サイド ユメ
あたくしも幼い頃はまだこんな捻くれた子ではありませんでしたわ。
裕福な父と優しい母のもとに生まれ、優秀な兄と妹に挟まれていても、あたくしは楽しく、幸せに暮らしていました。
『ママー!あたしね、家族みんながいる絵を描いたの!』
『おー!すごく上手に描けたね〜!夢芽はすごいなぁ』
兄や妹のように賢くなくても、母はあたくしの絵を見ては褒めてくださいましたから。
……お世辞にも、上手いとは言えない絵でしたわね。
ですが、ある日父と母が大喧嘩した日、あたくしを取り巻いていた状況が一変いたしました。
母はあたくしに『ごめんね、夢芽』と言ったきり、家に二度と帰って来ませんでした。
父は別人のように厳しくなり、『あいつのようにはなるな』とあたくし達に言いましたわ。
……それが兄と妹ではなく、あたくしに向けられた言葉だと、何故すぐに気づかなかったのでしょう。
兄も妹も変わりましたわ。
あたくしより優秀であるにもかかわらず、いつも勉強に追われるようになりました。
当然、出来損ないのあたくしがついていけるはずもなく、毎日叱られる日々が続きましたわ。
どうすれば、あの楽しかった日々に戻れるのか、あたくしなりに考えましたの。
そこでたどり着いた答えが母に褒めてもらった絵を描くことでしたわ。
母も含めた家族五人の絵を描きました。
それが、父の逆鱗に触れたのでしょう。
『あいつのことは忘れろ!なんだこの下手糞な絵は!!こんなことする暇があるなら、勉強をするんだ!!』
父はあたくしの目の前で、一生懸命描いた絵をビリビリに破り捨てたのです。
あれ以来、絵は嫌いになりましたのよ。
いつしか、父はあたくしを見てくれなくなりました。
父に必要だったのは、天才である兄と妹なのだと気づいたあたくしは、あたくしを作り変えることにしたのです。
暗い性格を隠して明るくなりました。
目立つ喋り方も、素として話せるようにいたしました。
父の顔色を伺って、父の望み通りの動きをいたしました。
兄や妹の癖を見て、それを真似ようとしたこともありましたわ。
どれもこれも、効果はありませんでしたけど。
そして、これらの努力は最悪の形で表れましたわ。
あなたがすでに知っているように、相手の心の中を読み取る、という形で。
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