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隅田川の対決から2日後、橘はまた新たな戦いへと挑むために深い森の奥へと足を進めていた。京の刺客・雅也との死闘で体に刻まれた傷はまだ癒えていないが、彼の目には一層の闘志が宿っている。江戸の誇りを背負った彼にとって、ここで立ち止まるわけにはいかなかった。
「天上天下唯我独尊…」
橘は心の中でそう呟き、自らの拳銃を見つめた。生まれた時からこの江戸で鍛えられ、独自の道を歩んできた彼は、まさにこの言葉を体現する存在だと信じていた。京都の者たちがどれほどの実力を持とうとも、自分は江戸のために戦う――それが橘にとって唯一無二の使命であり、誇りだった。
その瞬間、森の奥から再び雅也の姿が現れる。彼はあの夜とは異なる静かな表情で、橘を見つめていた。
「天上天下唯我独尊…江戸の奴さんがそんな言葉を口にするんは、ちょっと笑えるなぁ。」
雅也がゆっくりと刀を抜き、光の中で煌めかせた。その顔には軽蔑ではなく、むしろ対等な者への敬意が滲んでいた。
「笑いたければ笑えよ。江戸は江戸、京は京。それぞれの誇りを守るために、俺たちはこうして命を懸ける。それだけさ。」
橘は静かに拳銃を構えた。相手が雅也であろうと、自分の信じる道を貫くのみ。彼の孤高の魂は、まさに「唯我独尊」の言葉そのものであり、どこまでも自分自身を信じる強さがあった。
雅也はその言葉に頷き、再び距離を詰めた。
「お前の強さは認めるで、橘。でも、ほんまに独りで築いたんか?京都では仲間と共に生きて、共に戦うことを大事にしとるんや。」
橘は一瞬、戸惑いを見せた。しかし、すぐに冷静な表情を取り戻す。
「仲間と生きることも、強さだろうさ。でも、この江戸の地で、俺が信じられるのはこの拳銃だけだ。」
雅也は微笑んで目を細め、構えを改めた。
「ほな、その拳銃とわしの刀、どっちが強いか、もう一度試させてもらおか。」
二人は再びにらみ合い、互いの武器を手に間合いを詰めていった。その一歩一歩に宿る決意と覚悟は、どちらも一切の迷いを感じさせない。江戸と京都の誇りをかけたこの戦いは、単なる勝敗ではなく、彼らの生き方そのものの証明でもあった。
雨が止み、薄明の中で二人は静かに向かい合う。「天上天下唯我独尊」の言葉を心に刻みながら、それぞれがそれぞれの生き方を賭けた戦いが、まさにこの場で繰り広げられようとしていた。