横浜の、とあるビル。
囚人が入るような檻に入れられている。
其処に1人、椅子に座っている。
空調も快適、食事もちゃんと出ている。
まぁ真面に食べてないけど…。
ふと4歳までの記憶を遡る。
幸せだったな、と少し他人事のように呟く。
そんな考え事をしている時、檻の扉がギィィ、と不快な音を立てながら開く。
「太宰、マジでこいつで合ってんのか?」
「そうみたいだよ?」
オレンジ色の髪で、青い瞳をしている人。
焦げ茶の右目を包帯で隠している人。右目だけでなく、両腕に手首まで包帯をしている。
外に居る警備の人達は殺されていた。
「……」
今更人が来たって意味は無い。
俺は、アイドル「B小町」アイの子供。
4歳の時アイが死んでから、孤児院で育った。
何故なら、苺プロの社長婦人…斎藤ミヤコさんに育てられるのを拒否したから。
「貴方の意見を尊重するわ」と言って、しょうがなく孤児院に入れてくれた。
其れから1ヶ月、その孤児院は壊れていた。
否、俺が壊したんだ。
周りから虐められて、職員の人は見て見ぬ振り。
2、3歳頃、アイが眠っている間、ふと目覚めた時。
ファンタジーの様な『異能力』を見た。
異能力、「メフィスト」。
人間の願いを叶える事が出来、其の代わり叶えた人間に無制限に願いを叶えさせられる。
其れはその人間が死んだ後でさえも、魂を操り、従える事が出来る。
簡単に言うと、そんな能力。
「ファウスト伝説」、『メフィストフェレス』。
其の悪魔になった気分だった。
「、お兄さん達は、俺と『契約』を結びに来たの?」
「あ?契約?」
「……そう、何も知らないんだね。」
―――じゃあいいよ。
そう呟いて、今まで取ってきた何百、否、何千もの魂に命じる。
『この者達を追い出せ』、と。
そうしようとした所で、長身の包帯男に触れられた。
そうされた所で、魂が一気に戻ってくるような感じがした。
……確信した。
「…貴方達は『契約』をしに来たから、僕の所に来た。そうじゃないの?『“元”羊の王』と『ポートマフィア最年少幹部』さん。」
「君を拾いに来た。囚われの悪魔をね。」
「……拾いに?そんなことに何のメリットがあるって言うの?僕なんか暴走しちゃえばマフィアの一つや二つ簡単に壊せる。…それが嫌だからここに居るのに。」
「僕が居る限り、そんな事は出来ないよ。『メフィストフェレス』。」
こんな最悪な出会い、俺はもう二度としたくない。
「今日から、君はポートマフィアの物だよ。変な行動は起こさないように。」
「はい。」
ポートマフィア本部。首領の部屋。
長身の包帯男____もとい、太宰治は俺にそう言い聞かせる。
すぐそこに居る人は「エリスちゃ〜ん」と幼女にドレスを着る様強請っている。
「あの人が首領。森鴎外さん。」
「…首領、」
「じゃあ、僕は仕事あるから。行ってくるね。」
「はい。」
…首領がロリコン……大丈夫なのかポートマフィア、
そういえば、俺って結構女っぽい顔立ちと体型してるよな…細いし、栄養まともに摂ってないから発達してないだけだろうけど。
そこで名前__ではないが呼ばれてはっと意識を戻す。
「…君、名前はなんて言うの?」
無邪気な金髪の少女に問われる。
「…、星野愛久愛海、」
「あはは!変ななまえ!」
「……」
まぁ、俗に言うキラキラネームなので言われるのは分かってた。
だが、元推しに貰った世界一大切なものを貶されるのは、気分が悪い。
「エリスちゃん、人の名前を悪く言うのは良くないよ」
「大丈夫です。慣れましたし。そう言われる気はしてました。」
「…でも、子供らしくむくれているよ?」
言わないで欲しかった。
38くらいのおっさんがむくれてても全然可愛くないのに。
だから認めたくなかったんだろうけど。
「却説、昼食の時間だ。エリスちゃん、星野君、行こうか」
「はーい」
「…はい」
もうそんな時間か、と惘考え乍ら、首領__森鴎外さんの後を着いて行く。
「…あの、」
「ん?どうしたんだい?」
食後。首領室にて。
何故かドレスを着るよう薦められている。
「……俺、男なんですけど…」
「大丈夫大丈夫!似合うよ!」
「…1回だけですよ、」
「ありがとう!」
……どうしてこうなったし
「……着替えました、」
「可愛いよ星野君!似合ってるよ!」
「かわいいー!」
……何だこの人達…
青色と白色がメインになっている長袖長い丈の毛スカート…
あー、死にたい。もう嫌…
「…もう着替えていいですか、」
「ダメ」
「そうですか……」
(諦)。
〜〜〜
「はぁあ……疲れた…」
何故か其れから1時間ほど俺を撮る撮影会が続けられていた。
今は俺の希望で黒いパーカー、長ズボン、黒いものを着させて貰っている。何故かサイズはピッタリ。
この場所は俺の部屋。用意して貰った。
ふかふかのベッドに抱き枕、上等な椅子、机、棚、クローゼット…全てが高そうなものだった。
値段平均多分100万くらい。怖い。
「……」
ゆっくり過ごしていると、扉が開いた。
「おい。」
オレンジ色の青い瞳をした人____中原中也さん。
「どうしました?中也さん」
「お前に仕事が来た。」
「……俺に?」
〜
その仕事には中也さんも同行するらしい。
あるグループの殲滅…らしい。
俺の異能力の強さを買ってのことらしい。
そして今、現場に居る。
相手は大体100人。全員銃持ちだ。
「……」
最初がこれとか、ハードル高過ぎだろ……
異能力「メフィスト」
魂等に命じる。
『中原中也を除いた目の前の全員を殲滅せよ』
その瞬間、俺と中也さんを除いた全員が倒れた。
血は流れていないが、死んでいるのだろう。
「終わりました」
「…は?」
隣に居る中也さんの表情を伺うと、驚きの色が見て取れた。
「……?」
「、お前、マジか…」
星野愛久愛海、10歳。
現場に着いて1分で、100人程度を殲滅完了。
……やば…
「…」
「…」
「……」
ポートマフィアの俺の部屋、太宰さんと2人。
凄く気まずい空気。今すぐ逃げたい。
「……あの…」
「、どうしたの?」
「どうして俺を拾ったんですか?」
「…それはね」
問い掛けてみると、太宰さんはすんなり答えてくれた。
曰く、『悪魔の子』が居る、という噂が流れていたそうだ。
噂の内容を簡単にまとめると、
横浜のビルの檻の中、囚われている悪魔が居る。
『ファウスト伝説』のメフィストフェレスの様に、願いを一つ叶える代わり、魂を取られる。
そんな異能力を持った子供が今まで取ってきた魂は約5000人程と言われている。
子供は冷酷な様で何処か全てを受け入れてくれる様に優しい、とも言われていた。
そんな子供に誰でも会いに行けて、誰かを傷付けるもの以外は全て叶えてくれる。
契約以外でその子供の場所に訪れた者は追い出される。
まぁ、こんな物か。
其の噂を聞いて、ポートマフィア直々に拾いに来てくれた、と言う訳らしい。
「……ん、?」
俺が『優しい』?
今迄優しくした事なんて無かった筈。
抑全員魂を抜き取っているのに如何して情報が漏れた?
契約目的では無い者に拠る噂?
だとしても情報なんて何も出ていない筈。
檻の前に居た警備に拠る情報漏洩?
其の可能性が高い。
……嗚呼、でも、もう戻らないのだから、何もする必要は無いのか。
…彼処から出ただけで、楽になったな。
出て、良かったのかもしれない。
「大体噂通りだったけど……でも、君は優しさの欠片も無い気がするけどね。」
「…俺も優しい何て言われた事が無いので、分かりません」
〜〜〜
夜も更けた、深夜1時。
ふかふかなベットに座って、窓から月を眺める。
満月では無くとも、近頃全く見ていなかった月は、迚も美しかった。
先程迄中也さんと太宰さんが言い合い喧嘩をしていたとは思えない位には、静かで…今迄に無い程、落ち着く夜だ。
前世でのあの田舎が感じられる虫達の合唱会も無く、その代わりに星が余り見えない。
こんな所に来たなんて、『あの子』が知ったら如何思うのだろう。
軽蔑するだろうか?…あの子の考えてる事は、あの子にしか分からない。
あの子は、ずっと『演じて』いた者だ。
自分の本心を隠して。
今日の夕暮れ、太宰さんに渡されたスマホで昔共演した『有馬かな』の名前をYouTubeで検索する。
矢張り1番上に出てくるのは『ピーマン体操』原曲、其の次は踊ってみたが上がっており、其の次には有馬かなを『オワコン』と笑っている動画が多数出てくる。
其処でYouTubeの画面を閉じた。
嗚呼、ルビーは如何してるのだろうか。
有馬かなは、今でも人気を博しているのだろうか。
何処か他人事の様に考え乍ら、部屋を出る。
そう言えば、最近自分の感情を疎かにして、全然自分と向き合っていなかった。
アイが死んでから、精神のケアが必要と精神科の医者が言っていたっけ。
孤児院であんな扱いを受けていたら当然カウンセリングもしてる筈が無い。
明日、首領に「カウンセリングを受けさせてくれ」とでも言ってみようか。
酷い事になっているのか、もし受けさせてくれるのなら結果が少し楽しみだ。
こんな事楽しみにしてる時点で、俺は少し可笑しいのだろうけどな。
そんな事を惘考えていると、人にぶつかってしまった。
「あ、すみません、」
「、あ、星野。お前まだ寝てなかったのか?」
中原中也さん。俺が同い年位だったら、「そっちこそ」と言い返したい物だが生憎6歳差で仲良くも無い。そんな口を聞ける筈も無く。
「余り眠れない物で…」
「餓鬼なんだからさっさと寝ろ。知らねぇとこ来て疲れてるだろ」
「…そうですね、もう部屋戻ります。」
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朝、7時57分。
きょうは、あいがしんだひ。
かひゅっ、と喉が鳴る。
咳が出る。喉が痛い。
気持ち悪い。吐き気がする。
目の前の景色が歪む。
6年前の今日を、忘れてはいけない。
アイを助けられなかった。
アイを見殺しにしてしまった。
アイは、ドームの舞台に立つに相応し過ぎる程の者だ。
此の世の、唯1点だけの光だった。
しんでしまった。
ドームこうえんのとうじつ。
おれのせいだ
一瞬が何時間にも感じる。
自分が何処か他人の様に見える。
『助けて欲しい』と願っている。
こんな世界から、逃げてしまいたい。
逃げ場なんて無い。
アイを、見殺しにしてしまったんだ。
ずっとずっと、未来永劫、俺の生きていい場所何てある筈が無いんだ______
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「_____!!」
「星_____!!」
誰かが俺の名前を呼んでる。
「星野くん!!!」
「っ、太宰、さん…と、中也さん、」
あい、じゃ、ない。
あいは、もういない。
しあわせになっていいのかな。
ここで、いていいのかな。
ここにいたい。
みんなといっしょがいい。
『___甘えるな』
「…ッ、ごめ、なさ、っ」
『幸せになっていい筈が無いだろう』
「俺は、俺は…ッ、」
『アイを、さりなちゃんの唯一の光を。』
「さりな、ちゃ、ん、」
『如何して救えなかった?如何してお前が生きている?』
「俺が、俺が死んでれば、ッ」
『そうだ。お前が代わりに死んでいれば良かったんだよ』
「全部、俺のせい…、?」
周りから何百、何千人分もの非難の声が聞こえる。
耳を塞いでも其れからは逃げられなくて、其れでも逃げたかった。
なのに逃げれなくて、気付けば皆に囲まれていて…
石なんて可愛い物じゃない。
針、矢、鋏、包丁等の刃物を刺されている様な気分だった。
何処にも行けなくて、真っ暗で。
視界に写る物は床に散らばった吐瀉物。
耳に聞こえ続けるのは皆が俺を責める声。
きっとこれは、来世もその先も、ずっと引き継いでいかなければいけない物だろう。
忘れてはいけない。『アイは俺が見殺しにした』事を。
『アイのファンを敵に回した』事を。
助けて何て言えなくて。
手を伸ばすのさえ許されなかった。
本当は、ミヤコさんの所に居たかった。
ルビーがアイドルの夢を叶える所を、見てみたかった。
全部、自分のせいなのに。
勝手に苦しんでいて、気持ち悪い。
こんなのが生きてて、すみません。
気分で続く((((
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多分続く。 多分。()