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最初にした試合から大体2週間がたった。
ここでやるバレーは特に好きじゃない。むしろ辛いことばかりだって思う。兄ちゃんに会いたい。前の学校でバレーしたい。
ここにいる人たちはみんな怖い。みんな声が大きいし背が高いし何より元気すぎる。僕はそういうノリみたいなのが本当に嫌だから正直近づかないで欲しいとまで思う。それに一定の距離感を置かれてるというか、こういう体育会系に僕向いてないんだよやっぱ。
でも今日から東京合宿があるみたいで、ネコ?と一緒にするらしい。あとどっかの高校とも一緒らしい。落ち着いた人が多いらしいけどそんなの言われてもどうせみんな烏野みたいな人たちなんだろうなとしか思えないよね。合宿する仲だし。
この合宿が終わったらバレーやめようかな。もうあの子もどうせバレー辞めてるんじゃないかな。
「にしても山道とか…本当無くなって欲しい」
山とか森とかそういうの全部伐採していいんじゃない?まっすぐな道にしたほうがいろんな人喜ぶよね?主に僕なんだけどさ。将来木がなくても酸素作れるような研究しようかな。それなら尚更バレーしてる意味ないよな。やめよう。
そうこうしてるうちに日向くんと合流してしまった。僕も日向くんも自転車だから進む速さとかは同じ。でも日向くんは僕と2人の時全く話さない。いつもの明るさはどこに行ったんだとほんとに思う。
多分嫌われてはないはずなんだ。だけど僕が話さないから向こうも話しかけて来ないんだと思う。なんて話せばいいか分からないから。そんなとこだろう。こっちも話すことは苦手だし助かるけど…こういうところあるから話しかけれないし話しかけられないんだろうな僕。あほじゃないの。
バスで宮城から東京だと結構な距離がある。最初は基本何もしていなかったみんなも時間がたつとトランプをしたり寝たり色々なことをするようになった。そんな中僕はさっき配られたスケジュールをもう一度見ていた。11時の予定に書かれていた言葉「梟谷学園到着。」梟谷。僕の母校だ。少し前まで普通に通っていたし、ここでするバレーはとても楽しかった。そこにまた行けると思うとすごく嬉しい。というか嬉しいどころじゃ無い。今はまだ10時。後1時間このドッキドキの心臓が持つか分からない。
それから僕がスマホを付けるまでさほど時間はかからなかった。移動中のスマホは禁止されていたが、隣はスガさん。田中さんと一緒に大富豪をしているから窓側のこっちのことを見る心配はない。スマホを付けてすぐLINEを開く。送り主はもちろん兄ちゃん。電話したいところだけどそれができないのが凄くもどかしい。兄ちゃんはこのことを知ってるのだろうか。だとしたら昨日電話した時に言ってくれればいいのに。とりあえずメッセージ送ってみよう。
兄ちゃん。
(ん?どうしたの?)
兄ちゃんも合宿って言ってたよね。
(そだね。)
梟谷だけのやつ?
(いや、別の学校も一緒。去年あっちゃんがチラッと参加したやつだよ。)
ふーん。また行こうかな。
(ほんと?みんなで待ってるよ。楽しみ。)
これは多分知らないやつだよね。僕たちがその合宿に参加しに行くのは秘密にしておこう。サプライズにしようかな。…迷惑かな。不安になってきた。
「なーにしてんの?」
スガくんが話しかけてくる。スマホを触ってるのを見られた。怒られるだろうか。既に見られてしまったがスマホを袖の中に隠す。この人は僕にバレーを教えてくれたあの子に似ている。というか本人だとは思う。違うかもしれないけど。でもだとしたらあまり話したくは無い。会えて嬉しいし今でも仲良くしていたいけど僕が関わるべきじゃ無い。だからこそ今まで僕から話しかけたり近づいたりすることは無かった。なのに話しかけられるとやっぱりびっくりする。
「…すみません。」
「べぇっつに怒ってないべや~!ところで誰と連絡してんのー?」
ぐいとスマホを取られる。きゃーえっちとでもいってやろうか。とも思ったが別にスガくんなので許す。でも兄ちゃんとの履歴は見られたく無いのでスマホはすぐに取り返す。
「えーなにー?彼女ちゃんだったりすんの?」
ニヤニヤしながら聞いてくる。この僕に彼女がいるとでも本気で思ってるんだろうかこの人は。
「別になんでも無いです…すみません。」
「…なーんか仲杜って俺に冷たいべ??」
うぐ、冷たかっただろうか。あまり関わらないようにしてるだけだったけれどツンとしてしまっていたかもしれない。嫌われただろうか。
「まず敬語やめてくれよ〜!日向みたいにナントカッス!って感じでいいからさー!」
「は、はぁ。」
嫌われては…ない?か。よかった。でも話しかけに行くかと言われるとNOだな。日向くんみたいなコミュ力おばけならまだしも今の僕はここに居れるほど明るくないし。
「お、もうすぐ着くっぽいべ!やっくんと会うの楽しみ〜!」
やっくんというのは夜久さんのことだろうか。去年兄ちゃんについて行って合宿に乱入した時に少し話した気がする。特に思い入れがある人ではないけれど。
「…僕もです。」
「ん?音駒とは会ったことないよな?」
「音駒…だからネコなんですね。知らなかった…」
「??」
人の名前はすこーしだけ覚えてはいるが学校名は初耳だ。夜久さんの名前が出てきたってことはやっぱり一緒の合宿なんだろう。今頃は兄ちゃんたちもう試合してるかな。ほんとうに、兄ちゃんと会うのが楽しみだ。
梟谷に着いた。さっきまで寝ていた月島くんがあくびを、近くの田中さんは鉄塔を東京タワーだといって騒いでいる。そこに赤色の人影がぞろぞろと近づいてきた。
「なんか人少なくねーか?って、お前ぇ!?」
黒尾さんがキャプテンに話しかけながらこちらのメンバーの顔をまじまじと見てくる。そして僕は指をさされ、驚いたような顔であわあわされる。
「…なんですか。ちょっと先に行っていいですか。黒尾さんに構うほど暇じゃないです。」
「いーやいやいやいや、お前烏野に居たのかよ!あいつからなんも聞いてないけど!!」
「多分烏野も参加するって知らないんじゃ無いですか。多分ですけど。」
「なんだよ仲杜!知り合いだったのか!?」
近くにあった鉄塔が東京タワーではないと知って落ち込んだ田中さんが肩を組ませながら話しかけてくる。なんでもいいから先に行かせてくれほんとうに。
「知り合いっちゃ知り合いです。とにかく先行きます僕。」
今は整列とか挨拶とか荷物とか正直どうでもいい。それよりも兄ちゃんだ。多分この先の体育館にいる。階段も駆け上って急いで走る。多分これ以上に走ったことは数回しかないんじゃないかと思うぐらい走る。
そうやって走った先に重い鉄製のドアが立ち塞がった。今まで何度か開けてきたドアだ。そのドアを久しぶりに触り、一気にあける。その先には…
アップをしているいくつかのチーム。サーブ練をするスパイカーたち。そして、スパイク練のためにボールをセットする兄ちゃんの姿があった。
「兄ちゃん!!」
大きい声で。でもなるべくうるさいとは思われない声で兄ちゃんを呼ぶ。ボールをあげていた手を止め、すぐにこちらを向く。そして驚いた顔で少しだけこちらに近づいてくる。
「え、あっちゃん!?なんでここn」
兄ちゃんは…けーじ兄ちゃんは僕のことをちゃん付けで呼ぶ。普通ならちょっと拗ねるところだけど今はそれどころじゃない。ずっと心細かった僕にとって3週間ぶりほどの兄ちゃんはほんとに太陽のように見える。そんな兄ちゃんに思わず駆け寄り、飛びついてしまう。
「おわっ、と。危ない…」
「ナイスキャッチだぜあかーし!!」
横で木兎先輩がぴょんこぴょんこしている。木兎先輩は兄ちゃんと仲がいいので僕ともたまに話してくれた。でも僕は兄ちゃんほど扱いに慣れてなかったからいまだにどういう返事をすればいいかとかは分かんない。
「久しぶりだなー明希!」
「なんでここにいんだ!?まさかまた乱入しにきたのか?笑」
梟谷の三年生たちからツッコミを少し受ける。僕がバレー部にいたのは一二ヶ月程度だったけれど実際のところは去年から兄ちゃんがいるからといって練習とかにちょくちょく顔出してたりしたから僕とは烏野の人たちよりも仲がいい…とは思ってる。
「乱入じゃないですー。ちゃんと合宿としてきましたよ。」
「ってことはお前烏野入ったの!?ちょっと赤葦言えよそうゆう事は!」
「いやいや木葉さんそう言うなら僕に合宿相手教えててくださいよ。外から学校が参加するとは聞いてましたけど烏野だって知りませんでしたよ」
「だって別に興味ないかなーって思ったしさー」
木葉さんは相変わらず兄ちゃんをいじるのが楽しそうだ。兄ちゃんは何気に嬉しそうで良かった。サプライズとか初めてで何気にドキドキしたしね
「コラー!!?仲杜!何先に行っ…て、え、なんでその人に抱きついてんの??」
げ、澤村さんだ。やっぱ1人で勝手に来たのはまずかったか。のそのそのそと兄ちゃんから降りようとする。…するんだけど兄ちゃんの手が抱き抱えた形のまま動かないんですけど。降りれないんですけど。
「えちょっと兄ちゃん下ろして今すぐあっち行かないと殺される気がする」
「なに?暴力でも受けてるの?お兄ちゃんに相談してごらん?」
「いやいやいやいや別にそんなのじゃないからとにかくあっち行かせて」
「はいはい笑」
こういう時兄ちゃんはふざけてるように見えるけど半分はマジだったりする。あの見た目と面倒見の良さからは分からないけれどだいぶ変人なんだよあの人。木兎先輩と変わらないぐらい。
兄ちゃんに話してもらって急いで澤村さんの方に向かう。
「すみません。はしゃぎました。」
こういう時はしっかり謝るものだとこみやん先輩に習った。こればっかりは僕も思う。
「いや別にいいけど…いや良くないけど!もしかして仲杜って前この高校にいたのか?」
「そうです。梟谷が母校で、あの黒髪の優しそーな身長の高い人が親戚の兄ちゃんです。」
「ならあの人か。前入ってきた時に上手な兄としてたって言ってた人は。」
「そうですそうです。兄ちゃんは凄いですよ。特に木兎先輩、木葉先輩とのコンビとか。」
「…名前はあとで聞いとくな。とりあえず荷物。教室におきに行くぞ。」
「はい…すんません。」
ひえー、笑ってない。顔も態度も言葉も一切笑ってない。恐ろしい主将。
「明希ー!またなー!!」
「木兎先輩すぐ来ますねー!兄ちゃんも!」
僕を見送ってくれる木兎先輩たち。
笑顔で手を振るみんなとは逆に烏野の先輩たちは怖い顔でこっちを見ている。恐ろしい。
とにかくバレーをしよう。あと1週間でやめるんだ。最後ぐらい楽しもう。