように静かに流れていた。江戸の誇りと京都の意地がぶつかり合うこの戦いは、まさに「今日が終わるまで」続いていく運命にあった。
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