(あぁ、退屈だわ。)
闘技場で男同士を殺し合わせながら女王ロカはふわりとあくびをした。
ロカは国民の血税で闘技場を作り、男同士を殺し合わせ、生き残った男に自らを抱かせた後処刑するという極めて残虐非道な行いを
繰り返していた。
『悪政のロカの淫乱な性分がついに現れたのだ。』
シトラス王国の国民達はそう言って女王ロカの悪政に憤っていた。
だが、ロカの腹の内は 国民達の想像よりも遥かにドス黒かった。
(優秀な手駒がほしい、前国王である夫バルを毒殺した犯人を見つけるための、聡明で忠実な手駒が欲しい。)
男どもを素手で殺し合わせて自らを抱かせるのも手駒探しの一環だった。
長年の経験から ロカは人間の本性をさらす瞬間は二つあることを熟知していた。
それはセックスの時と死ぬ直前だ。
ロカはそれらの状況を無理矢理作りだし、
抱かせては殺しを繰り返して優秀な手駒を
探していた。
ぐちゃり、と酷く不快な音が響いた。男達の
殺し合いに決着がついた。
勝ったのは細身で細目の不気味な男の方だった。
ロカは男達の殺し合いをつぶさに観察していた。
細目の男は軽い身のこなしで相手の目と喉を突き悶絶させた。
あの足捌きは剣術の類いだろう。
本来は剣術家なのかもしれない。
そして細目の男は相手の命乞いを一通り聞いた後首を横に振り相手の頭蓋骨をひと思いに
踏み潰した。
見事な腕前だ、とロカは思った。
だがロカに とって武術の心得があるかはどうでも良かった。
重要なのは聡明であるかと、忠実であるかだった。
女王ロカの秘密の快楽部屋に連れてこられた
細目の男は跪き、開口一番にこう言った。
「誠に申し訳ありません、女王陛下。私はゲイなので女王様を満足させることはかなわないかと存じあげます。さすればどうぞひと思いに処刑していただく存じあげます。」
ロカは細目の男の顔を観察し、この男の発言の真意を探った。
この男、死にたい訳ではない。寧ろその逆、生に執着した顔をしている。
様々な人間を処刑し、人々の顔を観察し続けてきたロカは 細目の男の顔を見てそう認識した。
生き延びるためにこの状況から逃れる方法を探している。
そのために思考を張り巡らし発した第一声が これであれば…..。
(この男…..、少しは使えそうね。)
ロカはそう思い細目の男を尋問することにした。
【尋問タイム 開始】
「命令よ、私は嘘がきらいなの。今からいくつか質問するから嘘偽りなく答えて頂戴。」
そう言いながらロカは細目の男をより深く知るために細目の男の男性器に手を添え軽く愛撫してみせた。
(ふむ、確かに感じてはいるけど勃起はしていないわね。ゲイというのもあながち嘘ではないか。)
と思いこれ以上は時間の無駄なので愛撫をやめた。快楽地獄から解放された細目の男はゼエゼエと息を切らし、呼吸を整えてこういった。
「なんなりとお聞きくだせぇ。」
男はそう言って少し砕けた口調で答えた。
極度の快楽による酩酊状態で、女王の前でかしこ まってた男は素の喋り方になったようだった。
ロカは男への尋問を続けた。
「あなた、先ほどの戦い…..見事な足捌きだったわね。職業は剣士かなにかかしら?」
女王はじっと細目の男を見つめた。
男が少しでも嘘をつく素振りを見せたら処刑するつもりだった。
「いえ…私はしがない探偵でさぁ、シトラス王国内の都市部で細々と探偵業をやってるんです。探偵ってのは何かと厄介事に巻き込まれるもんでぇ生き延びるために見よう見まねで 剣術を学んだんでさぁ。」
媚びへつらうように男が笑う。意外な答えに
ロカはこの男ならもしかしたら、と思い尋問
を続けた。
「あら、あなた探偵さんなのねぇ。面白いわ、試しに何か推理を披露して頂戴な。例えば…..私が今何を一番欲しているか当ててごらんなさい?」
男性器、などという答えが出たら即刻処刑するつもりだった。無能な探偵に用はないからだ。
「そうでさぁねぇ…..あっしは何分ポンコツなもんで、間違ってたらひじょーにもうしわけねぇんですがぁ。」
媚びへつらいながら自称探偵がそう言うと
「王女様はバルザード十二世様を殺した犯人を探してるんじゃあないですかぁ?」
図星を当てられても、ロカはポーカーフェイスを貫いた。
当てずっぽうの可能性があるからだ。
「面白い推理ね、理由を言って
ごらんなさい。」
ロカは自称探偵の推理を促した。
「この快楽部屋に連れられてこられてから
ずっと、なぜ王女様が男どもを殺しあわせてるのか考えてたんでさぁ。どうも性欲が目当て じゃない。なぜなら性欲が原因ならあっしが ゲイで王女様を悦ばせられなかった時点で あっしは処刑されているはずだぁ、違いますかい?」
(ある程度穴のある推理だけど筋道は通ってるわね。)
ロカはそう思い探偵の推理を黙って聞いていた。
「なら女王様は何が目的なのか?気晴らし?の割には私に推理を与える機会を与えたりとどこか必死さのようなものを感じる。そこであっしはピンと来たんでさぁ。この表情は夫や子供を殺された依頼主が犯人を探すように依頼する時に似てるなぁ。と、そこであっしは思い出しましたよー。
【バルザード十二世国王陛下毒殺事件】。」
その単語を聞いた時、ロカの眉がピクリと動いた。
ロカの表情を見て探偵は自分の推理が正しいことを確信する。
「あっしがここから生きて帰る道が見えてきましたねぇ。女王陛下があっしに求めているものはこうでさぁ。【王であり夫であったバルザード陛下を毒殺した犯人、そしてそれを計画した犯人を見つけてほしい】この推理が違えばあっしのことをすぐにでも処刑してくだせぇ。」
探偵の推理を聞いて女王ロカは悪辣な笑みを
浮かべた。
(この男、使える….!!!)
「…..及第点ね、ここからの返答しだいで
処刑を 見逃してあげる。」
女王ロカの言葉に、探偵はフーッと緊張の
ほぐれたような吐息を吐いた。そして、
「なんなりと。」と騎士のように膝をつきロカの前に跪いた。
【尋問タイム 終了】
(手駒にするための条件である聡明さは
及第点、あとは忠実さね。)
そう思いながら女王ロカは目の前の探偵の
価値を見定めた。
「あなたのいう通り私は夫を殺した犯人を
探してるの。この手で復讐するためにね。
私の手で容疑者は4人まで絞ってあるわ。
あなたにしてほしいのは証拠探しと
容疑者の弱味を握ること、可能かしら?」
ロカの言葉に探偵は
「もっちろんでさぁ!!!死に物狂いで探させて
もらいやす!!!」
と媚びるような目でロカを見た。ここから
生き延びるのに必死、といった様子だ。
「犯人を捕まえれば女王として貴方の望む
願いを一つ叶えてあげるわ。」
とロカは言った。
実際、ロカは女王としてこの国の権力の半分を牛耳っていた。
一般庶民の チャチな願いを叶えることなど造作もないだろう。
探偵は少し間を開けて。
「いやいやいや、とんでもございやせんぜぇ。こうして女王様からのお慈悲をいただけるだけで十分でさぁ!!!」
と言った。
女王は探偵の顔をじっと見つめる。 嘘は言ってないようだった。
(随分と無欲なのね….だがこれでは信用する材料にはなり得ないわ。)
とロカは少し悩んだ。
無欲であることと忠実であることはイコールではない、と女王であるロカは身に染みて痛感していたからだ。
ロカは 探偵の金玉を握り潰さんばかりの勢いで 握りこう言った。
「死にたくなければあなたの本性を曝しなさい。」
探偵の答えを待つため、ロカは金玉から手を離した。
探偵はまた膝をつき、
「では、国の領地の一部をいただき、そこに
大きな丸太小屋を建てさせてくだせぇ。そこに国中から選りすぐった美少年100人を呼び!! そこで彼らとプラトニックで幸福な暮らしさせていただきてぇです!! 何卒ッ!!何卒~!!!」
と言った。
「…….ふむ、忠実さも及第点ね。そんな願い、女王である私ならいくらでも叶えてあげられるわ。」
そう言ってロカは口元を隠して笑った。
(ようやく見つかった!!!バルを殺した犯人を見つける駒が!!!)
ロカの瞳の奥の復讐心の炎が青く燃えていた。
(夫を殺した犯人は、必ず見つけだして火あぶりにしてやる。その者が最も苦しむやり方で 全てを奪ってやる。)
『悪政のロカ』は高らかに笑った。
「…….探偵さん。貴方の名前を
教えて頂戴。」
ロカはそう言って探偵の頭を撫でた。その
快感はホモである探偵ですら快楽を覚えるほど 心地のよいものだった。
「あっしは、女王様の復讐のためにこの身を
捧げる所存でさぁッ!!!なんなりと女王陛下の 好きな呼び方で呼んでくだせぇ!!!」
探偵は跪き女王ロカに忠誠を誓った。
「気に入ったわ、探偵さん。今日から貴方は
ナイト•クラウンよ。道化として城に紛れ、
城内にいる犯人の証拠を探しだし、騎士として私に絶対の忠誠を誓いなさい!!!」
こうして、女王ロカとロカの忠臣ナイト•クラウンによる【バルザード十二世毒殺事件】の 犯人探しが始まるのだった。
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