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「……確かに、今回は成功しました。
『魔力溜まり』解決に大きな道が開けたのも
喜ばしい事です。
ですが拙速過ぎます。
あれほど安全対策を怠らないようにと
言っておいたでしょうが」
あの『魔力溜まり』の濃度をより一層進める
実験の後、
私は王家直属の研究機関の研究員たちを
正座させて、お説教していた。
私の『無効化』が間に合ったのか、
助け出した研究員二名にこれといった
ケガも異常も無く―――
その後改めて他区画でも実験を再現したところ、
全ての区間で『魔力溜まり』の正常化を確認。
研究が成功、進んだ事を喜ぶ研究員たちに対し、
私はその場にいた全員を呼び寄せ、
リオレイ所長と一緒に、厳重注意をする事に
したのである。
「いくら『万能冒険者』……
シン殿がいるとはいえ、何をしても大丈夫、
というわけではないのだぞ?」
最高責任者が私の横で、傍目にも怒っているのが
わかる表情で静かに説教し、
「今回、人的被害は無く、五体満足だったから
良かったようなものの―――
もし手足を失っていたら、私では戻せません。
死んだら生き返らせる事は不可能です」
そこで私は大きく息を吐いて、
「ここで研究している皆さんは……
ウィンベル王国でも最高峰の頭脳集団で
ある事を自覚してください。
今回の研究も、私の予想を大きく上回る
ところまで進んでいました。
ここであなた方が全滅でもしたら、おそらく
王国は10年以上の停滞を余儀なくされて
いたでしょう。
それは死ぬ以上の不忠です」
一応、怒った後のフォローも忘れない。
一方的に彼らの面子を潰すのではなく、
『選ばれた人材』であり、『替えの効かない』
頭脳である事も付け加えておく。
まあ実際それはその通りなので、褒め過ぎという
事にはならないだろう。
「しかしどうしますかなシン殿。
この者たちの処遇は」
痩せた白髪の老人が、私に処分内容を求めて
来たので、
「えっと、私が決めてもいいんですか?」
「シン殿にご迷惑をおかけしたのですから。
最高責任者であるわしが認めますわい」
所長の言葉に私は両目を閉じて考え、
「いくつか考えられますが―――
ただそれは、王家の裁可を得てからにして
ください」
「そうですな。後で上奏しましょう」
一応、王家に許可を取ってからにして欲しいと
願い出る。
罰をこちらで決めて良いというが、それは
司法権への介入にもなりかねない。
いくら王族との仲が良好とはいえ、引くべき線は
引いておいた方がいいだろう。
「では、まず……
今後、1ヶ月間の実験を禁止」
私の言葉に研究員たちから、『そんな!?』
『殺生な!!』『我々に死ねと!?』と、
悲痛の叫びが上がる。
というかやっぱり命よりも研究なんだな、
この手の人たちって。
「その間に、今回の実験で得たデータを元に、
各方面から記録を集めて照合してください。
似たような記録―――
もしくは現象は無かったのか。
今回はこうして解決策が判明しましたが、
それまでにも同様の状況で解決に至った
ケースは無かったのか。
そういう見方もまた大切です」
すると今度は、『確かに……』『これを機に
過去の資料を今一度確認するか』『国外からも
記録を取り寄せよう』と、前向きに受け止める
声が上がる。
こうして、いったんは一段落して―――
私は施設を後にした。
「そうか……
そりゃあお疲れさん」
グレーの短髪に白髪交じりの、外見上は
アラフォーに見える男が、軽くため息をつく。
王都フォルロワにある冒険者ギルド本部に
戻った私は―――
経緯を一通りライさんに説明していた。
「でもこれで、『魔力溜まり』はシンさんに
頼らなくても、何とか出来るようになったん
ですよね?」
腰まで伸びた金髪の童顔の女性、
サシャさんと、
「土地開発はこれで大いに進むでしょう」
眼鏡をかけたミドルショートの黒髪の女性……
ジェレミエルさんがうなずく。
「ていうか、ライさんもお疲れのようですけど」
「あー、例の大ライラック国、それに
モンステラ聖皇国の件だ。
連合各国に緊急案件として会議をもちかけ、
その調整に追われていたんだ」
何せ、明確に敵対姿勢を見せている
国だからなあ。
戦争回避ではなく、下手をすれば最初から
開戦前提で対応しなけりゃならないし。
「じゃあ、近い内に魔力通信を使っての
会談になりますか」
「そうだな。
ただ、ランドルフ帝国も加わると思う。
多分近日中にティエラ王女様が、
メルビナ大教皇様から得られた詳細な情報を
持ってくるだろう。
それも含めて対応を話し合う事になる」
そういえば、こちらの大陸では主要各国間で
すでに、魔力通信の連絡網を敷いているが、
さすがに海を越えてまであのラインを
敷設するのは、現段階では不可能だ。
ただ『ゲート』では繋がっているので、
彼女が来るタイミングで会議を行う、
というのは合理的だろう。
「そうですか―――
ではこれで私は帰りますけど、ちょっと厨房を
お借りしてもいいですか?」
「ん? 何か作るのか?」
ライさんが聞き返してくると、私はうなずき、
「そろそろ、『見えない部隊』の人たちも
帰ってくる頃だと思いますので。
少し小腹を満たせるようなものを。
ちょうど施設から、養殖に成功したボーアや
バイソンのお肉を頂いたので」
「おー、スマンな。
あいつらも喜ぶだろう」
そこで私は彼らのために軽食を作った後、
王都・フォルロワから『ゲート』を通って、
公都『ヤマト』へと帰還した。
「……という事があってね。
あ、それと―――
もう魔物の養殖と巨大化は実用化可能だって。
2・3ヶ月後にはそのお肉が市場に出回る
予定だってさ」
自宅の屋敷に戻った私は夕食時、家族と今日の
出来事を共有する。
「もー、あの研究所の人たちは」
「しかし、実験禁止イコール死ねって
とらえるとはのう。
シャンタルもそうだが、研究バカというのは
人間も人外も関係ないものなのだな」
和風・洋風の顔立ちの妻二人が、呆れるような
声を出す。
「あれ? じゃあ今食べているこのお肉って」
中学生くらいの、ショートカットの娘が
フォークに刺したお肉を赤い瞳で見つめる。
「ああ、それがそうだよ。
王都周辺の養殖施設から出荷されたものだ」
家に帰ってから、自らの手で料理したのだが、
野生のボーアやバイソンの肉とそん色ない
味だった。
公都で出回っている肉は、一般的には魔物鳥
『プルラン』のものだけど、今後は他の肉も
普通に食べられるようになっていくだろう。
「あ、そうだ!
シン、この後予定とかある?」
不意にメルが聞いてきたので、
「ん? いや別に無いな。
クアートル大陸の事も一段落したし、
しばらくは」
「では明日、我らにちと付き合ってもらえぬか?
少々面倒ごとが起きてのう」
アルテリーゼが続けて語り―――
私は妻たちの話に耳を傾けた。
「こんにちは。
公都『ヤマト』婦人会にようこそ!」
「あなたがメルさん、アルテリーゼさんの夫、
シンさんですね!
お噂はかねがね……!」
妻たちに連れられて到着した先は―――
元スラム地区。
それなりに開発は進んでいるものの、
やはり他地区と比べればまだまだ発展途上という
感じだ。
その中でも比較的大きな建物に通され、
私はメルとアルテリーゼと一緒に席に着く。
(ラッチは『ガッコウ』)
しかし婦人会というだけあって……
メンバーは妙齢の女性ばかり。
獣人族も多少混ざってはいるが、多分、
男は自分だけだろう。
「お招き頂きました、シンです。
それでご用件というのは」
私がさっそく彼女たちの用事を聞くと、
「実は、この近辺でも児童預かり所や
他施設が次々と出来上がっております。
その事でご相談したい事がありまして」
やや困り顔で、この中のリーダー格であろう
アラサーの女性が話を切り出す。
しかし土地問題に絡む事だったら―――
私ではなく公都長代理やドーン伯爵様に頼む
案件だと思うんだけど……
それとも、彼らに話を付けて欲しいという
事かな?
と思っていると他のメンバーから、
「ええと、それまでの児童預かり所では、
子供の送り迎えにゴーレムが使われて
いますよね?」
児童預かり所に通うのは基本的に幼児、
日本でいうところの未就学児だ。
だからあの一反木綿―――
もとい布ゴーレムとレムちゃんに、子供たちの
送迎をしてもらっているのだが、
「そうですが、それがどうかしましたか?」
そこで両隣りに座っている妻たちが、
軽く咳払いをしたかと思うと、
「あれ、公都の子供たちの憧れだったんだって」
「それで、児童預かり所に自分たちも通えると
思ったら、何で自分たちはアレに乗れないの?
って騒いでいるようでのう」
二人の説明に、私は『あ~……』と両目を
閉じた。
「じゃあ、最初は獣人族の方が動いて
くれたんですか」
私の確認に、獣人族の女性数名がうなずく。
何でも話によると、あの布ゴーレムでの
子供たちの移動は―――
各地を繋げていた陸橋の上を移動していた時、
旧スラム地区からよく見えていたという。
そして再開発が始まり、自分たちが住む土地にも
児童預かり所が出来るという話が出た時、
子供たちは『自分たちもアレに乗れる!』と
大喜びしたそうだ。
しかし、アレはそもそも中央地区にあった
児童預かり所に通うためのもの。
ましてや人口が一気に膨れ上がった公都で、
全ての子供たちをあの布ゴーレムだけで
運ぶのはどう考えても無理な話なのだが、
そんな事情は子供たちは知らないし、
知ったところで納得しないのが子供という
ものだ。
布ゴーレムに乗れないと知った子供たちは、
泣いてわめいて荒ぶって……
それを見かねた獣人族の女性たちが、
カゴのような物を作って乗せてあげたり、
地球の保育園で使うお散歩カーのような物で、
通うのを手伝ってあげたそうなのだが、
それでも、空を飛んで運んでもらえるという
魅力は諦め切れないらしく―――
『やっぱりあっちがいいー!!』と不満が
絶えず、
困り果てた彼女たちは婦人会を通して、
私に助けを求めたというわけだ。
「う~ん……
アレはもともと、児童預かり所が一ヶ所だけ
だった時のものですからねえ。
でも確かに、子供たちにしてみれば―――
『どうして僕たちはダメなの?』というのは
当然の疑問でしょうし」
そして、これを子供のワガママというのは酷だ。
それに旧スラム地区の住人を受け入れる際、
平等に扱うとの通達を出している。
だとすれば、ここの子供たちだけ……
あの布ゴーレムに乗れない、という事態は
避けなければならないだろう。
「ドラゴンやワイバーンで―――
というのはさすがに無理だよねえ」
「緊急時用でもあるし、そもそも低空飛行じゃ
なくなるからなあ。
それに公都内だけで使うには、大き過ぎる
存在でもある」
まずメルの言葉に私は答え、
「他の空を飛べる種族に頼むのはどうじゃ?
ハーピー族や天人族、白翼族もいたじゃろ」
「可能かも知れないけど、羽ばたく時結構な
風が発生するんだよね。
一人一人ならともかく、安定して複数を
運べるとは思えない。
そう考えるとあの布ゴーレムって、
よく出来た乗り物だと思う」
次に出たアルテリーゼの提案も、私はやんわりと
否定する。
「……とにかく、一時預かりとさせて
頂けませんか?
何とか解決策を考えてみますので」
「よ、よろしくお願いします!!」
リーダー格の女性が深々と頭を下げ―――
私は周囲の方々に会釈すると、子供たちの
移動問題に取り掛かる事となった。
「まあ……
それは大変でしたねえ」
翌日の昼、私は中央地区の児童預かり所で、
そこの所長である五十代の上品そうな婦人と、
テーブルを挟んで話していた。
彼女は薄い赤色の髪を少し揺らすと、
「でも確かに、あの布ゴーレムに乗る時、
子供たちは駆けて行きますからねえ。
気持ちがわかるだけ、同情しますわ」
「あー、やっぱり子供は喜びますよねえ」
私は出されたお茶に口を付ける。
「それで、どうするんですか?
何か良い案が」
「それがですね―――
あの布ゴーレムか、それに似たゴーレムを
作る事が出来ないか、パック夫妻に相談に
行ったんですよ。
でも、自我の無いゴーレム核を使用する事に
なるし、その場合はただ本当に、決められた
ルートを飛行するだけのものになるらしくて」
つまり、ある程度子供たちを待つとか、
人を避けて飛ぶとか……
そういう運用は出来ない、という事だ。
「あらまあ、そういう事でしたら―――
子供たちを乗せる乗り物としては不向き
ですわね」
「そうなんですよ。
オマケにそれで何かスイッチが入ったのか、
2人とも開発の方へ行ってしまって。
ただ、近い内に解決出来るようなものでは
ないでしょうから……」
そう話していると、何かがツンツン、と
足をつついてきた。
足元を見ると、ここで保護されている
片羽のハニー・ホーネットがいて、
(■152話
はじめての きょじゅうく(じんがい)参照)
「おお、君も元気だった?」
ぬいぐるみのように私が抱き上げると、
ノックの音が聞こえ、
「失礼します。あっ、シンさん」
「%◎&@▲※○」
そこに現れたのは、グリーンのサラサラした
髪と、その間からエメラルドの瞳をのぞかせる
少年―――
土精霊様と、
茶髪のロングカールをした、半人半植物の少女、
プリムちゃんの姿であった。
「確かに、ボクがふわふわと浮かんでいる
だけでも、うらやましそうな顔で見上げて
いますからね」
「!%△#%◎&@□」
「空を飛びたいなど理解出来ない、
と言っています」
精霊の少年を通訳を任せながら、今回の件を
二人にも説明してみたのだが、
何せ一方は植物の亜人だからなあ。
ある意味相性が悪過ぎる。
大地に根を張って生きるのが基本の生活だし。
「#▲※○◎&@□……
%△#%◎&@□▲」
すると、彼女は片羽のハニー・ホーネットを
抱きつつ撫でながら、何か話す。
「土精霊様、プリムちゃんは何と言って
いるんです?」
リベラ所長が彼に質問すると、
「ええと―――
こちらにお世話なって長いし、何とか
してあげてもいい、と」
「!? 何とかなるんですか!?」
私が思わず身を乗り出すと、同時に彼女は
抱いているハニー・ホーネットをグイッ、
とこちらに差し出した。
「おお、こりゃすごいな」
「またとんでもない物を思いついたッスね、
シンさんは」
アラフィフの、白髪交じりの筋肉質の男……
ギルド長と、
褐色肌の青年で次期ギルド長である、レイド君が
その光景を見て感想を漏らす。
彼らの視線の先にはハニー・ホーネットが
四体、二メートル×四メートルほどの長方形の
箱の四隅から伸びたロープを、体につけた器具に
付けて飛び、
さらにその箱には、五才から八才くらいの
子供たちが十数名ほど乗っていて、
「きゃー!! 飛んだー!!」
「浮かんでるー! すごーい!!」
「これ動くのー!?」
実際、地上一メートル程度の高さではあるが、
子供たちが叫んだかと思うと、ゆっくりと
浮かんだまま前進し、
「すげー!!」
「飛んでるー!」
と、乗っている子供たちは大喜びしていた。
「これが、旧スラム地区のチビたちの
足になるわけか」
「いやー、これは喜ぶッスよ」
土精霊様とプリムちゃんが訪ねて来た後、
その後すぐ彼女は私を、ハニー・ホーネットの
巣まで連れて行き、
そして交渉してくれたのである。
「農業地区の一角に、ハニー・ホーネットの巣が
あるんですけど……
そこでプリムちゃんが説得してくれました」
「どうやって?」
ジャンさんが不思議そうにたずねてくる。
「彼らの巣は当然公都内にあるわけですが、
『お前たちの巣を襲う者など、この公都には
いない』
『だからヒマなヤツは協力しろ』
と言ったそうです」
「おー……」
何とも言えない表情でレイド君がうなる。
それに、タイガー・ワスプに襲われて以来、
郊外に出るにも護衛付きになった事もあり、
敵もおらず、環境も万全という事で―――
ハニー・ホーネットの数は公都に来た時の
三倍以上になっているという。
そこで、巣の守りに就いている余剰人員ならぬ
余剰ハチに、話を持ち掛けたのだ。
ちなみに謝礼は果物ジュース等である。
「もともと、児童預かり所では
ハニー・ホーネットにぶら下がって、
遊ぶ子も多かったですからね。
関係は良好なので、すんなり説得に
応じてくれたんだと思います。
あとは護衛というか案内に、大人を
つければ大丈夫でしょう」
「箱の下には綿入りの布がついているのか。
多少、手荒に扱っても大丈夫そうだな」
「子供たちが乗るものッスからね。
それくらいがいいッス」
その後、一週間くらいかけて……
ハニー・ホーネットたちの訓練は進み、
『蜂箱』という名で児童預かり所の
送迎用として運用される事が決定。
取り敢えず五十個ほどの『蜂箱』が、最新の送迎用
移動手段として、旧スラム地区へ送り込まれた。
一方で、ウィンベル王国・ラーシュ陛下は―――
魔力通信機を使っての、同盟諸国との緊急会談に
臨んでいた。
ライオネルの読み通り、ティエラ王女様がより
詳細な情報を持って王国を訪ね、
彼女自身もランドルフ帝国代表として、
その会談に参加したのである。
「……これから話す事は、現在判明している
事だけでございます。
亜人・人外を兵士ではなく兵器として扱う、
そのための施設がモンステラ聖皇国に存在
するのです!
そこでは女子供も含めて―――
非道な行いが……!」
彼女の訴えを、各国の王族・王家は重苦しい
雰囲気の中、受け止めるが、
「その施設というか考えは、大ライラック国と
モンステラ聖皇国―――
どちらの主導によるものか?」
「聖皇国のレオゾ枢機卿によるものだそうです。
大ライラック国は兵器の素材として、
周辺地域から各種族の奴隷を提供して
いるとか」
チエゴ国の国王の問いに、各国の王家から悲嘆の
声が漏れる。
「宗教国が主導とは」
「世も末だな」
クワイ国・ライシェ国の王も呆れるような
言葉を吐き、
「ランドルフ帝国では現在……
この施設の特定と分析に全力を挙げています。
この施設からの奴隷救出は―――
メルビナ大教皇様の要望でもありますれば」
「そういえば、大教皇様は帝国に亡命して
いるのでしたな。
彼から、本国へ呼びかける事は出来ないので
しょうか」
ユラン国のアドベグ陛下が意見を出すも、
「難しいでしょうな。
下手をすれば、指導者が誘拐されたと逆に
ランドルフ帝国を非難するかも知れません。
それが開戦の口実になる可能性も」
アイゼン王国の国王が、悲観的かつ現実に
起こり得る予測を告げる。
「恐らく……
大ライラック国もモンステラ聖皇国も、
戦争を前提に動いているのであろうな。
こちらからうかつに動けば、それを幸いにと
仕掛けてくる事は十分考えられる」
魔王・マギア様も組織のトップとして、
最悪の状況を想定して語る。
「そんな……
何か手は無いのですか?」
ティエラ王女から悲痛な声で求められるも、
各国のトップは簡単に決断はしないし出来ない。
「ランドルフ帝国は、戦争になる事態を
想定しておられますか?」
ラーシュ陛下の問いに彼女は困惑しながらも、
「防衛は止む無しと考えておりますが、
あの二ヶ国相手となりますと―――
ドラセナ連邦とはつい先日、同盟意思を
確認したばかりなので、連携が取れるとは
思っておりません。
せめてどちらか一ヶ国であれば……」
連邦が帝国と組めば二対二に持ち込めるが、
付け焼き刃の同盟で、どこまで立ち向かえるか。
さらに立地的にはドラセナ連邦の方が先に
攻め込まれる。
そうなると、救援のため遠征しなければ
ならない。
国の防御を固めているだけにはいかなく
なるのだ。
「メルビナ大教皇様の救出のように―――
その施設の奴隷を解放する事は出来ないか?
施設の破壊ではなく、それでいて救出も
出来る人物……
それはやはり―――」
新生アノーミア連邦宗主国、マルズ国王・
トニトルスが、『万能冒険者』を使う事を
示唆する。
「だが、前回の救出は教皇様1人。
それにドラセナ連邦の手引きもあったと聞く。
同じように行くものか?」
「だが、『境外の民』であるシン殿も、
この件については苦々しく思っているで
あろう」
「シン殿は幾度も難問を解決して来た。
ラーシュ陛下よ。
彼に話を通してはもらえぬか?」
「うむ。
我ら魔族も協力は惜しまぬゆえ」
各国の王族が一人の人物に可能性を見出し、
「……わかりました。
いずれにしろこの件は、シン殿に意見を
伺うつもりでありましたので。
可能であれば各国共同の極秘提案にて、
亜人・人外解放作戦を依頼します」
こうして同盟諸国の意見はまとまり―――
一人の男に希望が託された。