「そういや、苦手なもんはあるか?」
台所に立ち、さぁ料理を始めようという時にふと思い出した。苦手なものを入れてやろうと思っていたのだった。簡単に言うと意趣返しだ。
飯が食える程度には片付けられた机に体を向けて腰掛けたフランチェスカは、そう聞かれて首を捻って唸りだした。
「あまり、そういうものはないですね」
「うげー、良い子ちゃんじゃねぇか」
「ちゃん…」
ぼそり呟くフランチェスカをじっと見つめてみる。礼儀正しく見目麗しく、その上好き嫌いもない王子様とか、完全無欠じゃないか。そんな人間が存在するはずがない。昼飯に使ってやろうとかそういうの抜きに、俺は目の前の人間の欠点を見つけ出そうと躍起になっていた。
「本当に無いのか?」
「そうですねぇ…あ、猪肉のような固いお肉はあまり。あと、香りの強い物も得意ではないです。花の香りは好きですが」
「…なるほど」
ちらりと食材の山を見てみる。条件に当てはまりそうな物は…ない。まぁ、香りの強い物は好き嫌いがはっきり分かれるし、贈り物としては珍しい部類だろう。猪肉が無いのは意外だが。
「じゃ、逆に好きなもんは?」
「それは勿論、アンブローズ様…」
「ふざけろ」
「林檎です」
ちらと山を見てみる。…ある。
「あと、クロワッサン」
……ある。
「鹿や兎などの柔らかいお肉も好きです」
………ある。
怪しんだ俺が貰った食材を一つ一つ好きかどうか聞いてみた所、全てフランチェスカの好きな食材であることが判明した。「わぁ、全部私の好物ですね!公表していないものまで…嬉しいなぁ」なんて呑気に喜ぶフランチェスカとは裏腹に、村人達への恐怖心が芽生えた俺であった。
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